エピローグ

 辺り一面を、霧が包み込む。

 彼はその霧の中に、姿を隠す。大きな鎌を持って背後から近寄り、不意打ちで、逃げ惑う『影』を切った。


「いいぞ、リツカ。その調子だ!」


 氷のナイフで戦う青年カイリは、リツカを褒める。


「僕も段々、ちゃんと戦えるようになってきたよ」


 実戦を重ねるにつれて、リツカも戦力になってきた。リツカはみんなの役に立てることが、ただ嬉しかった。


「さっさとやっつけて、早く飯にしよう。腹が減って仕方がない」

「そうだね。あ、でも待って、確か今日の料理当番は、カイリだったよね?」

「ああ。俺の手料理、楽しみにしとけよ」

「もう、それは勘弁してよ」


 と、リツカは呆れたように笑った。それにつられてカイリも笑う。

 今まで、色々なことがあった。様々なことに絶望してきた。そしてこれからも、辛いことや苦しいことが待っている。

 だけど、今は一人ではない。二人でなれば、どんなことだって、乗り越えていけるような気がした。


「さあ行くぞ、リツカ」

「うん、カイリ」


 リツカは再び霧を作り出し、『影』を包み込んだ。そして、リツカとカイリは一斉に、『影』に襲いかかった。


 『影』を全て狩り終わったあと、空から水滴が落ちてきた。


「あ、雨だ……」


 雨は次第に強くなっていく。


「そういえば、俺たちが出会ったのも、雨の夜だったよな……」


 カイリは呟く。しかし、リツカはその時の記憶が消されているため、あまりピンと来なかった。


「カイリだけ覚えてるなんて、ずるい」


 リツカは頬を膨らませた。


「いいんだよ。俺たちの出会いのことは、お前の分までちゃんと俺が覚えているから。安心しな」

「何それ」


 リツカは納得がいかなかった。しかしカイリは無視して言う。


「さあ、早く帰ろう。びしょ濡れになるのはごめんだ」


 家に帰れば、トオルやユウジやイロハが待っている。そして今はもう、孤独ではない。心を通わすことができる相手がいるのだから。

 頬にあたる雨だって、今はもう痛くない。

 

 二人は雨の中、帰る場所に向かって歩き始めた。




                   

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

影と戦う者たち 秋月未希 @aki_kiki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ