赤く染まる
彼方 紗季
1話目
橋の上にトマトが落ちていた。綺麗なトマト。傷一つない。ヘタの部分が下になり、見えるのは爽やかな赤い色。誰かの買い物袋から落っこちたのか、誰かが置いていったのか。
そんなトマトの横を通り過ぎ、視線を前方斜め下に戻した。こめかみ、足の付け根、脇、首もと、背中。あらゆる場所から垂れてくる汗にうんざりしながら、弓花は歩調を速めた。
「おはよ~」
「おはよ、暑すぎて死ぬ」
「まじそれ」
街中に漂うような香水の匂い。太股の付け根が見えそうな長さのスカート。茶色に染まった髪。カラフルな爪。大きな瞳。赤い唇。
そんなクラスメイトたちの横を通りすぎ、後ろから二番目、窓際の席に弓花は座った。
赤く染まる 彼方 紗季 @kanatasaki
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