波乱の始まりは夏休みと共に

すぐそこに迫った夏休みに浮かれた雰囲気の学校は、今日の終業式をもって夏季休業である。内部進学のほとんど決まった三年生も含め、生徒たちはどこか浮足だったように終業式に出席している。


「表彰を行います。3年4組、不来方 柊君」


呼ばれた名前がクラスメイトのそれだったので、少し驚く。不来方くん、物静かな人だというのもあって余り話したことのない人だ。


などとぼんやり考えていると、教頭先生が次に発した一言はあまりに驚愕ものだった。


「第六十八回大原大也賞、おめでとう」


不来方くんは何事もないように頭を下げているけれど、この時の僕の頭の中は「!?!?」でいっぱいだった。


「大原大也賞ってそれ、詩の賞で一、二を争うやつ……!」


それも当然の大詩人の名を冠した賞である。一応進学校ということで、知っている生徒も割といるらしく、「マジ?」「え、すごすぎ」と、そこかしこでざわめきが起きている。そんなサプライズニュースを最後に終業式は終わったのだった。





すごいなぁ……と思いながら教室に戻る。既に放課後に入っているのでこのまま家に真っ直ぐ帰るか、あるいはどこかに寄って帰ろうか、と考えていると、後ろから肩を叩かれた。


「うわ、びっくりした……って、不来方くん」


後ろを振り返ると、ホットな人物である。


「不来方くん凄いね、大原大也賞とか僕でも知ってるもん」


不来方くんは一つ頷いて、「ありがとう」と静かに言った後続けて、


「今、……というかこれから、少し時間あったりする?」


と聞いてきた。そういえば何で話しかけられたんだろ……と思いつつ、それも聞けるかなと思い直して頷きを返す。


「うん、大丈夫だけど」


僅かに不来方くんは頬を緩めて続けて言う。


「えっと……場所変えてもいいかな」


「うん、いいよ」と学校を出て不来方くんについて行く。実は以前から不来方くんとは仲良くなれる気がしていたのだけど、中々忙しくてどうにも、といったところだったのだ。だから割とこの時の僕は、ウキウキしながら後をついて歩いていたのだ。


そして移動すること十数分。何と不来方くんに連れられて来たのは、この前夜月と来たオムライスの美味しいカフェだった。


「不来方くんもここ、来たことあるんだ。オムライスめっちゃ美味しいよね」


とオムライスの味を思い出しながら言うと、不来方くんは苦笑と共にこう言ったのだった。


「ここ、俺んちなんだ」


裏口から階段を登りつつ「えっ」と呆気に取られた僕に不来方くんは続けて、


「この前藤野が来てくれてたのも知ってる。妹さんと一緒に」


これに驚いたのは僕である。もちろん、


「ここ不来方くんの家だったのか…!」


という驚きもある。けれどそれだけではなく、むしろこっちの方がメインで、


「え、妹と来たなんてどこかで言ってたっけ……?」


店内でも学校でも「この前妹とオムライス食べてさー」なんて話した覚えは無いから、顔を見て判断したのかな……という思考は、少しある意味危機感の薄いものだった。


「まずは、入って」


と、不来方くんが示した彼の部屋らしき部屋に、促されるまま入る。


そして、不来方くんは波乱の幕開けとなる一言を発したのだった。


「こう言うとさっきの疑問も分かるはず。……はじめまして、『√』のtamaさん」と。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

作者より

大変お待たせしてしまいました……と謝らなければいけないところなのですが、しばらくさらに忙しくなりそうでして、更新はかなり不定期になります。エタりは作者も望むところでないので、何とか更新は続けていく所存ではあるのですが……。申し訳ありません。


ちなみに今回の話に出てくる大原大也賞は、現実の中○中也賞とは一切関係ありませんので、ご承知下さい。作者、文芸部で詩を書いていたこともあり、詩人を出したかったのですw


そして皆様のおかげで星1000がいつの間にかそこまで来ており、応援頂いた全ての方に感謝感謝です。これからも頑張りますので、お付き合い頂けると幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る