祈りむしがとんでいく

23 祈りむし

　トキコとは、あの日別れてそれきりだった。

　一度メールで『今、お母さんと一緒にいるんだ』と告げられ、翌日にはアドレスが消えていた。

　トキコによれば母親はカマキリだという。

　トキコの変身後の体色から考えるに、蘭の花に擬態（ぎたい）するハナカマキリではないかと思う。

　ハナカマキリは幼虫と成虫で捕食方法が異なるらしい。幼虫は花になりすまし、獲物を誘き寄せる匂いを発することで餌を得る。

　しかし成虫は姿があまり蘭の花に似ていない。だから花に隠れて獲物を待ち伏せての狩りをする。

　狩りが出来なければ生き延びられない。

　それでタイヨウは邪推した。

　トキコの母親は、『獅子の子落とし』の獅子だったのではないか。

　蹴落とされた崖下はトキコの父親が支配するあの環境そのものだったのではないか。

　獅子の子が手に入れる爪と牙が、トキコにとっての鎌だったのではないか。