トラウマへと目を向けようとする、人の心理の物語。

本作をサイコ・ミステリー、サイコ・サスペンスとくくってしまうと、ややおどろおどろしいような誤解を招く表現ですが、丁寧に「心理の事件」を描いていく物語です。

カウンセラーである主人公・長澤麻子も、そのクライアントの少年・羽藤柚希も、それぞれ負ったトラウマは当然ながら過去のものです。しかし二人の出会いから不可解な事件が起きはじめ、様々な人間ドラマや羽藤の語る過去の疑惑も不穏な影を濃くしていきます。

混乱した状況、次第に明かされていく登場人物の過去。全編を主人公の徹底した一人称で語られ、話の進むごとに重苦しい雰囲気をも帯びていく作品ですが、その丁寧な描写や問題に向き合おうと絶えず主人公が内省するカウンセラーとしての心得が、作品全体への落ち着いたリアリティをもたらし、読み進める読者へもこの物語へ向き合う心構えを養わせます。

決して明るくはないこの物語を読み終えたあと、それでも「たましいの救済を求めて」その先も生きていくであろう登場人物の姿には、作者が丁寧に込めた心が宿っているのだと感じました。

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