【RF外伝】店主の相方/Raymond's Buddy

ウツユリン

ハーマン・アイラのフューエル&モーテル

「マーサ、ちょいと手を貸してくれんか。棚がガタついてやれん——」

「はいな、レイ」

 言い終える前に返った、陽気とも言える声。その返事に、レジカウンターへしゃがみ込んでいた老人が、ハッとして振り返った。

 そうして視線の先、店で一番目立つカウンターの壁に設置された動く写真ホロフォトに目が留まる。

 被写体は、年齢を感じさせる一人の女性。

 その女性はちょうど老人が今、立っている店のレジに腰掛け、店名のロゴが入ったエプロン姿でこちらに向かって穏やかに微笑んでいる。

 微笑むといっそう、目元に皮膚が寄った。彼女の顔にはそんな、生きてきた苦労の分だけ刻まれたような皺たちが、あちらこちらに散らばっていた。

「……」

 写真を目にし、同じく長い年月を感じさせる深い皺の刻まれた老人の顔に一瞬、喜びの色が花開く。——が、すぐにその顔が痛みを押し隠すように苛立たしげに歪められる。

「ごめんねえ、レイ。あたしゃ、このとおり動けないんでねえ」

 間延びした、悪びれるようなかすれ声。老人——レイモンドを長年の愛称で呼ぶその声は、紛れもなくレイモンドと生涯、愛を誓いあった妻の声だ。

 ——が、その伴侶の声は、在りし日のように近づいてくるどころか、壁に貼りついたままで、どこかよそよそしく感じて。

「……ああ。すまんな、つい」

「レイ、ご飯がめんどうなときは、アンナさんにたのむといいよ。あんたが好きなシチュー、作ってくれるさ」

 ——街のコックをしていたそのアンナは、十年も前に死んだ。

「……ああ。そうだな」

「レイ、こんど旅行でも行かないかねえ? ラシエ山なんかどうだい。ちかいし、セオ君とエリーちゃんもいっしょに、ね?」

 ——その旅行が、自分たちの最後の旅行になった。

「……ああ。そうだな」

「レイ、あんたもええ歳なんだから、あまり無理するもんじゃないよ」

「……ああ」

 噛み合わない会話は、レイモンドが返事をする限り、際限なく続く。これはそういう代物だ。

 写真の会話機能をオフにすることもできるが、その選択肢がレイモンドの頭をよぎったことは一度もない。

 妻のその姿をフレームに収めたのはレイモンドで、発せられた声は生前に撮った紛れもない彼女の肉声だ。止めることなど、できるはずもなかった。

「……ガレージから工具を取ってくる」

 なおも発せられる妻の声を半ば遮って、レイモンドが立ち上がる。

 告げる必要もない行き先を口にしたのは、立ち去る意図を示せば彼女が会話を打ち切ってくれるから。プログラムはそういうところだけ、気づかいができる。

 ——逃げるように背を向けたレイモンドの背後から、「ごめんねえ、レイ」と再度、謝罪の声が届けられて。

「……」

 今度はレイモンドもそれには答えず、バックヤードへつながる古びたドアノブに手を掛けた。

 そうして見送る写真の、ひどく哀しげな相方の目から逃げるように、レイモンドは後ろ手でドアを閉めた。


 *  *  *


 レイモンド・ハーマンとマーサ・アイラが永遠の絆を結んだのは、半世紀以上も前のことになる。

 寡黙なレイモンドが自分たちの馴れ初めを大っぴらに明かすはずもなく、もっぱら、妻のマーサが街の者たちに話してきかせていたようなものだ。

 この街は変わり者ばかりで、詮索好きな者はほとんどいなかったが、店の客が自分たちしか知らないはずの思い出を、頬に手を当てながら話している光景に慣れるまで、少し時間が掛かった。

 そんな聞く側が頬を染めるような大恋愛を経て結ばれたレイモンドとマーサは、程なく息子を授かり、パーシーと名付ける。そこからは絵に描いたような日々が続き、一家は穏やかに時間を経ていく。

 ——が、それですべてが終われば、夫妻はここに来ていない。

 ——三十年前、パーシーがこの世を去らなければ。


 *  *  *


 ショップの備蓄庫として使っている裏手の倉庫を足早に通り抜け、洗剤やハミガキ粉やら、長持ちする商品たちの並ぶ一角で足を止める。

 何の変哲もない棚の、なぜかそこだけ色あせ気味の衣類洗剤のパッケージを奥へ押しこみ、露わになったパネルへとレイモンドは己の掌底を押し当てた。

「レイモンド・ハーマン。"穏やかな夜に身を委ねてはならないDo not go gentle into that good night"」

 ガチャンと、明らかに重すぎる開閉音と軽い電子音に続き、商品棚が横へスライドする。

 現れた重厚なハッチもまた、すぐさま道を空け、レイモンドの姿を飲み込んだ。


 ガレージといっても、一般に想像するような散らかった薄暗い倉庫とは趣が異なっていた。

 レイモンドの入室を検知したセキュリティシステムが直ちに暖色の照明を灯し、整然と並べられた棚の森林が浮かび上がる。

 レイモンドの背丈を超すノッポな格納棚が天井ギリギリまで屹立し、それぞれの間を人が一人、通り抜けられるだけのスペースが区切っている。

 一見して、図書館か資料室の印象が強い空間だった。

「……ここも処分せんとな」

 そう独りごち、レイモンドはぐるりと己の秘密の部屋を見回す。

 この資料庫は妻のマーサも知らない。——否、レイモンドのことなら何でもお見通しの妻のことだから、実は、気づいていて素知らぬフリをしていたのかもしれないが。

 それも今となってはもう、訊くことの叶わない過去のことだ。

 過去は変えられない。——息子のパーシーがもう帰ってはこないように。

「……」

 紙媒体のファイルで多くが占められたドキュメントラック。

 はみ出した資料の一部には『国際海洋警察機構』『内秘』『持出厳禁』などのスタンプが押されたものも少なくない。

 棚の間を歩きながら、レイモンドはそこに仕舞われた黒い記録と記憶につかの間、思考をたぎらせる。


 *  *  *


 息子の死の真相を知るべく、それこそレイモンドは燃える勢いで奔走した。

 かつての街を出ることになったのも、思い出のつらさ半分、もう半分は、レイモンドの強引すぎた情報収集のツケとも言えた。

 だが何よりの代価は、息子の死を受け入れられないレイモンドが現実から——唯一残された家族のマーサから、目を逸らし続けたことだった。

 気持ちがすれ違ったわけではない。ただ、妻といるとどうしても、息子の姿を思い出さずにはいられなかった。

 真相を知ったところで、パーシーは帰ってこない。

 ならば、残された家族をだいじにすべきだったのに、レイモンドはそれをしなかった。

 ——そうして気づいた頃にはもう、遅く。


 *  *  *


 資料庫を抜け、今度は打って変わって透過光がまぶしい、こちらがメインのガレージに出る。

 それまでの陰湿なインクの匂いと、乾ききった密室から解放されるように、レイモンドはハシゴを降りていき、固いコンクリートの床へ踵を鳴らして着地する。

「——ん?」

 そうして透過ヴェールから降り注ぐ晩秋の日光に背伸びしたレイモンドの目が、ふと、救助艇〈ハレーラ〉の格納庫を兼ねる、整備場の一角へ留まる。

「セオか。どうした、こんなところで」

 レイモンドの声を聞き取り、その三角耳がピクリと鋭敏に跳ねる。

「————」

 工具やメンテナンス用の端末が積み上がったコンソール。

 そこにしゃがみ込んでいた茶黒い巨躯がのそりと立った。


 *  *  *


 ——駆けた走馬灯の最後は、いつも通りに家を出ていく息子の後ろ姿だった。

 ——直後、眼前へ迫った鋭い爪は、茶黒の残影にさらわれる。

「————」

 レイモンドたちへ襲いかかった、黒狼。

 それのものとは異なる、気合いを感じる獣の吐息を、レイモンドの耳がかすかに捉える。

 それは背中に庇った妻のマーサも同じだったようで、だがマーサは「伏せて!」と、誰かの指示を聞き取ったような鋭い声を上げた。

 半ば反射的に妻の声に従い、二人で頭を低くしたとたん、頭上を何かが突っ切った気配がした。

 続く、手近で爆発物が炸裂したような振動と轟音。——が、痛みは訪れず、横切った強烈な風圧が衰えてきた足腰を揺らしただけだ。

「レイ……」

 ひしひしと肌を震わせていた恐怖が遠のき、呼びかけにつられてレイモンドは妻の視線を追った。

「助かった、のか……?」

 自分たちのいるレジからも見える、モーテルの駐車場。

 大改修は免れそうにない穿うがちたてのその陥没へ、黒い巨躯が突っ伏していた。

 ふらりと店を訪れ、強盗らしく感情を昂ぶらせた挙げ句に黒狼化し、レイモンドたちを襲った張本人。その黒狼は身じろぎ一つせず、なおも途切れない涙がアスファルトの割れ目へ染みこんでいた。

「————」

 その奥、スクラップと化した客のトラックにめり込むようにして立つ、茶黒い巨影。

 外見は倒れ伏した黒狼と大差ないが、身体中を覆う獣のちぢれた毛色と、ひとまわりは大きい体躯が偉容を放つ。近傍の国立公園をほっつき歩いてでもきたのか、薄汚れたその茶黒い剛毛の広い肩を上下させ、激しい戦闘の疲労を隠しきれない。

 その、本能的に目を背けたくなる見てくれのなか、ただ一つだけレイモンドの目を捉えて離さない箇所があった。——"彼"の目だ。

 何もかも似ていない、見知らぬ"彼"は、ヒトですらない。

 なのに、深海の色をしたその双眸を見たとたん、レイモンドのなかで突っ張っていた何かが、ふっと安らいでいた。そうして視界が歪んでいく。

 ——なぜだろう。

 レイモンドはそこに、亡き息子の面影を感じていた。


 *  *  *


「——ハハッ‼ そうか! リエリーが手伝ってくれんボイコットか! 戦錠バトルロックのマロカ・セオークも、娘にはからっきしだな! 『レンジャーを辞める』などと言うたんだ。そりゃあ、相手にされんだろうよ。あの子にとっちゃ、レンジャーは人生そのもんだからな」

 レイモンドの豪胆な笑いが、高い天井のガレージを震わせていく。

 その隣、コンクリートの床からスパナを器用につまみ上げた茶黒の巨体——セオークが、纏った燐光の外套をはためかせ、少し心外とばかりに吐息をもらした。

「まあ、そう落ちこむな。おまえさんの気持ちは、わかる」

 コンソールの指なじんだ感触を確かめながら、レイモンドがそう同意を口にする。共感され、だが戦錠は気づかわしげに視線を寄越しただけで、ひと息も発してはこない。

 それが当然の反応だと、ふんぞり返れるほど、レイモンドも自意識過剰に生きてきたつもりはなかった。

 確かに当時、セオークを匿ったのは事実だ。

 己の身体の変化に戸惑うセオークが、気持ちの折り合いをつけられるまで、夫婦で面倒を見た自負もある。

 反対はしたが、再びレンジャーの道を歩めるサポートもしたし、それは現在進行形で二十年以上、続いている。——が、それも結果論のようなもの。

 レンジャーは危険な仕事だ。

 己の命を賭し、他の命を救う。生物としての基本原理をかけ離れた行為に変わりは、ない。

 結果的にうまくいったからといって、本当にその選択でよかったのか、今でもレイモンドは正誤の判断に自信がない。

 だから〈ハレーラ〉が飛び立つ音を耳にするたび、レイモンドの頭にあの光景がよぎる。——帰ってこなかった息子の、その後ろ姿が。

 ——それでも、結局「行くな」とは言わなかった。

 なぜなら——、

「——マーサには、叱られたもんだ。おまえさんの気持ちを理解しとらん、行かせてやれ、とな」

 しばし、道具類を仕舞う音だけがこだましていたガレージ。

 その静寂を破り、レイモンドは言の葉を継ぐ。

「おまえさんが人助けしたいのは、目をみればわかった。じゃからわしは。一度レンジャーにもどれば、おまえさんは立ち止まらないだろうからな。じっさい、そうなったろう?」

「————」

「いいや、謝ることじゃない。わしの反対を押し切って、おまえさんはレンジャーに復帰した。それから二十年、大勢を救っただろう。わしとマーサも、おまえさんがいなけりゃ、生きとらん。しょぼくれとらんで、そのデカい胸を張れ」

 振り向きざまに拳を巨体へ叩きつける。

 身長差のせいでその拳は予定の胸部を外れ、鋼の硬い腹部へ命中。いささか力を込めすぎたらしく、打った側のレイモンドの腕が痺れて「どんな鍛え方しとる⁈」と、思わず理不尽に八つ当たりしてしまった。返る、ひょうひょうとした吐息に、レイモンドは太い眉を吊り上げると、

標準仕様デフォルトじゃと⁉ ふん、年寄りじゃからと、ぬかしおって。……いいか、わしはおまえさんがそのユニフォームを脱ぐまで、辞めるつもりはないからな。下りるおまえさんを見届けてから、店じまいだ」

 セオークが羽織った、蒼く発光するトレンチコート。救助体レンジャーたるあかしのその制装ユニフォームを指差し、レイモンドは改めてそう宣言した。

 二度も、帰らない背中を見送るつもりはない。

 セオークがレンジャーを辞めるというなら、レイモンドはそれを見届けてから隠居する。

 目を逸らしたせいで大切なものを失うのは、二度と御免だった。

「————」

「ん? 相変わらず、鼻がきくな」

 と、戦錠の鋭敏な鼻が伝えた来客に、レイモンドは素直な感嘆の言葉をこぼす。直後、コンソールから通知音が鳴り、表情に乏しいセオークの顔がサッと、青ざめた。

 跳ねそうになる口角を抑えつつ、レイモンドは指を動かすと「よお、ルヴリエイト」と通信の相手——サッカーボールに似た月白の正十二面体へ、片手を持ち上げる。

『レイモンドさん。お仕事中にごめんなさい——』

 いつも通り、丁寧に会釈のピクセルパターンを返すと、ルヴリエイトは眉を落とす仕草ジェスチャーパターンをし、言葉を続けた。

『うちの戦錠、お邪魔していませんか? エリーちゃんと話をしてって、言っていたらマロカ、急に"トレーニングに行ってくる"なんて言いだしちゃって。そのまま出ていったんです』

「……ほう。で、おまえさんはまたどうして、わしのところにいると?」

『だってあの人、ルーティンのランニングまで三時間もあるんですよ? そんな長時間、ジッとしていられる人じゃないですから。それでもしかしたら、レイモンドさんのガレージで頭を抱えているんじゃないか、とおもって』

 AIであるルヴリエイトの人工音声は、呆れ半分、もう半分が心配といったところだった。そこから伝わってくるのは、家族を知り尽くし、一心にその身を気にかける愛情しかない。

『それに、お昼だって食べずに出ていって……。エリーちゃんはユウちゃんと練習だって、ベガスラスまで行っているし。ワタシ、心配なんです』

「……心配?」

『ええ。この前の火災、あれからマロカ、いろいろ考え込んでいるようで……。普段、顔には出さないんですけど、自分のことを責めているんだとおもいます。エリーちゃんのこともですけど、なんだかこのまま、家族がバラバラになっていきそうで……』

 コンソール越しに、ルヴリエイトの沈んだピクセルパターンがゆっくりと波打っているのが見えた。こちら側にはカメラは付いておらず、そのことがレイモンドはひどく卑怯なことのように思える。

 アルゴリズムAIたるルヴリエイトには、人間には十八番おはこの『表現を偽る』ことができない。つまり、哀しげに揺れる月白のピクセルはそのまま、彼女の言葉の通りの気持ちを表している。

 待たされる側の焦がされるような想いを、レイモンドは三十年以上も胸に抱えてきた。その結果、ルヴリエイトの言葉を借りるなら、レイモンドの家族はバラバラになり、ついにレイモンドただ一人になってしまった。

 自分を一生、許せないのは自分の自業自得だ。

 だが、同じような過ちをみすみす、放っておくのは罰当たりでしかない。その相手が家族なら、なおさらだ。

「セオ——」

 戦錠の、家族から逃げてきた気持ちもレイモンドはわかる。ならば、あいだを取り持つ役割は自分しかいないだろう。それに、妻がここにいれば、きっとそう背中を押すはずだ。

 そのことを伝えようとし、呼び慣れた名前を口にしかけたところで、ぬっと相手の巨体がこちらを向いた。

「————」

「——そうか。それがいいな」

 軽く顎を引き、目礼と吐息を寄越したセオークが、身軽にガレージのシャッターへ足を向ける。そうしてガラガラと引き上がったシャッターの向こうでは、下午の柔らかな光のなかを正十二面体がプカプカと浮かんでいた。その白い筐体は対照的な茶黒の影へ何かを告げると、レイモンドのほうへと漂い始める。

「あいつを責めんでやっとくれ、ルヴリエイト。わしが、引き留めたようなもんだからな」

「ええ。あっ、いえ、責めるなんて。レイモンドさんには皆、感謝しているんです。……あの、これよかったら」

 球体のボディが複雑なパターンで花開き、内部から東洋の皿らしいブルーのプレートがせり上がる。そこに載っているのは、やたら色合いの濃い切った野菜で、立てる湯気からは嗅ぎ慣れない異文化の匂いが漂っている。

「お、おう。こいつは……?」

「筑前煮、っていうんだそうです。むかし、マロカが極東で任務中に食べたらしくて。再現してみたんですけど、ほら、彼って舌がから」

 おそるおそるAIの手料理を受け取り、レイモンドは彼女にそれとなく気づかれないよう、提案者の"彼"のほうを見やる。知り合ったときから変わらない深海色の瞳が、まるで怒られると知った子どもよろしく、すーっと泳いでいった。

 ——そういうところも、そっくりだった。

「——くくっ」

「あら⁉ もしかしてワタシの和食、見た目が変だったかしら。やだ、どうしよう……」

「いやあ、すまん。つい、な。なかなか美味うまそうじゃないか。マーサと、ありがたく頂こう」

「まあ! うれしい。お口に合ったら、また作りますね」

 器用に筐体を縦回転させ、来た方向へと、ルヴリエイトは戻っていく。そこではちゃんと茶黒い彼が待ってくれていて、一機と一体は並んでレイモンドの視界から歩き去っていった。

「さあて。わしらも、昼飯にするか」

 せっかく届けてくれた料理を、このまま冷ますのももったいない。レイモンドはコンソールを手早く操作すると、メンテナンス用のプロトコルを脇へ押しやり、ディスプレイの中央に見慣れたその写真を呼び出して、名前を呼びかける。

「そっちからじゃ、見えんだろうがマーサ。ルヴリエイトが料理を作ってくれたぞ」

『レイ、お昼はもう過ぎてるよ。ちゃーんとランチ、たべたのかい?』

 はすの根らしき切れ端を指でつまみ上げ、口に放り込む。

「ああ、いま食ってる。……こいつはまた、変わった味つけだぞ、マーサ」

 口のなかを駆け抜ける、強い、強い塩味。

 それは、頬を拭った指でそのまま、つまんだせいなのかもしれなかった。



《了》

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