巡る季節の中で…

無天童子

秋の終わりの晴れた空

 春夏秋冬、季節は大きな流れとなって巡っていく。

その流れは、誰にも止めることは出来ない。


 一人の男が、ひたすらに歩き続けていた。

ただひたすらに、何かを求めて……


 彷徨い、流浪さすらい、歩み続ける。

彼の歩みもまた、誰かに止められるものではないかもしれない。


 ふと、立ち止まった。

足元に、一枚の枯れ葉が落ちる。

まるで、自分の姿を映しているようだと思った。

茶色く濁り、混沌としたその心を……


 今の自分は何をしているのだろうか?

まことの自分は、どこへ消えたのか?

その遠ざかる影を追い求めて、彼はひたすら歩いていたのだ。


 不意に強い風が襲い、先ほどの枯れ葉を、周りの落ち葉の中に隠し

巻き上げていく。


 風の中に、あの日の……彼の一番良い思い出が見えた気がした。

あの頃の自分は、何を考えていたのだろうか。

遠い昔のことのように、思い出せない。


 風が止んだ。

浮き上がったものが、元の位置へ帰っていく。

再び歩みを進めようとしたとき、

彼のもとに再び、一枚の樹の葉が、はらりと舞い降りていく。


 今度は……ひとひらの紅葉。


 拾い上げ、じっと見つめる。

あの日の自分が、うっすらと思い出された。

傍に佇む、大切な人……

いつもそばにいた……


 ひゅるりと一陣、男はそっと目を閉じた。

手のひらから、彼方へと昇りゆく紅葉の葉。


 静かに目を開けると、そこには、開けた青い空。


 ずっと、下を向いて歩いていた……



 再び、歩みを進める。

自分には、行くべき場所がある。

帰るべき場所がある。


 理想を求めて、時は過ぎ

その間に、大切なものを見失っていた。



 力強い歩幅、それを空から見守る一人の姿。


「探し求めた、理想は見つかりましたか?」


 微笑みをたたえながら、男に尋ねる。


 男は振り返り、一言。


「理想を探し求めるよりも、今の自分を見失わずに、これからを生きていきます」


「そうですか……それは良かった……」


 静かに、呟く。




 気が付くと、あなたの姿は私からは見えなくなっていた。


 ありがとう……ようやく、自分を思い出せました。

己の責務を全うした後、すぐにあなたに会いにゆきます。

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巡る季節の中で… 無天童子 @muten-douji

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