第11話 クリスマス料理

「せんぱい、今年のクリスマスイブなにかします? どっか食べに行ったり」

 ハロウィンが終わった直後くらいから世間はクリスマスムード一色だった。

 いくら十一月になにもないからって、さすがに気が早すぎじゃない? とあたしは思っている。

 それに、十一月にもちゃんとイベントはあるよ。ほら、えーと、うん。ボジョレーヌーボーの解禁とか。

「今年は家でゆっくりしないか? 俺がクリスマスっぽい料理作るよ」

「せっ……せんぱいの料理が食べられるんですか! やった~~~~!」

 ものぐさなあたしたちは普段あまり料理をしないので、その提案は嬉しかった。せんぱい、料理スキル高いんだよね。

「でも、クリスマスっぽい料理っていったい何を作るんですか?」

「そうだな、もうアイデアはあるんだけど……サプライズにしたいから、当日の調理中は一人にしてもらえる?」

「せんぱいってもしかしてあたしが昔助けた鶴だったりします?」

 手伝いたい気持ちや一緒にいたい気持ちはあったけれど、料理長が一人にしてほしいというならその指示に従うしかないか。あたしはしぶしぶ「わかりました」と言った。


 そしてクリスマス当日。

 クリスマスっぽい料理ってなんだろう、鳥の丸焼きとかかなあ。とか考えながらベッドでゲームをすること数時間、台所のほうからいい匂いが漂ってきた。

「じんぐるべ~る じんぐるべ~る」

 と珍しくせんぱいが陽気な鼻歌を口ずさんでいる。

「じんぐ~お~ざうぇ~い」

 しかも英語版。

「もしかして完成ですか?」

「ああ、お待たせ。運ぶの手伝ってくれ」

 あたしは机の上を片付けて、せんぱいと一緒にお皿を運ぶ。

 皿の上に載っていたのは、鳥の丸焼きではなく、全然見たことのない洋風の料理だった。

 おそらくマッシュポテトの上に、何らかの肉とピクルスが乗っていて、ベリー系のソースが掛かっている。

「……めっちゃオシャレですね、これなんですか?」

「ポロン・カリストゥス」

「なんて?」

「ポロン・カリストゥス」

「……」

 なんて?

 メニュー名を聞いても全くぴんと来なかったあたしは大人しく席について、せんぱいと乾杯をした。

「メリークリスマス!」

「メリークリスマス!」

 せんぱいは飲み物を一口飲んで、『ポロンなんとか』の皿をあたしのほうへ滑らす。

「おあがりよ!」

「最近食戟のソーマでも読んだんですか?」

 あたしはマッシュポテトと肉を取り分けて、いざ実食。


「……!!」

 美味しい!

 ちょっと臭みのある謎の肉とベリーソースが最高の調和を生んでいて、それをマッシュポテトが優しく包み込んでいる。

「め……めちゃくちゃ美味しいです! これなんなんですか?」

「よかった~! や、だから、ポロン・カリストゥス」

「ポロン・カリストゥス」

「そうそう」

 満面の笑みでそう答えるので、あたしは質問を変える。

「これ、何の肉なんですか?」

「あ~、いわゆるジビエ?」

「なんで疑問形なんですか……」

 ってかちょっと待って?

 クリスマスっぽい料理?

 謎のジビエ肉?

「……………………もしかして」

「正解! 正解した亜湖にはミニトマトをあげよう」

 せんぱいはミニトマトをつまんであたしのポロン・カリストゥスの上に乗せた。


 真っ赤なお鼻の~ じゃないよ!


<あたしとせんぱいとクリスマス>

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あたしのことが大好きなせんぱいとせんぱいのことがだいすきなあたし 姫路 りしゅう @uselesstimegs

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ