思いと理由と、思いがけない着信

「君がほしいんだ」


真っ直ぐな目で僕を見据えながら放たれた台詞に、思わず思考が止まる。


「…………へ?」


とだけ、間の抜けた音を発した僕を見て我に帰ったのか、不来方くんがあたふたと続けて言う。


「ああ、いや違う、いや違くもないけど」


違くないのか!?と脳内でツッコミを入れつつ、自分以上に慌てている人を見て逆に落ち着くという現象に襲われる。


お前もテンパってんのかーい、と…………何となくだけれど、雑に扱って良いような気がしてきた。2人で一頻りわちゃわちゃと慌てた後、仕切り直して不来方くんが改めて口を開いた。


「僕が詩を書いてるのは知ってると思う」


「うん、知ってる」


「それでさ、一つ夢があるんだ。それは後で説明するんだけど……その前に一つ、質問してもいい?」


僕が頷きを返すと、不来方くんも一つ頷いてもう一度口を開く。


「藤野はさ、『詩人』って言われて誰がパッと浮かぶ?」


「僕が知ってる人ってこと?うーん………、まど・○ちお、谷川○太郎くらい、かな?」


あとは茨木○り子あたりだろうか。授業でやったような気がする。


「うん、それくらいだと思う。そしてそれは、」


一つ区切って、不来方くんは続けた。


「若い詩人だったり、新しい詩が世の中に知られてないってことなんだ。もちろん自分で書く人は知ってる、って人はたくさんいるけどね」


言われて、あ、そうかもと気が付く。確かに親世代はおろか、祖父の世代よりももっと前の2人の名前を挙げている。


言葉をさらに繋げる不来方くんの、その内の熱みたいなものが僅かに覗く。


「だけど、僕はたくさんの人に、今よりもっと詩に触れてほしい、と思ってるんだ。僕の『夢』っていうのは、それのこと」


「でもやっぱり、『詩』って何となくとっつきにくいのも分かるんだ。なかなか手に取ろうなんて思わないのも」


「確かにそうかも。詩に感動する、みたいな体験って無かったような気がするし……単純に触れる機会の少なさもあると思うけど」


「やっぱりそうだよね……読んでも良く分からないなんてザラ、というかそっちのが多いし。…………それで、まずは『機会』を用意しないといけない。僕が考えていたのは、SNS上で発信すること」


「というと?」


「写真と文字、この場合は詩を合わせて投稿できたらな、と思ってる。賞を貰った賞金で、写真家さんに依頼することもできるし」


なるほど、それなら取っ付きやすくもなるかも、と答えると、不来方くんは「もう一つあるんだ」と言って続けた。


「詩の、朗読。それに合わせて、アニメーションだったり無声動画だったり……色々を付けて見たいんだ。で、それに伴って『良い声の人』を探してたんだけど…………」


不来方くんは照れたように頭をかいて、


「それで、『√』を見つけてファンになった……ってわけなんだ」


と締めくくった。


「なるほどなぁ……」


腑に落ちた、という感じだ。そして冒頭の「君がほしい」、というのは恐らく、


「で、その朗読を僕に……ってことかな?」


不来方くんは「言葉足らずすぎたーっ」と再び慌てた後、


「うん、そういうことなんだ」


と頷いた。


「紛らわしいわ!!『不来方くんってそっちの人なのか……!?』まで考えたんだよこっちは!」


「いや違う誤解だ!?僕は女の子が好きだよ!!」


「お前のせいだからな!?」


と、何でこんな打ち解けてしまった……という会話を交わす。知的で物静か、というイメージが音を立てて崩れていきました、ハイ。



……そして何と言おうか、少し迷う。迷ったけれど、やっぱり言葉ははっきりと伝えることにする。


「で、その朗読なんだけど……ごめんだけど、少なくとも今は確実に無理だ。今日はたまたま空いてたんだけど、実は凄く忙しくてさ……学校行くか、『√』の活動してるかの2択が生活占めてる感じ」


続けて言う。不来方くんは、静かに聞いていた。


「それと、不来方くんと、不来方くんの詩がどんなものか良く分からないからっていうのもある。『√』を始めた時に、『僕らが楽しいと思えることをしよう』って決めたんだ。だから、tamaとしてやることは僕がやりたいと思えることなんだ」


だから、今は受けられない。でもまずは、君の詩を読ませてほしい……と続けて締めくくると、不来方くんは立ち上がって、ファイルを一つ手渡してきた。


「答えてくれて、ありがとう。これ、僕の詩が入ってるから時間のある時でも読んでくれたら嬉しい。……考えてみれば当然だよね、独りよがりな頼み方だったかも」


いや、そんなことないよ、と言うと、ようやく部屋の中の空気が緩む。


その緩んだ空気に、お互いに苦笑を浮かべた、その瞬間だった。ブーッ、ブーッ、と、ポケットの中のスマホが着信を伝えてくる。


不来方くんに手で断りをいれて着信に出ると、『ライムライト』の運営さんからの着信だった。


「あ、もしもし、tamaです」


「もしもし、今時間大丈夫ですか?」


「あ、はい、そんなに長くなければですけど」


「すぐ終わります、確認だけなので……えっと今日、配信予定だったと思うんですが、そろそろつぶやいておいて頂くと」


はっ。すっかり忘れていた。


「すいません忘れてました、了解です」


「いえいえ、大丈夫ですよ。あともう一つ、これは大したことではないんですが」


何だろう?と思いながら続きを聞くと、予想だにしない名前が電話の向こうから流れる。



——「不来方陣さんって方、もしかして同じ学校ですか?詩を書かれている方なんですけど……ウチで勧誘したいな、と思ってまして」と。






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サクサクした作者より


作者は複数のヒロインを書けるほど実力がないッ!性別以前に不来方くんがヒロインになる未来は無かったのだッ!!


ちなみに、こずかた、と読みます。宜しくお願いします。


今日の一曲をば。Guianoさんの代表曲の一つ、『スーパーヒーロー』です。作者のトップクラスに好きなボカロの曲の一つです。




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