第47話
「ありがとうございました。書類の方は記載漏れもございません」
「よろしくお願い致します」
数日後、また家に倉田がやってきた。墓を購入することが決まった。前提案されたものでなくてワンランクアップした少し大きめの墓になった。
「大島家、大森家共同のお墓、それはそれは立派なものでしょう……これから子孫が増えてもこの大きさならゆったりです」
倉田は猫のように目を細め喜んだ。前よりも高値のものが売れたからな。
そういえば倫典が報告してくれたが彼は実家と仲直りしたらしい。ある程度資金援助もしてくれて、彼自身も製薬会社から父親がいる大病院で勤務になったらしい。医師というわけではないが薬剤関連のなんたらとか言ってたが倫典の相変わらずの説明下手が余計に混乱した。まぁもともと勤めていた製薬会社自体も大森家のズブズブの傘下だけど。
「しかもフォレスティアグループの会長様とも先日我がグループと契約してくださって……本当にありがたき幸せです、これからも末長くお付き合いのほどを」
「いえいえ、全て倉田さんの手腕と実績と人柄ですよ。父は一度決めたことは曲げないのにぜひ倉田さんのところでって……僕もびっくりしています」
そういう話は普通しなくていいのだが俺がここにいるって知ってる3人だからわざわざこの話題をしているのか。
倉田も上手いな。倫典があのフォレスティアグループの御曹司ってわかって、そこからが早かった。にしても病院と倉田の神社と親戚たちの葬儀屋、墓石屋、仏具などのグループが手を組む……もっとズブズブだな。
「あと……例のものをあちらに」
「はい、例のものですね」
例のもの……?
「……もう奥様たちもいらっしゃいますから流石に仲間外れになりますからね、お話ししますね」
『あぁ』
「隣の部屋に三葉さんのネックレスとスケキヨくんがつけていた遺骨ジュエリーを回収させてもらいます。同意いただいたということをお伺いしていましたので本日手続きさせていただきます」
『はい、悔いはありません。この数日も乗り移ることなく大人しくここで考えておりましたよ。まるで学生時代に経験した座禅や滝行のことを思い出しましたよ』
「それはそれは。……お預かりしたジュエリーはまた姉……会長に渡しまして墓跡の一部の何かに返させていただきます」
こないだ無理やり成仏させようとしたと思えないくらい丁寧に離されたのだが。一体どんなふうになるのだろうか。
「せっかくお姉さまが作ってくださったのに申し訳ないのですが和樹さんも了解してのことですので、ぜひよろしくお願いします」
そうだった、俺の声が聞こえるのは倉田だけだったか。倉田と三葉たちは隣の部屋に移って作業してた。すごい徹底ぶりだ。隙のない男だ。
「じゃあだったら今からお経をお上げして……」
『え、そ、そそそそそそれは! 墓ができるまで!!』
「往生際がわるい。……って冗談ですよ。その二ヶ月までこの中でじっとできますか」
『できます……俺はここで待っている人がいる。そのためならここで待つことができる』
「左様でございますか」
……って言ったものの、どうなんだろうか。二ヶ月、あっという間だろうか。でも大丈夫だ。若菜がここにきてくれるのを待つ……。墓のことに関しては話せなかったが連絡が来て今月来れるようだ。
「あと、倉田さん……お話があって」
「はい、どうかされましたか」
「あ、あのですね。先日そちらの会社のパンフレット見たら結婚事業もされているって書いてあって」
結婚事業? 倉田が前のめりになっている。俺もつい前のめり……。ってできない。てか葬式業もやって結婚式業も携わっているのか、抜かりない。
「はいはい、私どもの寺で挙式もやってまして。ご希望であれば提携のドレス会社、披露宴でしたら提携のホテル、式場、ケーキやお食事は……」
「あ、その、全てお任せしたくって……」
『ええええええええっ』
「えええええええええええええ」
倉田はこっちを見た。なんでお前も驚くんだよ。てか三葉、倫典もそんな金あるのか? それに俺に何も相談なしに。
三葉と倫典はなんか目を見つめ合ってモジモジしてる。なんだ?
「そ、そのですね。お墓の出来た日と結婚式を同時にしたいと思っていて」
俺を墓に入れて倫典と再婚するってことか……? いつの間に結婚の話を。プロポーズでもされたのか、いつの間にか。べ、別にゆ、ゆ、許さないわけではないのだが。
何倉田は笑っている。お前は美味しい思いをしているだろうな。良かったな!感謝しろよ、俺が死んだ事で葬式もやって仏壇にジュエリーに墓に結婚式に!!
「これから大忙しですねぇ、お墓も結婚式準備も。お任せください、結婚式のエキスパートがいまして。うちの妹夫婦が結婚式事業を……妹の夫の家族が元々結婚式場の運営をしていましてノウハウもバッチリ、段取りも完璧ですので最短で一週間でも可能なんですよ」
おい、倉田はどこまで手広く攻めているんだ……。彼がカバンから取り出したタブレットで色々結婚式の写真を見せたり説明をして墓の話はもう終わってしまった。
俺置いてけぼりじゃないのか。確かにあの三葉と混じり合ったあの日を境に彼女の雰囲気は変わったのだ。ちゃんと仏壇には手を合わせてくれるし、お供物もしてくれるし、そこらへんは変わらんのだが……。
なんだ、この雰囲気は。俺も俺で乗り移る気持ちも無くなってきたし、(倫典に関しては俺が戻った後にかなり体にダメージがあったらしく、もう金輪際乗り移るなって怒られた……)あぁ、なんだろうか。
「やっぱりお辛いのであったらお経を読み上げて楽にしましょうか」
『……結構だ』
それをいうだけで精一杯だった。
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