23章 サクラギ公爵家の秘密の儀式
第245話 サクラギ公爵家の捏造家系図
サクラギ領への出発を翌日に控えたその日。
ぼくが執務室で仕事をしていると、ユズリハさんとトーコさんがやって来て。
ユズリハさんが高価そうな本をバンッ! と机に置いて、渾身のドヤ顔で言い放った。
「やったぞキミ! ギリギリになったが、とうとう完成した!」
「……完成したって、何がですか?」
「見れば分かる!」
どういうことかとトーコさんを見ると。
こちらは対照的に、頭を抑えながら沈痛な面持ちだった。
「ごめんねスズハ兄……ユズリハの暴走を止められなくて……」
「いったい何があったんです!?」
「さあ、早く読んでくれ! さあさあ!」
ユズリハさんの迫力に気圧されながらも、本をめくっていくと。
「……これって家系図……?」
どう見てもサクラギ家の家系図だった。
サクラギって名前の人がいっぱいいるし。
けれど、そんなものをぼくに見せてどうしようというのか。
「えっと……?」
意味が分からないという顔をしてみせるも、ユズリハさんはニコニコ顔のまま。
自分から答えを言う気はないようだ。厄介な。
トーコさんも疲れた様子で、
「コレ、滅茶苦茶巧妙に出来てるから普通に読んでもまるで気づかないのよね……ボクもユズリハに見せられてから、意味が分かるまで五分かかったわ」
「マジですか」
「アホらしすぎて、ボクの口から答えを言う気にもならないっての……」
トーコさんでも五分かかったなら、ぼく一人じゃ迷宮入りの可能性大だ。
しかもトーコさん、答えを教える気は無いらしい。
なのでぼくは、横で仕事をしている敏腕官僚アヤノさんを頼ることにした。
「ねえ、ちょっとアヤノさんも見てくれない?」
けれどアヤノさんは小さく息を吐いて、
「その必要はないかと。中身を見ずとも、内容はおおむね予想が付きますので」
「そうなの!?」
「ほう。アヤノ殿は、どのような中身だと思う?」
「恐らくはサクラギ公爵家の家系に閣下を無理矢理ねじ込んだ、捏造の家系図でしょう」
「ええええええええ!?」
いきなりとんでもないことを言い出したアヤノさん。
けれど、ユズリハさんとトーコさんの様子はあっさりしたもので、
「ふむ……やはり、分かる者には分かってしまうか」
「とはいえ見ずに断言しちゃうのも、さすがの切れ者ぶりだけどねー。まあ、スズハ兄が無理難題をドンドコ持ち込みまくってくる官僚のトップなんて、それくらい優秀でないとやってけないのかな?」
トーコさんにディスられた気もするけれど、それどころじゃない。
「ユズリハさん、これってどういうことですか!?」
「それはアレだ。──キミはこれから、わたしの成人の儀式に参加するだろう?」
遺憾ながら、とはさすがに言えず頷いた。
「以前にも説明したが、サクラギ公爵本家次期当主の儀式は、部外者厳禁の秘祭なんだ。その掟は大変厳格で、過去には参加を希望した王族が拒否された記録さえあるほどでな。つまり普通に考えて、スズハくんの兄上の参加は不可能だ」
「もちろん聞いてます」
だから最初は、ぼくは関係ないという話だったはず。
けれどなぜか、その秘密の儀式に出席するという話に変わっていた。
それがどういうカラクリなのか、疑問に思ってはいたけれど──
「なので家系図を偽造して、キミを一族の人間ということにした」
「解決手段が強引すぎる!?」
「なにをゆー。これが一番、現実的でエレガントな方法なんだ。なにしろキミが名実ともにサクラギ公爵家の一員だとアピールできる」
「それっていいんですかねえ!?」
ユズリハさんの横にいるトーコさんに問いただすと。
トーコさんは苦笑しながら、これまたとんでもないことを言った。
「まあボクも、スズハ兄が実は王の落胤だったってコトにしようかなって、考えたことはあるんだけどねー」
「それも初耳なんですが!?」
「言ってないもん当然でしょ」
執務室で唐突に始まった大暴露大会。
ちなみに官僚はアヤノさんしかいないので、その点だけはセーフである。
こんなこと、誰かに聞かれたら大変だよ。
そしてそのアヤノさんが、サクラギ家の捏造家系図を眺めながら。
「──ですがこれ、公爵家としても相当手間とお金がかかってますね」
いやいやご冗談を。
そりゃ本を一冊作るにはお金がかかるけど、そこはサクラギ公爵家。
大貴族にかかれば、それくらいなんてこと……
「ふむ。そこまで見抜かれてしまうか、さすがだな」
「えっ? なにそれアヤノさん、どういうこと?」
「閣下、この家系図は相当出来がいいんですよ。じっくり眺めても、閣下と貴族勢力との繋がりが、サクラギ本家以外にまるで見えてきませんので」
「分かってくれるかアヤノ殿、今回最も苦労したのはそこなんだ。ヘタな家系図を作ってしまえば、どこぞの貴族に介入される口実が出来てしまうからな……」
「大いに理解できます。今さら、閣下の親戚ヅラや後見ヅラした貴族が出てくるなんて、悪夢以外の何物でもありませんからね」
「しかも貴族の縁戚は複雑で、一見関係なさそうなところが親族だったりもするからな。だから万が一が存在しないよう、徹底的に調査し尽くした」
「賢明な判断かと」
「おかげで莫大な費用と人員を投じることになったが、まあ仕方あるまい」
ユズリハさんとアヤノさんが、なんか恐ろしい会話をしている。
しかもその横でトーコさんもうんうん頷いてるし。
「…………」
改めて、貴族って怖いと思うぼくなのだった。
妹が女騎士学園に入学したらなぜか救国の英雄になりました。ぼくが。 ラマンおいどん @laman_oidon
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