第72話_宴

帰宅した俺は身を清めた。

子供たちも雨で濡れた体を温め、軽食を取った。

宴には妖狐さんも参加するそうだ。


「では、行こうか」


俺、子供たち、妖狐さん、それと執事のルックルさんがお供し、冒険者組合まで歩いて行く。

妖狐さんが一緒なので、とにかく目立った。

冒険者組合の建物前にある広場に着けば、妖狐さん中心に人だかりができた。

俺はその輪をそっと抜け出して、いつもと違う雰囲気の街を味わう。

宴というだけあり、飲食物を販売する露店があらゆる所に出ていた。

普段は頻繁に飲み食いをしないだけに、特別な行事という感じがした。


「ユージンさん!」


声の方を振り向けば、広場の一角で露店を開いているヘイブンさんと目が合った。

にこりと微笑んだ彼は、俺にカップを渡す。


「ユージンさん、今回は大活躍だったそうですね!

お祝いのビールです」


「おおお、ビール!

ありがとうございます!

でも手柄は俺じゃなくて……」


ヘイブンさんは物知り顔でふむふむと頷く。


「カルロスさんですね。

いつものことです。

皆さん、いつの日か分かってくれますよ」


意味深な回答だったが、俺たちの会話を遮るように乾杯の挨拶が始まる。

オハナからドラゴン捕獲の経緯が話され、カゴに入ったクリーチャーは妖狐さんに渡される。

そして妖狐さんによって乾杯の音頭が取られる。


「今宵は私の奢りだ。

存分に楽しむがいい!

良い夜に!

乾杯!!」


大勢の人々が乾杯と唱和し、場の空気が盛り上がって開宴した。

妖狐さんの横でルックルさんが焦っていたのが珍しかった。


「妖狐様、よろしいのですか!?

奢りなどとおっしゃってしまって……」


「問題あるまい。

新作でも出せば良いのだ。

たまにはお前も飲みなさい」


遠目からルックルさんが酒を飲まされているのを見た後、俺も露店からつまみをいただく。

どこで食べようか席を探していると、見覚えのある奴が飲んだくれていた。


「あー! ユージン!

こっちこっちー!」


妖狐さんの一番弟子シルビアが俺を呼びつけ、同じテーブルに座らせる。

まだ始まったばかりなのに、彼女はもう酔っている。

ここには冒険者のみならず、シルビアのように街中の人が楽しんでいる様子が見受けられた。

そりゃあ、ルックルさんも奢りで大丈夫か聞くわな。

俺はふと暗い夜空に目をやる。


「空なんか眺めちゃってどうしたのー?」


酔っ払いシルビアが俺のつまみを頬張りながら、俺に尋ねる。


「いやさ、花火とかあったら盛り上がるのになーって」


「はなび?

なにそれ」


花火を知らない人間がいると思わず、俺はついつい花火についての説明に熱が入ってしまう。

そこにソラとフーも合流する。


「え! 花火知らないの!?

ほら、ドーン! ってなるんだよ!」


ソラが加わったことで話がややこしくなってしまった。

シルビアは心得た面持ちで「ドーン! ね!」とか言っている。

神の御子様と呼ばれるソラとフーが俺のテーブルに座ったので、冒険者たちが集まって来る。


「お! おゲロ様も一緒か!」


冒険者の一人が俺に軽口を叩く。

俺の二つ名になったら今後困ると思い、きっぱり拒否する。


「おゲロ様言うな!

あれ臭かったんだぞ……」


俺が愚痴を漏らすと、周りに居た冒険者たちからは笑いが湧き起こった。


「まぁまぁ、飲んで飲んで」


女冒険者から進められるままに酒をどんどん飲む。

いつの間にかテーブル上は料理やらデザートやら飲み物でいっぱいになった。

俺は馴染めないと思っていた冒険者たちと宴を十分に楽しんでいた。

気付けば酔いつぶれ、俺はテーブルに突っ伏して一夜を明かしてしまった。

肩を強く揺さぶられる。

顔を上げれば、妖狐さんが俺を起こしていた。


「起きろ、ユージン。

出掛けるぞ。

七賢者会議だ」

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