第73話_七賢者会議

一晩飲み明かしたが、俺は二日酔いになっていなかった。

死後の体は便利なものだが、今はまだしばし酔っていたかった。

七賢者会議って何だ?

また厄介事な気がする。


「準備はいいか?」


広場で寝ていた俺以外は、シルバーフォックスに帰ってベッドで寝たそうだ。

なので、ソラとフーは準備ばっちりだった。

片や準備の全く整っていない俺。

しかし酒に飲まれてしまった者に発言権はない。

俺は黙ってボサボサの身なりで、妖狐さんの狐火に入る他なかった。


「ばあば、七賢者会議ってなぁに?」


並び立つ提灯だけが照らす闇路やみじを歩くフーが、前を行く妖狐さんに尋ねる。

その質問はまさに俺が聞きたい内容そのものだった。

ナイス! フー!


「まず七賢者について教えよう。

この界層には中央都市アンジェの周りに七つの都市があり、それぞれの都市を治める賢者が七人いる。

私はその賢者の一人というわけだ」


妖狐さんの説明を聞いて、俺は厄介事に巻き込まれる線が濃厚だと思い始める。

フーが再度質問する。


「じゃあ、七賢者会議は都市の偉い人が集まって会議するってこと?」


妖狐さんは前を見据えて肯定する。


「そういうことだ。

今回はお前たちに会いたいそうだ」


ソラが首をかしげて独り言のように言葉を発する。


「なんで会いたいのかなぁ」


「さぁな、会って確かめるといいさ」


妖狐さんは大事な部分についてはっきりさせなかった。

それが一層俺の不安を煽る。

そうこう考えているうちに、少しずつ周りが明るくなる。

どうやら到着したようだ。


「妖狐さま!

お待ちしておりました」


以前案内してくれたトリキュラーが出迎える。

俺たちは彼女に連れられて宮殿内へ入る。


「七賢者会議はこちらで行います」


トリキュラーがひと際美しい壁の前で立ち止まる。

そこはピンクのバラが彫られた装飾が施されている。


「バラの間です。

皆様がお待ちです」


妖狐さんは彼女の案内に首をゆっくり縦に振ってから、文言を唱える。


「トリコの妖狐が参った。

扉を開けよ」


扉?

バラが彩られた壁は優しく光って消えた。

どうやら俺が壁と思っていたのは、扉だったらしい。

俺たちは妖狐さんに続き入室する。

全員が通ると、壁は元通りになった。


「妖狐、よく来たね」


タルボットが妖狐さんに向かって嬉しそうな顔で言う。

ここでは妖狐ちゃんとは言わないのか。

一応タルボットは、場をわきまえて発言しているようだ。

部屋を見渡せば、円卓の一番奥にタルボットが座っている。

他にもマントを羽織った男性、太った女性、顔がヘビの男、美女、眠りこける小柄な人が席に着く。


「まだネル爺が到着していません」


タルボットがそう言いながら、彼の隣席を見つめる。

その時だった。

俺の耳元でいきなり誰かがささやく。


「待たせたの」


俺は驚いて、声がした方から思いっきり飛び退く。

あまりに跳ねたものだから、妖狐さんにぶつかってしまう。


「ふぉっふぉっふぉっ!!

驚いたようじゃな!」


俺は声の主を見て固まる。

……原始人が俺の横に立っている。

俺の耳元で喋ったのは、この原始人か?

待て待て待て。

なぜ原始人がここに居るんだ。


「ネル爺お待ちしていましたよ」


タルボットがにこやかに原始人の正体を明かす。

待って!

この原始人がネル爺なの!?

あのテルを作った!?

原始人が!?

俺は早々に混乱に陥った。


「ネル爺、驚かせすぎだ。

ユージンが動揺しているじゃないか」


妖狐さんがネル爺に注意してくれる。

だけど、違います。

耳元で話されたことに驚いているんじゃありません。

原始人に驚いて動揺しています、妖狐さん。


「ふぉっふぉっ、すまんすまん。

おぬしがユージンか?」


布切れ一枚を身に着けているだけで、ほぼ全裸。

まさに教科書に載っているまんまの原始人が俺に問うている。


「は、はい」


俺は動揺のあまり声がかすれる。


「子供を引き受けた人物にしてはオーラがないのぉ」


原始人ことネル爺が俺を品定めするかのように、上から下までジロジロと見る。


「そんなまじまじと見つめたら緊張してしまいますよ。

ユージン、ソラ、フー、ドラゴンの捕獲では頑張ったようですね。

早速本題なのですが、三人には七賢者会議の所属になっていただきたいのです」


タルボットの発言にキョトンとする俺たちを見かねて、ネル爺が単刀直入に物申す。


「わしらの手駒になれ」


にやりと笑う原始人が雲行きの怪しさを象徴していた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あの世でよろしくやってます。 戸織真理 @tori3mari3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ