ザリガニ王国の子孫 👸
上月くるを
ザリガニ王国の子孫 👸
むかし、むかし。
武蔵野の湧き水の源泉よりもずっと下のほうに、ザリガニ王国がありました。
代々「カニ」を名乗る王さま一族は、そのころで16代つづいておりました。
暗闇王といわれたカニ14世のころ、ザリガニ王国はもっとも繁栄をきわめ、
――余が国家である。
そんな傲りが王さまの口から飛び出すほど、王権国家は安泰だったのです。👑
*
でも、長年にわたる浪費が祟り、財政の逼迫が露わになり始めたとき王位に就いたカニ15世は、毎日おもしろおかしくあそび暮らすだけで国家の
そんなツケを一身に背負うことになったのが、15世の孫のカニ16世でした。
頭脳明晰にして善良で温厚、錠前づくりと狩りだけが趣味だというカニ16世は、となりのミナミザリガニ王国から嫁いで来た王妃のエビー・アントワネットとともに健全な王国の再建に手を尽しましたが、時代の波が宮殿を土台からさらったのです。
ちなみに、派手であそび好き、飽きっぽい性格で、生涯にただ1冊の本も最後まで読み通さなかったという伝説を残した王妃も、根は善良な好人物(好カニ)でした。
*
いくら才能があっても、どんなに努力しても、生まれついた家の身分に一生甘んじなければならないことや、食うや食わずの最下層からは重い税金を取り立てながら、裕福な貴族は非課税であることなど、長い王政のあいだに積りに積った民衆の不満が風船のようにふくらみ、とうとう革命という嵐になって王家におそいかかりました。
民衆の蜂起をベッドの中で聞いたカニ16世が「暴動が起きたのか」と訊ねると、侍従は恭しく「いいえ、陛下、暴動ではなく革命でございます」と答えたそうです。
あそび好きだった先帝とちがい、賢く温情に満ちたカニ16世は民衆から慕われていましたが、扇動に揺れ動く群集心理が夫妻を処刑台に追いやることになりました。
先祖代々虐げられつづけて来た反動のエネルギーを革命に注ぎこんだ民衆は、まだ幼い王女のエビー・テレーズ&王太子のカニ・シャルルの生命までも貪欲に欲しがりましたが、哀れに思った家臣の取り計らいで、王宮を脱け出すことに成功しました。
そのとき、いたいけない姪と甥を身を挺して守ったのが、カニ16世の末の妹で、義姉のエビー・アントワネットを母とも慕っていたマダム・エリザベートでした。
****
こうして、ミルフィーユのような地層のはるか下の下のほうから、命からがら這い上って来たザリガニ一族は、武蔵野の清冽な湧き水に棲まうようになったのです。👑
あなたが歩いている足許にも、カニ王族の末裔が這っているかもしれませんね。🐾
ザリガニ王国の子孫 👸 上月くるを @kurutan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます