25 原稿

 右手の小指から手首の付け根にかけての側面あたりが、真っ黒にすすけているのに気付いてズボンで擦った。


 左手には十回以上書き直し、やっとパソコンに清書を打ち出した原稿の入った封筒。今から郵便ポストに投函する。


 平凡な人間が、平凡すぎる事を、血反吐も吐けずに曝け出したモノ。一人の少年が現れて消えるまでの話。王道の部類に入るストーリー展開だと自覚している。


 自分で自分に祈るように、原稿をコトリと落とし入れた。


 きっと見向きもされない。分かってる、分かってるけど誰かに届けよ。


 今もなお、最後にトキコの鎌がひらめいた光景が頭の隅で再生され続けている。


 せめて責任転嫁をしないよう。まずは一つ勝負をするんだ。多分負け確だけど、いいよ。


 夢を誰かに肩代わりさせないように。


 一歩先に谷底があった時、誰かの背を押すのなら自分も共に落ちる覚悟を持てるように。


 目の前に崖がそびえ立つ時、誰かを踏み台にする人間にならずにいられるように。




〈完〉





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祈りむしがとんでいく @kazura1441

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