24 子落とし その4

 母にかじられ鎌を失った少女は、兄と入れ替わるように父の元に戻って来た。


 父親は少女――ナミコとの再会を喜んだ。


 小学校にも馴染んできたつもりだが、友達面をする同級生に疲れてきた。通話の向こうについ吐き捨ててしまった。


「ウザいシネ」


 父が呼応するように「ウザいのはそっちだろう、シネ」と発言した。ナミコに向かって言った、のだと思う。


 父は褒められるのを待つ子供のように無邪気な顔だった。実際、最愛の娘に気に入られるために娘の言葉遣いを真似してみせただけらしい。


 ナミコの顔が歪んだ。


 ――この生活は試練なんかじゃないのかもしれない、と思った。

 ゲームクリアすればファンファーレが鳴りたたえられるようなモノではなく、もっと終わりのない――。


 慌てて父はテレビを点けた。若手のスポーツ選手の電撃結婚の報道だった。


「あーこいつ本当にウザいなシネって感じ。本職はどうした。ヘラヘラしやがって」


 そうぼやいてみせて娘の表情を窺った。


 ナミコは言葉にならないまま口を動かし、すぐに噛み殺した。


 玄関の傘立てにひっそりと収まっている、兄の白い日傘に目をやった。


 日傘だと思っていたそれは晴雨兼用傘だった。

 晴れでも雨でもほんの一部だけ世界から自分を隠せる傘だった。





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