エピローグ
エピローグ
「三葉、出産おめでとう」
「ありがとう、美帆子。美守くんも久しぶり。来てくれてありがとう……」
「かわいい男の子……二人とも三葉に似て顔がはっきりしてるー」
「ほんと? でもこの子達二卵双生児なのよ」
「ええっ、そうなんだ……これから二倍もお金かかるわよねー」
「そうなのよ……入院でも出産も……使えるものは使ってなんとかやってるけど」
「でも……倫典くんのご実家から援助受けているんでしょ」
「……そうなんだけどさ、ここだけの話……借金はプラマイゼロになったけど倫典くんがそれ以上は俺がなんとかする! とか見栄切って……」
「なんかせっかく親の病院で働いてたのに辞めて子供達のそばにいたいからって在宅の仕事始めるってほんと?」
「家にいてくれると助かるっちゃ助かるけどさ、私も働き始めて子供たちも小学校行き始めたらどうするんだろ……今は育休めいいっぱい使って有給消化してからやめるって……大丈夫なのかな」
「……うーん、大丈夫……だと思う。あっ、和くん……泣いちゃった……あ、令くんも」
赤ん坊が泣くとオロオロする三葉。すると出産経験者の美帆子が令を抱き上げる。
にゃあぁあああああああああ
「令君、泣いてるわけじゃないかも。声出して遊んでるっぽい」
「そんなのわかるの? あ、和はおしっこしてたわ」
ピンポーン
「あ、宅配が来たかも」
「私見てるから行ってきて」
三葉はインターフォンを見にいく。どうやら宅配だったらしい。オムツとミルク缶が届いたらしい。
美帆子は声を出して楽しんでいる令を抱き上げ、部屋の中を抱っこして歩き回っている。残された美守。
「本当に可愛いなぁ。ぷにぷに、ほっぺも柔らかい」
……。
「すっご、指掴む力も強いなぁ」
俺はグニグニとほっぺを容赦なく刺してくる美守の指を握ってやった。くそぉ、こいつめ。だが今回はこの心の声は聞こえないようだ。
俺はあの世には逝ったのだが、なぜか気づいたら真っ暗な世界からいきなり光が見えて、気づいたら誰かに抱き抱えられた。そして少ししたあと温かい腕に抱かれた。
すぐにわかった。三葉だ。声と匂いでわかったのは流石に俺ってスゲェだろ。
「カズくん、カズくん……可愛いカズくん」
どうやらカズくん、と俺は呼ばれている。もともとカズくんでもある。呼ばれ慣れている。答えたいが……
「だああああ」
しか声が出ない。……赤ん坊、俺は赤ん坊なのか? 隣からは泣き声がする。
「レイくんも抱っこして欲しいのかな〜」
この声は倫典の声だ。もう1人いるのか、赤ん坊が。
「にゃぁああああああ」
ま、まさか……この泣き方は……。
「レイは猫みたいな泣き方するよね。少し目も吊り目な気もする」
「そう? でもカズくんとは全く違うもんね。顔が」
「似てるようで似てない、二卵性双生児ってやつか。ほっとした」
「なんで?」
「だってさ、間違うこともないからちゃんと区別して育てられるかなって」
「まぁそうだけどさ、一卵性双生児でも大きくなったらだんだんそれぞれ自我がはっきりしてきて同じ顔でも区別できるって言うし、赤ちゃんでも見分けられる、それは親なんだからって多胎サークルでも聞いたわ」
そーだそーだ! って言いたかったが声はダァダァだけだ。
てなわけで俺、大島和樹は三葉と倫典の間に生まれた双子の片割れとしてなぜか生まれ変わって来てしまったのだ。
……だってやっぱりまだまだ妻が心配過ぎて仕方がなかったし、ウジウジしててさ……天国で三葉たちの子供として転生しないかなぁって冗談で思っていたらまたこんなふうになっちゃってさ。しかもどうやらもう1人の片割れが猫のスケキヨが転生してしまったようだ。大丈夫か、人間にだぞ???
「なんかすっごいおしゃべりな赤ちゃんだなぁ、こしょこしょー!!!」
おいやめろ!!!! こしょこしょ攻撃は苦手なんだよぉ!!! こいつぅううううう!!!
この声が聞こえないのか? 美守!!!!!
「……聞こえてるよ、大島さん」
き、聞こえているのか……確信犯め……あくまでも俺は赤ん坊だぞ。乱雑に扱うな。
「あのね、今度このマンションに空き部屋できたからそこに住むんだ」
え、ここのマンション高いぞ。
「母さんが新しい彼氏見つけてこのマンション買ってくれたんだって!」
何! 美帆子、婚約破棄したばかりだぞ……って新しい父親金持ちなんだな。って浮かない顔してるけど。
「ここだけの話、新しいお父さんも性格悪いんだよ」
……美帆子は引きが悪い!!! ってまさか。
「うん、なんとかして欲しいなぁって……赤ちゃんだからどうにもできないよねぇ……」
だよな、同じマンション内なら見ることだけはできるから連れてこいよな。って言ってやると美守は微笑んだ。どうすりゃいいんだよ、転生しても赤ん坊だから体も動かないし……またあの事故の入院、死んでから仏壇にいたあの時と同じじゃねえか。
あ、右手……左手……動く、動く……指、指、右足、左足……動く! 動く!!! 簡単じゃないか。
……。
「どうしたの」
……なんか尻が暖かい……。はぁあああ。
「三葉さんー、和くんもおしっこしちゃったよー」
「あぁーよくわかったわねぇ。あ、ほんとだ。オムツのお知らせマークが変わってる。教えてくれてありがとうね」
……あぁ、このおむつから解放されたいが結構おむつでも楽なんだよなぁ、事故のあの時もずっとそうだったから。でも俺は今赤ん坊なんだ。早くおむつから解放されるぞ!!!
早くたって歩いて走って三葉たちを驚かせ、楽にしてやろう。そして早く喋って最強な子供になってやろう。
剣道も習って三葉を守んだ! 俺は。
「ねぇ三葉」
美帆子は令をずっと抱いている。スケキヨは誰に抱かれても平気だもんなあくびもしてるぞ。
「あの仏壇前にあるベビーリング、かわいいね。前三葉がつけていたネックレスと同じやつ?」
……えっ?
「そうなのよ、ベビーリングにリメイクしてもらったの。やっぱりこれはここに置きたいて。和樹さんが私たちを守ってくれる。そう願って……」
「心強いわね、ほんと」
「でしょ……って何、和君が笑った」
「ほんとだ。すっごい笑ってる、かわいいね」
「……かわいいでしょ、だって……」
三葉は仏壇の俺の遺影に向かって笑った。
きっとあの時の子供だって……思ってる、俺もだ。そんなことは俺たちだけの秘密だ。俺はずっとお前を守ってるからな。
まだまだ俺は成仏できない、じゃなくて妻から離れられられないなぁ。
終
妻が心配で成仏できません 麻木香豆 @hacchi3dayo
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