オトナのお人形と色ボケ魔女 急

 別れは思っているよりもずっと早く来るのだと、教えてくれたのもアナタでしたね、ジェシー。ジェシーが交通事故で亡くなったのは、まだ冬の寒さが残る早春の出来事でした。


 身内もそういないうえ、元執事もその一年前に他界していたので、遺産が宙に浮きマシタ。悪い連中はそういうところにつけ込むのデス。


「へっへっへ。あの女は五年前、俺に惚れていた。遺産は俺のものだ」


いかにもなセリフを吐いて、いかにもゲスな男が屋敷にやってきマシタ。その男は自分一人だと思っていたようですが、似たようなことを言っている男はあと二人もいたのデス。ワタシは通話のやりとりで、三人が同時に屋敷に来るよう仕向けマシタ。


「あ? なんだお前は? 」


「お前こそ! 」


「俺はジェシーの恋人だ」


「それは俺だ! 」


案の定揉めていマス。しかし三人とも鍵が空いているからと勝手に入ってきマシタね。ワタシは物陰から三人を観察しマス。


「話を整理しよう。あのクソビッチは三股をかけていた、これに異論はないな? 」


眼鏡をかけた一番背の高い男が仕切りだしマシタ。


「そうだ。だが本命は俺だ」


「なんだと! 」


「あの女は俺が一番イイと言っていた。三年前まで会ってたしな」


「俺は二年前まで知り合いだぞ! 」


なんと低レベルな争いなのデショウ。ジェシーはワタシがきて一年ほど経った頃から徐々に男たちとの関係を精算していマシタ。ワタシのためと浮かれてはならない、と考えていマシタが、あの男どもよりはマシでしょうネ。ジェシーはだいぶ男の趣味が悪かったようデス。


 捨て鉢な女に近づく男なんて、そんなものかもしれませんガ。ちなみに


「リップサービスは誰にでもしとくものヨ」


と本人が言っていたので、一番イイはアテになりマセン。男どもだけではラチがあかなそうなので、ワタシは男どものいる部屋に入り、後ろ手でドアを閉めました。


「皆さんヨウコソ」


「うわっ!? なんだこの不気味な人形は?」


「ロボットか……」


「おいおい、まさかロボットに遺産相続させる気じゃねえだろうな?」


三者三様の反応デス。


「遺産は彼女を最も愛していた者へ。というのが遺言デス。皆様の誠意を見せていただきマス」


 背の低い筋肉質な男がワタシに紙切れを渡してきマシタ。


「ジェシーの手紙だ。あのクソビッチが最も愛していたのはこの俺さ」


 ワタシは『彼女最も愛していた者』と言ったのデスが。一応目を通すと筆跡が違いマス。オオカタ知り合いに頼んで偽装したのデショウ。筆跡を似せたらしき跡こそあれ、ロボットをごまかせるレベルではありマセン。


「幼稚なマネをしなくとも良いデスヨ」


「なんだと! 」


 腕っぷしに自信があるらしい筋肉男は、ワタシに殴りかかってきマシタ。オソイ。ワタシは筋肉男の手首を掴んで壁に押し付けマシタ。壁ドンという技デス。


「な、なんでロボットが人間に攻撃するんだ!」


眼鏡男が叫びマス。


「正当防衛デス。それからワタシのようなセクサロイドはSMプレイに対応しておりマス」


「な、なっ」


「ふざけやがって!」


筋肉男がバタバタと暴れマシタ。


「ウルサイナ。悪い子にはオシオキですヨ?」


「は! できるもんならやってみろ!」


 ワタシは筋肉男の頭を抑えて土下座の態勢を取らせマシタ。人間の態勢を変えることに関してはワタシの右に出るロボットはそうイマセン。ワタシは介護ロボットも向いているかもしれマセンネ。


「ホラ、ゴメンナサイ言えますカ?」


「なんだとこの野郎、クソっ離せ」


「ハヤク」


「たかがオモチャの癖に調子に乗るな、デカ人形!」


「そのオモチャの人形に土下座させられて無様晒してやがるのはどこのどいつデショウ? 答えられたら花丸アゲマス」


 一応抵抗はしているのですが、ご自慢の筋肉も機械の前には赤子もドウゼン。素直になりなサイ。面倒デスネ。片手で頭抑えられている時点で力の差は歴然デスガ。


「あのクソビッチ! 金だけはあるって言ってたのに!」


 オシオキが必要なようデス。ワタシはあいている右手で筋肉男のお尻を引っ叩きマシタ。


「痛っ!」


「ゴメンナサイ言わないと続けますヨ?」


 筋肉男は二十回で降参デシタ。意外と持ちこたえましたネ。眼鏡男はその間に逃げてしまいました。残ったのは一番影の薄い男ですが……


「や、優しくしてください♡ 」


「森へオカエリ」


 放流しました。アナタの侍らせてた男たち、ロクでもないですよジェシー。


 遺産は元執事の家族とジェシーの弟一家で分けることになりました。弟一家とジェシーは交流がなかったので書面でのやりとりだけですが、文句を言って来る弟ではありませんデシタ。そしてワタシもメモリを保持したまま、業務を続けても良いと異例のお許しがでたのデス。




✳︎✳︎✳︎




 命日が近くなると、花束を持って墓参りに行きマス。もともと身寄りのいないジェシーの墓はそうでもしないと寂れてしまいマス。生前彼女はこう言いマシタ。


「アタシは好かれるような生き方はしていないから、きっとお墓も打ち捨てられるわ。死んだら土に還るの。ロマンチックじゃない?」


「よくわからない感性デスネ」


「えー。じゃあアタシと賭けをしようよ。アタシは静かに土に還る方に賭けるわ」


「賭けに勝ったら何がもらえるんデス? その時にはアナタは死んでしまっているのデショウ?」


「そうね、愛を知るロボットの称号をあげる」


「形だけの称号なんて要らないデス」


「あげるんだからもらってよ」


そうアナタが言ったから、ワタシは今日も花を活けて掃除をしマス。墓に無機質に刻まれたアナタの名前を、球体関節の指でなぞりマシタ。


「ア、イ、シ、テ、ル」


これをアナタは愛と呼んでくれマスカ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

メイドロボの私が愛されヒロインになるまで 刻露清秀 @kokuro-seisyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ