靴喪神

十八 十二

靴喪神

 暗い店内に朝日が差し込んで、そろそろと起きだした靴喪神たちが早速おしゃべりを交わしはじめました。

「今日こそオレたち買われたいな」

「ええ、しかし買われるならセレブな方がいいですわ。貧乏人の背伸びで買われちゃ堪りませんもの」

「何か今日、運命の出会いがある気がする。イケメンの予感よ」

「え? 僕らレディースだけど」

「今日、一番に買われるのはオイラたちさ!」

「そうよ、コーナーで差をつけるのよ!」

 靴専門店『いろはマート』に来たばかりの、夏の新作や秋の新作の方達が希望と未来を語り合っています。

 今日、という言葉を意識的に避けるようになったのはいつからでしょう。

 パッと店内が明るくなりました。照明が付いたのです。私はさっと陰に隠れます。

 私は店内でもっとも目立たない場所にある陳列棚に追いやられています。店員さんが『ラス市』なんて立派な名前の看板を掲げてくれておりますが、所詮、私は売れ残りなのです。

 そして私とペアのユウさんはこの陳列棚で最古株。

 もうかれこれ3年間、私たちはここで運命の出会いというモノを待っているのです。

 でもそんなものは来ないでしょう。

 だって3年間、照明に照らされ続けた私の爪先かおは醜く黄ばんでいるんですもの。

 谷崎さんがはたきを持ってやって来ました。店員さんです。今日もオーバーサイズのTシャツにスラックスでした。

 ここに来た当初は男性の方かと思っていましたが正真正銘の女性の方です。童顔を気にされているのに、ボーイッシュなベリーショートの御髪で、少年みたい。でもあどけなさの残った丸いお顔が可愛くって、私は彼女が大好きです。

「なあ、ユウさん起こさなくていいの?」

 声が降ってきました。私と向かい合っている、大きな星マークがトレードマークの彦星さんです。

 おっといけません。早く一段してお休みしているユウさんを起こさなくては。 寝ているとこをはたきで埃を落とされたんじゃ、ビックリしちゃいますものね。

「ユウさん、ユウさん、起きてください」

「んぉおお、おはようさん、さー子。谷崎さんも」

 彼が私のペアのユウさん。悪い人ではないのだけど熱血で暑苦しいところが玉に傷です。

 ユウさんが伸びをしたあと、声を張り上げました。

「やあ、やあ、おはよう! ラス市のみんな! 今日こそ全員で売れたいな!」

 それを聞いて、私は顔を覆いたくなりました。

「フッ、だな」「全員は無理だろ」「まずお客さんが何人立ち止まるかだなあ」「そもそもここまで足を運んできてくれるか」

 周りの方達が口々に言います。そう、私も含めて皆さん諦めかけているのです。

 私が恥じ入っていると、

「あ、まただ」

 と、谷崎さんが私を見つけて言いました。大きな手が奥に隠れていた私を掴んで、ユウさんと入れ替えようとします。

 思わず私は叫びました。

「待って! 私を前に出さないで! もうこれ以上黄ばみたくないの!」

 しかし、彼女に聞こえるはずがありません。

 成す術なく、私は一段下のラックに移動させられました。

「一足ぐらい、爪先が反対を向いていてもいいじゃないですか」

 私は谷崎さんを睨みます。けれども彼女は満足そうに頷いた後、むっと眉を顰めて、また私を持ち上げました。舐め回すように私の身体を見て、最後に私の顔をじっと見ます。私は顔を背けたくて仕方がありませんでした。

 どれだけ見られたでしょうか。ようやっと私はラックに戻されました。

 と思ったら、谷崎さんが、今度は私に付けられたタグを引っ張りました。そこにペタッと値札シールを貼ります。その数字を見て、私は絶望しまいした。

「……ああ、とうとう五千円を切りましたか……」

 谷崎さんの手が離れます。ズンとタグが重く伸し掛かりました。

 たったシール一枚がこんなに重いなんて。

「落ち込むな!」とユウさんが照明の影から言いました。

「チャンスが広がったんだと思えばいい。手に取ってくれる人の層が広くなった、そうだろう!」

 それ聞いて、私はこっそりバレないように鼻で笑いました。だってコレ、励ましですか? 変色した私の、そしてユウさんの価値が失われていますよ、という通告でしょ? なのに何でそんなに能天気なんですか。なんで私を責めないんですか。

「谷崎!」「あ、はい!」

 私たちの前に店長さんが来ました。

「来週頭に冬の新作が来る。それであっちの棚に残ってるラスト一足をこっちに移動させるから」

「はい」

「並びきれない分は処分に回してくれ」

「……はい」

 そして店長さんと谷崎さんが私とユウさんを見ました。


「ヤバいヤバいヤバい! どうすんのよ、彦星」

「どうって、俺たちは買われるの待つしか出来ないだろ! そうだ織姫、お前が頑張ってお客さんの目を引け!」

「はあ?! 何アタシに全部押し付けてんのよ! アンタも何かしなさいよ!」

「ボ、ボクらは大丈夫だよな、ポーレン」

「だ、大丈夫ですわよ、ロルフ、何せこの店一番のブランド品なんですもの」


 谷崎さんと店長さんがお店のシャッターを開けにいくと、ラス市の棚は騒然となりました。

 私は息の仕方も忘れるほど動揺して、悪い想像が湧いて止まりません。

「お、落ち着んだ、みんな!」

 また、ユウさんです。

「まだ捨てられると決まったわけじゃない。そうだろ。それに、それにほら、たとえ売れ残ったとしても、また別のコーナーを作ってくれるさ。おつとめ品大安売りコーナーみたいな!」

 本当は分かっているくせに、誤摩化したようたへらついた顔と、そのあまりに能天気な発現に、私は我慢できませんでした。

「そのコーナーがココなんですよ! 本当は分かっているんでしょう?! なのに何で適当なことばかり言うんですか! 何で現実から顔を背けるんですか!」

「さー子! 多少顔が黄ばんでるくらいで、卑屈になるんじゃない!」

 愕然としました。

「……多少? 黄ばんだくらい……? ふふ、これが多少ですか?」

 そして何故か笑いが込み上げてきます。だって――。

「新品なんですよ、私たち……。埃一つの汚れも許されない……」

 今度は沸々と怒りが湧いてきました。

「なのに多少黄ばんだくらい、ですって……? どうして、どうしてそんな能天気いられるんですか!」

 私はユウさんに自分の肩に掛かっているタグを見せてやりました。

「半額! 半額なんですよ! 私だけじゃない、ユウさん、あなたも半額なんですよ! 黄ばんだ……汚い私のせいで、半額なんですよ……。もう、もう中古じゃありませんか」

 途中から涙が溢れてきました。涙は流れるのに、口が笑みを作って、勝手に動きます。

「私たちに新品なのに、中古じゃありませんか……。誰にも買われない、誰にも履かれない。私は何のために生まれてきたんですか?」

 しかしユウさんは

「履かれるためだ。支えるためだ。主人と同じ方向を向いて歩んでいくためだ」

 と、はっきり言い切りました。そして唇をぎゅっと結びます。

「あー、あのさぁ」

 織姫さんです。皆さんの視線が彼女へ移ります。

「開店したし、お客さんも入ってきたし、とりあえず、さー子ちゃんとユウさんを入れ替えよ? 試し履きしないお客さんが気付かず買ってくれるかもしれないし」

 確かに妙案です。私はすぐさまその案に乗ろうとしました。しかし――。

「お客さんを騙すのか?」

 ユウさんが織姫さんを睨みつけました。

「でも少しでも確率上げたいじゃん? それにさ、アンタらが買われてくれたら、アタシたちすごく勇気もらえる。だから替わって」

 織姫さんがユウさんをじっと見つめます。なんて力強い瞳でしょう。私には絶対に出来ない目です。それを見ていた他の皆さんもユウさんに懇願しました。それでやっとユウさんが折れてくれました。

「……分かった。ここは一旦目を瞑る。皆の希望になれるよう、頑張ろうじゃないか。……さー子」

「……はい」

 私とユウさんが位置を入れ替えました。すれ違いざま、ユウさんが「すまなかった。そこまで気にしてるとは知らなかった」と。私は首を振り、「いいえ、私も言い過ぎました。ごめんなさい」と謝ります。


 お昼が過ぎました。その間、私たちの前を数人のお客さんが通りました。いくつか手に取っていただいたのですが、まだ誰も買われた靴はありません。ラス市が少しどんよりしています。それでもユウさんは背筋をしゃんと伸ばし、聞こえもしないのに、必死に前を通りかかったお客さんに声をかけていました。だからでしょう。まだ誰も諦めていませんでした。

「あ、来たよ。お客さん」

「全身黒。チャンスあるじゃないか」

 織姫さんとユウさんが私を見上げて言いました。

 お客さんが私たちの前で足を止めます。そしてユウさんを手に取りました。そしてそして、近くの座れるところに持って行ったのです。

 私はみっともなく淡い期待を抱いてしまいます。しかし彦星さんの「げ、試し履きするタイプか」という声で現実に引き戻されました。そうです。試し履きをするなら、きっと私も履くでしょう。そのときに気付くはずです。私の顔が黄ばんでいることに。

 お客さんが戻ってきました。私は思わず身構えましたが、ユウさんをラックに戻してどこかへ行ってしまいました。

「どうだったの?」と訊いた織姫さんに、ユウさんは黙って自分の肩に掛かった紙を見せます。そこには「左足の爪先が変色しています」と但し書きが。

「見られた」

 私は膝から崩れ落ちました。もう終わりです。

「大丈夫だ! 手応えはあった! 必ず戻ってくる!」

 ユウさんが慰めてくれますが、期待した分、落胆が大きくて、とても前向きにはなれません。

「立って、立って! ユウさんがそう言ってるんだから!」

「ほら、俺の肩貸すから立ち上がれって!」

「そうだよ! シャキッとしなきゃ!」

「立ちなさい! 本当にあのお客が戻ってきたらどうしますの?! 逃がしますわよ!」

 織姫さん、彦星さん、ロルフさん、ポーレンさん、他にもたくさんの方の激励を受けて私はなんとか立ち上がりました。

 ちょうどそのときでした。先程のお客さんが戻ってきたのです。ラス市の皆さんが一斉に声を上げました。

「さっさとその二人に決めちゃえー!」

「そうだ、そうだ、決めろー!」

「もういい加減、決めちゃいなさいな!」

「決ーめっろ! 決ーめっろ!」

「「「「「決ーめっろ! 決ーめっろ! 決ーめっろ!」」」」」

 決めろコールの大合唱です。

 その中でユウさんはじっとのお客さんの顔を見上げていました。

 皆さんの声が、ユウさんの念が、届いたのでしょう。お客さんがユウさんと、そして私を手に取りました。そして向かいます、試し履きの出来る椅子へ。

 期待しても辛いだけ、でも心が浮き立つのを止められません。

 お客さんが私の靴紐かみを解きました。一体いつぶりでしょうか。跡がついていないでしょうか。

「さー子。あの掛け声覚えてるか?」

 当然「はい」と答えました。ユウさんが考えた、少し恥ずかしい掛け声です。

 お客さんが私たちを履きました。髪を軽く結って、体重がグッとかかります。

 ユウさんが声を張り上げました。

「踏ん張れ足腰!」

「挫けろ弱気!」

「「ここで気張らな後がない!」」

「ぅぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「は、ぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!」

 お客さんの体重が乗ります。満たされていくようです。

 私はこのために生まれてきた、そう思ってしまう。

 お客さんが立ち上がりました。私は同じ方向を向いてそれを支えています。

 お客さんが確かめるように歩きます。二歩三歩。私は高揚感に包まれるようでした。

「え?」

 お客さんが突然立ち止まりました。目の前に鏡。黄ばんだ顔を無様に綻ばせた私がそこに映っていました。

「……嫌。……やめて。……見ないで!」

「さー子! しっかりしろ!」

 お客さんが左足を動かし始めました。

「見ないで!」

 外側から、内側から、そして正面から。私は必死に顔を背けました。それでもお客さんは足首を回していろんな角度から、鏡に映った私の顔を見回します。

「見ないで! 見ないでぇえ!」

「さー子ォ!」

 ユウさんが声を張り上げると、それに被せるように。

「踏ん張れ足腰、挫けろ弱気いい——!!!」

「ここで気張らな後がなぁああいぃ!!!」

「さー子さぁん! シャンとぉ、顔見せつけちゃえええ!!!」

「そうですわぁ! それぐらいで諦めるような野郎はあ! こっちから願い下げですのよおおお!!!」

 皆さんが、皆さんの応援が、私を奮い立たせます。

 そうだ、胸を張ろう、堂々と――。

 そのとき、お客さんが鏡から離れました。呆然としている間に靴ひもが解かれていきます。

 ラス市の皆さんも、他の棚に並んでいる皆さんも、黙りました。

 遅かったんだ、と思いました。

 店内に流れていたBGMの音が遠くなっていきます。

 突然、横から

「安心しな」

 と声がしました。驚いて振り向くと、そこにはお客さんがもともと履いていた靴と、その靴喪神がいました。私よりもひどい劣化です。

 合皮のレザーにはヒビが入り、爪先と踵のソールなんて剥がれかけではありませんか。けれど、どこにも日焼けや汚れはありません。

 彼女がおもむろに上を見上げました。私も釣られて見上げるとそこにはお客さんの顔が。悩むように私の顔を見つめています。

「この子の心はほとんど決まってる。ただ、この子はちょっと周りの目を気にしすぎるタイプだ。それでちょっと悩んでる」

「じゃあ……」

「でも大丈夫。アタシを見てみな。ボロボロだ。とっくに履き潰されてる。……みっともないだろ?」

「いいえ!」

 みっともないどころか――。

 初対面の方ですが、私は意を決して言いました。

「羨ましいです!」

 彼女は一瞬驚いた顔をして、すぐに大笑しました。

「羨ましいか。そうか、そうか。あんたもこうなるんだぜ?」

「え?」

 ぽかんとしてしまった私に構わず、彼女が矢継ぎ早に語りはじめました。

「この子は毎日単車に乗って学校に行く。左のアタシたちはシフトペダルの上げ下げもしなきゃならない。下にばっかり踏ん張ってちゃダメだよ。それから雨の日は――」

 彼女は口ぶりはまるで、私たちが買われることを確信しているようで、

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 私は慌てて止めました。

「急にどうしたっていうんですか?!」

 もう無駄な期待を抱きたくないのです。

「え、引き継ぎだけど」

「まだ分からないじゃないですか!」

「分かるよ。2年半支えてきたんだ。……時間がない。この子は――」

 確信めいた瞳で捲し立てる彼女を見ていると、だんだん信じてもいいのかなという気持ちになってきました。

 信じたい。買われたい。

 私はいつの間にか彼女の言葉を必死に暗記しようとしていました。

 彼女が言葉を言い終えた頃、お客さんが私とユウさんを持ち上げて、彼女を履きはじめました。

「それじゃアタシは、最後の仕事に戻るとするよ。アンタたちをレジ持っていくこの子を、支える大仕事にね」

 その言葉通り、お客さんが私とユウさんを持って、真っ直ぐにレジに向かいました。近づくに連れて私の鼓動が早くなっていきます。

「ユウさん……私たちやっと……」

「ああ、やっとだ」

 レジに谷崎さんが立っていました。私たちを見ると、一瞬驚いたように目を見張って、それから微かに笑みを浮かべた、ような気がします。

 谷崎さんが私の肩に掛かったタグをそっと持ち上げ、バーコードリーダーを近づけ、その手が止まりました。

 どうしたのか、そう思ったとき、谷崎さんがお客さんに問いかけました。

「……こちら、ソールが変色していますが、大丈夫ですか?」

 と。

 私は思わず、息を呑みました。

 でも、もう顔は、背けない。

 私を見つめるお客さんの顔を、私は見つめ返します。そして聞こえないと分かっているけれど、言わざるを得ませんでした。

「これが私です。この顔が気に入らないというのなら、構いません。私のほうから願い下げです!」

「そうだ! どうなんだ!

「「「「「どうなんだ!!」」」」」

 ふっとお客さんが顔を上げて谷崎さんを見ました。

「はい、大丈夫です。履いてみたとき、何か、気に入っちゃって。これがいいんです」

 その言葉を聞いたとき、私は「ああ、この人だ」と思いました。「私はこの人に履かれるために、支えるために生まれてきたんだ」と。

 ワッと、店内中が大歓声に包まれました。

 私たちの声が聞こえないお客さんと谷崎さんが、私の横で淡々と会計を済ませます。

「あの、このまま履いて行きたいんですが」

 さらに歓声が上がりました。谷崎さんがなんと答えたのか聞こえないほどです。

 お客さんが、いいえ、……この子、そう、この子が私とユウさんを持って、近くの椅子に向かいました。

 この子がもともと履いていた靴の横に私は置かれて。

「あのっ……!」

 私が彼女を方を振り向いたとき、この子がその靴を脱いだところでした。

 彼女の姿が薄く消えかかっています。

「あのっ、お名前を……!」

 彼女が首を振りました。そして何かを言うように口が動きます。けれど声はもう出ないようで。けれど口の動きから何を言ったのかは分かりました。

 ――がんばんな。

 私は彼女が消えていった天井を見上げ続けました。

「ユウさん」

 振り返ると、ユウさんも同じく天井を見上げていました。

 この子が私の髪を結います。

「ユウさん、覚えてますか? 買われて初めて地面を踏むときにやろうって決めた掛け声」

「……お、おぼえてるよぉ」

「泣かないで、シャンとして、ユウさん。私たちはこれからなんですから」

「わがっでる……」

 この子が立ち上がろうと体重を掛けました。

「ユウさん」

 ユウさんは頷いて涙を拭きました。

 この子がお店の出入り口へ歩きはじめます。

 そのとき、ラス市から大きな声援が飛んできました。

「さー子ぉ、ユウさぁん! おめでとう!!」

「俺たちもすぐに後に続きますよお!!」

「ユウさぁん、いつも元気づけてくれてありがとう!!」

「さー子ぉ、しっかりやるんですのよお!!」

「ユウさんがいなくなると、この辺の気温が寒くなっちまうな!!」

「うおお!! さー子ちゃんが、オレの癒しだったのにいい!」

「さー子さぁん、いつも気にかけてくれてありがとう!!」

「ユウさぁん、あんまり熱くなり過ぎて、お客さんの足焦がすなよお!!」

 私とユウさんはたくさんの声援を、この子は店員さんから感謝の言葉を頂きながら、進み、ついに自動ドアの前に着きました。

「……長かったな」

「……ええ。本当に」

 自動ドアが開くと、陽光が容赦なく降り注ぎました。

 これでは黄ばみの進行待ったなし。でもだから何だって話です。

「さー子」

「はい」

 私たちは大きく息を吸い込んで、約束の掛け声を上げました。

「「踏ん張れ足腰、挫けろ弱気! ここで気張らな立つ瀬がない!!」」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

「はああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 がんばれ、私。

 

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