身バレは突然に、そして

「はじめまして、『√』のtamaさん」


それは全く想像していなかった不意打ちで、何とか言葉を捻り出そうとするけれど、そう都合よく咄嗟に言葉は出てくれない。


緊張を孕んだ沈黙の後に結局口にできたのは、間接的にそれを認める発言だった。


「…………よく知ってるね、『√』なんて」


抑えたつもりだったけれど警戒感は伝わったのだろう、不来方くんは手を押しとどめるようにしながら口を開く。


「あ、もちろんだけど誰かに言いふらしたりはしないよ。誓って約束する」


「……それ、一筆したためてもらってもいいかなって聞きたいくらいなんだけど。不来方くんのことをよく知らないから、信用しようにも」


「当然だと思う、そうするよ」


1番恐れていた個人情報全バレ、というのは何とか避けられそうだけれど……これで一安心、というわけにもいかない。


ただ、その警戒感はまだ残っているけれどそれより疑問の方が大きい。


「どこから気付いたの?藤野環が『tama』だって」


そう問い掛けると、不来方くんは「確信があったわけじゃないんだ、実は」と言ってから続ける。


「このカフェが僕の家だって話はしたと思う。それでこの前、藤野君と妹さんが来てたのを見かけたんだよ。オムライスを注文してくれてたのも」


苦笑して、不来方くんはさらに続けた。


「それでさ、…………本人の前で言うのも恥ずかしいけど、結構前から『√』のファンなんだ、僕」


あっ、と、頭の中で繋がるものがあった。


「それで運営さんにしてやられてつぶやいた『デートコースと時間帯』を見たのか……」


「うん、そういうこと。で、『いやそんなわけ……』って思ったんだけど、学校でそういう頭で声を聞いたら尚更そうとしか思えなくなったんだ」


だからさっきの質問も鎌かけみたいなものだったんだ、と頭をかく不来方くんを見て、がっくり、と肩を落としてしまう。……「いや、違いますけどー(笑)それ誰?」で誤魔化せたかもしれなかったのか……。


まあ、不幸中の幸いというか、


「身バレしたのが不来方くんでまだ良かったよ……疑惑の段階でSNSとかに投稿されてたらどうしようかと思った」


ということになるのかもしれない。ギリギリセーフなアウト、みたいな。


「あ、僕RINEしかしてないし、家族しか登録してないよ。トーク画面も見せれる……あれ、言ってて何か悲しくなってきた」


と言ってくれる不来方くんに「いや、そこまではいいよ、ありがとう」と答える最中、疑問がもう一つ浮かび上がってくる。



「そういえば、何で確かめようと思ったの?」


単なる好奇心で動くタイプの人には見えないし、仲良くない状態で聞いて違ったりしたら気まずくなること確実の質問だ。何でなんだろう、と聞いてみる。


ファンマナー的にはダメなのは分かってたし、好奇心もなかったとは言えないんだけど、と言った後、不来方くんの顔がふっ、と引き締まる。


そして不来方くんは、こう言ったのだった。


——「君が、ほしいんだ」と。






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本当にお待たせしてしまいました……!ただ、明日も投稿できる予定ですので、読んで頂けると幸いです!


久々(自分のせい)ですが、今日のおすすめの一曲。マカロニえんぴつさんの、『ミスター・ブルースカイ』です。マカロニえんぴつさんの歌詞はストレートなんですが、ただのラブソングにならない深さがあるように思います。


それでは、またお付き合いくださいませ。

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