ここにいるよ

第1話

『生きる』ということが、もし、「意識があって、見たり聞いたり感じたりできて、それらに対して心を動かせること」だとするなら、私は間違いなく今、生きている。

　——ただ、肉体がないだけで。

　人は皆、私のような肉体のない魂と意識だけの存在を"幽霊"と呼ぶ。

　でも私は、ただ肉体を失っただけで、それ以外は全て持っている。自我も記憶も思考能力もある。実体がないというだけで『死んでいる』なんて思われちゃ困る。私はここにいるのだから。

　……困る。

　本当に。

　家族には、私が見えない。

　だから、私が誤って物を動かしたり、声を出したりすると、怯えられてしまう。

　母が、死んだはずの娘がいつも傍にいるような気がしてならないと、父に相談していた。

　私は生きてるのに。

　娘だとわかっているなら、そんなに怯えなくてもいいのに。

　……なんて、思ってしまうのはわがままだろうか。

　最初は、諦められていたのに。

　お母さんが、「つい癖で」なんて言って私の分までご飯を作っちゃうのがいけないんだ。

　お父さんが、私の好きな漫画の最新巻をうっかり買ってきちゃうのがいけないんだ。

　——でもごめんね。迷惑だよね。

　もうちゃんと、諦めるから。

　だからお母さん、早く鬱病治してね。