最終話 「じゃあ康太と一緒に寝る……!」 じゃあの意味がわからない。
あれから約一週間が経って一月二十九日の土曜日。
もう一月も終わりが近く、テストまで一か月を切っている。
学年末ということもあり、みんなが気合を入れる中、俺たちも勉強の真っ最中だった。
「違うわよ
「あ~……」
現在は俺の家で
言葉の意味をごちゃごちゃに覚えてしまっているところだ。
一人だったら間違って覚えたままになりそうだが、麗が間違いを教えてくれると、麗の声で覚えられる。
これはもう間違うことはないと思う。
「これはこう覚えるといいわよ」
「なるほど……」
さすが成績上位者。
掲示板に載れるほどの順位を叩きだした人は格が違うぜ……。
「康太覚えが早いのになんでちゃんと勉強しないのよ」
「しなかったって言ってくれない? 俺は今日から本気出す」
「はいはい」
呆れられた……?
俺は本気だぞ?
本気で本気出すぞ?
「実際は前回のテストの途中から本気出してるけどな」
「最初から本気を出しなさい」
「……はい」
怒られた……。
「ほら、真面目にやる」
「はい」
※※※
「はぁ~。疲れた」
「ちょっと休憩しましょうか」
「そうだな~」
そのままゴロンと床に寝転がる。
あ~このまま起きたくない……。
「クッキー持ってきたけど食べる?」
「食べる」
起き上がった。
余裕で起き上がった。
「手作り?」
「そうよ?」
「やったぜ」
麗はお菓子作りもうまいからなぁ~。
俺はお菓子の方は全然ダメだ。
普通の料理なら人並みにできるが、やっぱりお菓子作りとは別物だ。
やってみればわかる。
あれは料理ができるだけじゃ無理だ。
「うまい……!」
「ふふっ。ありがと」
俺が頷くと、麗はふわっと微笑んで言った。
天使だぁ……。
「このままゆっくり過ごしたいなぁ」
「テストが終わったらね」
「早く終わんないかなぁ」
「終わっても成績が悪かったらダメだからね」
「えぇ……」
猶更本気を出さなくちゃいけなくなったなぁ……。
「これじゃデートプランも考えられないよ……」
「いいじゃない。テストが終わったらゆっくり考えれば」
「麗ってこうしてのんびり過ごすのって好きか?」
「家で過ごすのも好きよ。この前みたいに適当に散歩するのも。もちろん、きっちりデートプラン考えて、リードしてもらうのも憧れるけどね」
そう言いながら麗にじっと見られる。
プレッシャーが掛かるな……。
「ことちゃんたちって図書館で勉強するみたいな話だったっけ?」
「勉強デートってやつだな。本当に勉強してるんだか」
「ことちゃんに限ってそれはないと思うけど……。それに、あたしたちも勉強デートみたいなもんじゃない?」
「勉強家デートってか。たしかにそうだな」
「そう考えると、あたしたちってものすごい回数家デートしてるんじゃない?」
「たしかに」
二人きりってのはなかなかないけど、常にどちらかの家にいる気がする。
「正直、家でまったりしてるのってかなり好きなのよね」
「俺も」
「家にいることが多かったからかな……?」
麗も父親を手伝うために、家のことをいろいろしてたみたいだしな。
俺も、両親がいなくなって家のことをしなきゃいけなくなったし。
嫌だったわけじゃないけど、まぁ大変なことではある。
誰も悪くないんだけど、思うこともあるわな。
「でもそのおかげで家事とかできるし」
「料理も好きだしね」
「わかるわかる」
俺と麗って結構似てるところがあるんだよな。
「あたしたち、結構似てるところあるわよね」
「俺も同じこと思った」
キャンプファイヤーの噂……。運命ってやっぱりあるのかもしれない。
「そろそろ勉強の続き、始めましょうか」
「そうだな」
俺たちは休憩をやめて勉強を再開した。
俺は麗からほとんどの教科を教えてもらうことになるが、前よりは聞くところが減っているはずだ。
お互いに無言の時間が増えた。
数学に関しては俺が麗に教える側だ。
数学だけは得意なんだ。
たまにお互い教え合いながら、そのまま時は過ぎていく。
「ふっ……! んはぁ……」
「随分と伸びたなぁ」
「結構集中してやってたわね」
「そうだなぁ」
「今何時?」
「え~っと……」
スマホで時間を確認してみる。
時刻はもうすぐ十七時に差し掛かろうとしているところだった。
「もうすぐ十七時だな」
「そろそろやめましょうか」
「だな」
勉強道具を軽く片づけてリビングに向かう。
リビングからは、賑やかな声が聞こえてきた。
「楽しんでるな」
「宿題はしたのかしらね」
「みんなちゃんとやるでしょ」
「言ってみただけよ」
そう。今日は
しかも麗含めみんな泊まりだ。
俺と麗は勉強会で、最初は帰る予定だったんだけど、七海ちゃんが便乗して泊まりということになった形だ。
楓ちゃんも泊まりになるのかとそわそわしてたから、泊まりにした。
すごく喜んでくれていたので、そうして大正解だったよ。
「あ、お兄ちゃん、麗さん。お兄ちゃんの勉強はどうですか?」
「おい」
「大丈夫よ。真面目にやらせてるから」
「おい」
「よかったぁ」
「おい」
俺のことをなんだと思っているのか。
「そういう心優は宿題したのか?」
「もう全部終わらせたよぉ。ね、
「当ったり前ですよ!」
「ふふん」
七海ちゃんと楓ちゃんはドヤ顔をしている。
心優もどこか得意げな顔をしている。
俺の威厳はここにはないらしい……。
あ、もともとそんなもんないわ。ははは。
「そろそろご飯作りましょうか」
「任せてください」
「アタシも!」
心優と七海ちゃんがキッチンに向かう。
その後を麗が付いていった。
今日は三人でご飯を作るつもりなのだろうか?
「何作るんだ?」
「できてからのお楽しみよ」
材料を買ってきたのは藍那姉妹三人なのだが、材料のチョイスには心優が参加していた。
一体何を作るつもりなのか、俺だけが知らない。
……なんか、尻に敷かれるってこういうことなのかな?
「康太お兄さま、遊びましょう」
「そうだね」
愛されてるって思っておくか。
※※※
「お〜!」
「どう? おいしそうでしょ」
「最高! さすが!」
レタスと共に綺麗に盛り付けられたポテトサラダに、野菜たっぷりお肉多めのクリームシチュー。
鮭のホイル焼きまで用意されている。
どれも綺麗に盛り付けられていて、そこまで凝って作っていることがよくわかる。
「あれ? こんな皿家にあったっけ?」
「これはアタシたちが持ってきました!」
なるほどな。
皿も料理に合わせると見栄えがまた変わったりもするもんなんだな。
見た目が綺麗だと、余計おいしそうに見える。
あまりにも綺麗すぎないか?
写真撮って琴羽にも送っとこ。
「写真なんか撮ってどうしたの?」
「今、俺は
「?」
千垣。お前がなんで食べる前に写真を撮るのか。
本当によくわかったぜ……。
千垣にも送ったろ。
よしっと。
「いただきます」
みんなで手を合わせて食べ始める。
まずはシチューに口をつける。
サラッとしたシチューは、すっと滑り落ちるように喉を通っていく。
じっくりと煮込まれたお肉は、味が染み込んでいて、口の中でとろけるようだった。
野菜もしっかりと味が染み込んでおり、お肉と共に口の中でとろける。
寒い冬にぴったりの、とてもおいしい一品だ。
続いてはポテトサラダを食べてみる。
潰されたじゃがいもに、きゅうりと人参、ゆで卵が入っている。
ふわっとしたじゃがいもに、しゃきっとした歯ごたえのきゅうり、人参がとてもいいアクセントになっている。
ゆで卵が味に深みを加えているのがさらにいい。
最後に鮭のホイル焼きだ。
箸を入れると、すっと箸が通り、身を取ることができた。
口に入れた瞬間、バターのいい香りと共に柔らかい身と、バターの甘さが口の中に広がっていく。
盛り付けなどの見た目だけでなく、味や食感にまでしっかりとこだわりを感じられる。
三人の本気を見た気がした。
「うまいなぁ……」
「よかったわ」
得意げな表情をする三人。
いやぁ……これは本当にうまい……。
「ごちそうさまでした」
満腹になったし、かなりの満足感だ。
一番最初に食べ終わったので、皿を持ってキッチンに向かう。
皿洗いは俺がしよう。
全部洗い終わる頃。
その頃にはみんなは風呂に入り始めていた。
現在は心優と七海ちゃんと楓ちゃんが入っているようだ。
「康太先に入る?」
「いや、麗が先でいいぞ?」
「長いかもよ?」
「いいよ」
そんなことは気にならない。
正直、うちの風呂を麗が使うということの方がよっぽど気になる。
やっぱり先に入ろうかな……?
「夜も勉強するのよね?」
「そうしたいとは思ってる」
「お風呂あがるの待ってるわね」
先に入ったら寝そうだな……俺。
「さっぱりしました」
楓ちゃんがタオルで髪をぽんぽんしながらやってきた。
心優と七海ちゃんの話し声も聞こえるし、二人もすぐに来るだろう。
「それじゃあ準備するわね」
「あいよ~」
「康太お兄さま、ドライヤーお願いしてもいいですか?」
「いいよ。おいで」
「ありがとうございます」
ちょこんと椅子の上に座った楓ちゃんの後ろに立って、ゆっくりと髪を乾かしていく。
すぐに心優と七海ちゃんが出てきて、麗が入れ替わりで入っていく。
適当に過ごすこと数十分。
麗が出てきた。
「お待たせ」
「じゃあ俺入るな」
「うん」
風呂上がりの麗はもう何度目かもわからないが、やっぱりドキッとしてしまう。
綺麗なんだよなぁ……。
そんなことを思いながらも、着替えを持って風呂に入る。
「麗が入った直後か……」
シャンプーとかそういうのは麗が自分で持ってきていたけども……。
いつも使っているはずの風呂がなんだか別のところのように感じる。
「麗って、どんなシャンプー使ってるのかな」
ふとそんなことが気になる。
やっぱり、まだまだ知らないことばっかりだな。
少し反省しながらも、俺は頭を洗い始めた。
※※※
「…………」
「…………」
この問題はこれでおっけー……っと。
うん。完璧。
静かな時間が流れていく。
俺も麗も、もう聞くことがほぼ無くなってしまった。
それはそうだ。テスト範囲は無限ではない。
わかる問題が増えれば聞くことも減る。
「なんか眠くなるな」
「あたしも。集中力が落ちてきたみたいね」
「まぁ時間も時間だしな」
時刻は十時半頃。
勉強の疲れもあるし、普通に眠くなってきた。
「寝るか?」
「とりあえず勉強はやめましょうか」
「そうだな」
それぞれ勉強道具を片づける。
提出するものはもうすでに終わっているので、後はよりいい点数を取るための勉強だけをやっているのだが、こんなに勉強したのは初めてだ。
「七海と楓は心優ちゃんの部屋に布団敷いて寝るのよね?」
「そういう話らしいな」
前に泊まった時も七海ちゃんは心優の部屋に泊まっていた。
あの時はみゆだったが……。
それはともかく、今回は楓ちゃんも一緒らしい。
まぁたしかにあの日は琴羽もいたしな~。
「もしかして、あたし一人?」
「まぁそうなるな」
「じゃあ康太と一緒に寝る……!」
「じゃあの意味がわからん」
そんなわざとらしく甘えられても。
かわいいけどさ。
でもさすがに一緒に寝るのは……。
「冗談言ってないで準備するぞ」
「……だめ?」
まじなのか……。
「……布団とベッド、どっちがいい?」
「康太に任せるわよ?」
「…………」
そう言われるととても困る。
麗は普段ベッドだったから、その方がぐっすり眠れていいだろうけど、いつも俺が使っているベッドだし、嫌かもしれない。
かと言って布団にしてというのもなんだかなぁ……。
「布団敷いとくから、俺リビングのソファで寝るわ」
「……なんで?」
心底不思議そうに返されてしまう。
「布団かベッド、選んでくれ」
「じゃ、じゃあ、ベッド……」
「おう。じゃあ布団持ってくるからテーブル適当にどかしといてくれ」
「わ、わかった」
「どうかしたか?」
「なにも?」
なんだ?
よくわからないけど、とりあえず布団を取りに行く。
こうして布団敷くと、なんか急に部屋が狭くなったような気がする。
そりゃそうか。
「電気消すぞ?」
「は~い」
豆球は付けて布団に入る。
こういう時、眠いけどだいたいなんか眠れない。
これは麗がいるせいなのだろうか……。
「なんだか修学旅行に来てる気分」
「なんだ? 浮かれてるのか?」
「うん。ちょっと浮かれてる」
そう言って麗はくすりと笑う。
そんなことを言われると、なんだかこっちまでそんな気分になってくる。
修学旅行とか、夜の学校とか、変なテンションになるやつな。
「修学旅行は来年だぞ?」
「同じ班になれるかなぁ」
「クラス替えもあるしなぁ」
「うちの学校は修学旅行はクラス関係なく自由に班を作っていいらしいわよ?」
「それマジ?」
「先輩たちはそうだったらしいわよ」
「へぇ……」
もしそれなら麗とクラスが一緒にならなくても安心だな。
できることなら一緒のクラスにしてほしいところだが……。
「もしそうなら楽しみかも」
「そうじゃなかったら同じクラスになることを祈るしかないわね」
「だな」
こういう時ってだいたい違うクラスになるんだよなぁ……。
「こういう時ってさ」
「フラグになるからやめとけぇ!」
「いや、でも」
「はいはい静かに静かに」
お互いに笑みが零れる。
だんだんとテンションが上がってきてしまっている自分がいる。
「この辺にして、もう寝るぞ~」
「ふふっ……。そうね。おやすみ康太」
「おやすみ麗」
こんなん朝になっちまうわ。
※※※
「休憩するか?」
「そうね」
次の日。
朝ごはんをさっと済ませ、俺と麗は再び勉強タイムだ。
たぶん、心優たちも勉強をしていると思う。
向こうも向こうでテストが迫ってきてるだろうしな。
そんな勉強の中だが、もう時刻は十時を回った。
休憩するにはちょうどいいだろう。
二人でリビングに降りてくると、心優と七海ちゃんと楓ちゃんがテレビを見ていた。
バラエティー番組か何かのようだ。
「みんなもジュース飲むか?」
「飲みます」
楓ちゃんが真っ先に反応をした。
心優と七海ちゃんもこちらを見る。
「何がいい?」
「リンゴジュースがいいです」
「わたしもそうするぅ」
「じゃあアタシもお願いします」
「あたしも」
「ならみんなリンゴジュースでいっか」
リンゴジュースを冷蔵庫から取り出して、コップを並べる。
「運ぶわね」
「ありがとう」
リンゴジュースを入れたコップは麗が運び始めてくれる。
その時、ピンポーンとチャイムが鳴った。
「誰だろぉ?」
「心優出れるか?」
「いいよぉ」
心優が玄関に向かって行く。
リンゴジュースが出し終えたので、玄関に耳を傾けてみる。
「聞いたくださいです!」
この声は
「なんで気づかなかったのか、とても不覚です!」
うん。この声は真莉愛ちゃんだな。
声に気づいた七海ちゃんと楓ちゃんも玄関に向かう。
「えっ!?」
「!」
突然麗が大声を上げたのでびっくりした。
「どうしたんだよ麗」
「こ、この子……」
「ん?」
麗はテレビの画面を指している。
そのテレビ画面を見て、俺も同じく大声を上げた。
「えっ!?」
俺も麗もそのまま固まってしまう。
「うちの大好きなアイドルグループ……!」
そのテレビ画面にはよく見知った人物が映っていて……。
『なるほど。おいしいものがお好きなんですね』
『ついつい写真撮っちゃうんですよ~』
テレビの声と、真莉愛ちゃんの声がすごく脳に響く。
テレビの画面には、今真莉愛ちゃんの口から出たグループが映っていた。
「そのメンバーだったなんて!」
俺たちも初めて知った。
まさか、こんなこと……。
『それではサヨチさんはどうですか?』
『アタシはですね~』
だって……だって……。
「
千垣が……アイドル!?
――――――――――――――――――――
あとがき
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
最後まで読んでくださった方ならわかると思うのですが、
続編執筆中です。
次回、第五章は執筆を進めておりますが、リアルが忙しく、いつ頃できるか正直わかりません。
今回も遅くなってしまいましたが、それよりさらに時間が掛かってしまう可能性もあります。
なので、気長に待っていただけると嬉しいです。
ちなみに、タイトルはまだ決まっていません。
『彼女が欲しかった俺が、〇〇になるまで。』というタイトルにはなるので、もし見かけましたら、またよろしくお願い致します。
改めまして、ここまで読んでくださりありがとうございました。
続編、もしくは別の作品でまたお会いしましょう。
彼女が欲しかった俺が、再びキューピッドになるまで。 小倉桜 @ogura_haru
★で称える
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カクヨムを、もっと楽しもう
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