展開や発想そのものでなく、それを物語る技巧の面白さ

 情勢の不安定などこかの国、屋敷を襲撃され半ば死を待つ状況に置かれた、とある政府関係者の物語。

 シリアスな主題の現代ドラマです。
 分量のコンパクトさ含め、おそらくショートショート的な趣のお話……のはずなのですが、でも丁寧かつ繊細な筆致があらゆるものを底上げしている凄まじい作品。
 大変面白かったです。このかっちりした読み応え!

 これは個人的かつ勝手な直感なのですけれど、きっと単純なあらすじにしちゃうとどこに魅力があるのか分かりにくいであろうお話で、だからこそ「すごい」と唸らされました。
 展開や設定など、発想面での面白みではなく、「それを物語として仕上げる」という過程の、その技量がとてつもない。
 小説にはいろいろな面白さがあると思うのですけれど、こういうタイプの面白みは、もう読んでるだけでワクワクしちゃうから本当にたまりません。

 ネタバレになるので詳細には触れませんが、結末が好きです。
 また、その結末に至るまでの物語の積み方、「読者に何を感じさせるか」と、そのための語り方も。
 あと単純に好きな文章という意味なら、第一話に出てきた「砂の塔」のくだりが最高でした。叙述としての美しさもあるけど、短く的確に語ることの美しさまで……すごい……。

 本当、好きなところがいっぱいあるお話。面白かったのでおすすめです。主題は真面目でシリアスといっても、決して難しくはないから安心して読めますよ〜!