第48話
そして三ヶ月が過ぎて墓はできた。俺の目の前に大きな墓がある。高いところにあるからか街を見下ろすことができる。少しうちの実家の墓のある寺院も見えた。離れずの距離だ。それでいい。
にゃお
足元にはスケキヨがいる。久しぶりだな。動物霊園からここの墓場まで移動してきたんだよな。お前だでけで寂しく無かったか? それとも他の猫や犬やペットたちと仲良くしていたか。
俺はこの数ヶ月間はまるであの入院中と同じような感覚であった。動けず、ただただ日が過ぎていくのを眺めていた。気力も何もかも失せていった。また動きたい、まだ生きたいとかあの時は思ってはいたが、もういいかって思えてきた。
もうこの世は俺がいなくても廻っていき、過ぎていく。なんとも悲しくて残酷である。でもお前とこうしていれば大丈夫さ。
「お義姉さん、お持ちしますよ」
「あ、ありがとう……」
三葉が俺の骨壷を持ってたが、他にも持っていた荷物を若菜が代わりに持った。そう、若菜もようやくここにこれたのだ。痩せ細って髪の毛もかなり短いショートヘアーだったがとても似合う。
「もうすぐ倉田さんも来るから三葉さんも若菜さんもあそこの椅子で座っててください」
「大丈夫よ、2人ともそんなに気を使わなくても、私は平気だから。それに和樹さんにしっかりお墓を見せてあげたいの」
いいぞ、もう俺は。こんな立派な墓を立ててくれてありがとう。嬉しいよ。三葉はとにかく座ってくれ。倫典が椅子を持ってきてくれた。
「もう1人の体じゃないんだ、座ってても大島さんもそう言う」
「ありがとう……そうよね、きっと」
今この場にいるのは倫典、三葉、若菜の3人だけだ。今日は結婚式ではない。後日に執り行われることになった。
三葉が妊娠したからだ。彼女は体調を崩し、今は回復したがまだ完全ではないようだ。なおかつ墓の方も少し遅れてようやく今日に至った。そのタイミングで若菜もここにいられる、なんともまぁ偶然ではないか。
……俺が倫典の中に入った時にできた子供なのかどうかはわからないが、2人が家族を作っていきともに歩んでいくという実感が湧いてきた。もうここは引き際なんだろう。
足元にいたスケキヨを抱き上げる。スケキヨの骨壷は倫典が持っている。そういえば墓のどこにあの遺骨ジュエリーを入れたのだろうか。わからない。
「お待たせしました」
倉田がやってきた。袈裟を着ると雰囲気も変わるもんだな。俺たちのことをみえるのはこいつだけだ。
「それでは骨壷をこちらに」
……いよいよ俺は入るんだな。ん? 俺はなかな進めない。振り返ると三葉がギュッと俺の骨壷を抱きしめている。
「和樹さん……」
三葉……。俺は彼女の元にいき、抱きしめてやれないが抱きしめるかのように腕を回した。大丈夫だ、お前の横には倫典がいるじゃないか。
俺をそろそろあの世に逝かせてくれよ……。
「すいません……、お願いします」
俺たちの骨壷は倫典の手で墓の中に入れられた。スケキヨ、一緒にいよう。
にゃおん
って小さく鳴いた。かわいいやつだ。
「それではお経を読ませてもらいます……」
あの世へ逝くのか、俺らは。とうとう。スケキヨは先に逝っていたが。
倉田の今日のお経は威圧感のないように感じる。心地よく、このまま眠れそうだ。スケキヨも俺の足元に戯れてきたので俺はあぐらをかいて座る。その上にぴょんと乗ってきた。
若菜、よく来てくれたな。北海道から。ようやく来れたのだ。
でもまた明日には帰るそうだ。ゆっくり……なんてできないのか。そう簡単にはならないもんだ。
倫典が仏壇前で言ってくれたが若菜と定期的に連絡して、知り合いの弁護士からアドバイスをもらって離婚して彼女が自由になれるようにしてくれるとか言ってたが……倫典は前よりも顔がしっかりしてきて親とも仲直りしたともいうし任せても大丈夫そうだ。
三葉、つわりがひどいってな。男の俺にはわかってやらないのが辛い。でもお前は強い。……て、無責任かもしれんが。
倫典のおじさんが産婦人科医だから安心しろ、無理をするな。
そうだよな、不安だよな。だって一人じゃなくてまさかの双子……。
高齢出産にもなるし、時期に早めに入院すると聞いていた。だからウエディングドレスを着て結婚式もまた今回もできなかったか。
ああ、俺との結婚式の時に着せてあげたかったよ。すまんな。
『和樹ー』
『おーい』
『こっちおいでー』
……また聞こえてきた。そして今回ははっきり見えたあの三途の川。スケキヨを抱いた。
「いくか、スケキヨ。三葉が双子出産。心配だけどな。心配してたらキリがない。大丈夫、大丈夫だって! 心配しているわけじゃない……うん、ほら、みんなが待ってる」
すると倉田のお経が止まった。……そろそろだ、威勢のいい声でまた驚くだろう、そしてその声で俺たちは成仏する。
「なぁに、若菜のことも心配じゃないよ。剣道部のことも、学校のことも全て大丈夫だっ」
そして
「はっ!!!!!」
大きな倉田の声で俺の視界は真っ白になった。
……
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