第159話 嬉しい悲鳴ってやつですお
翌日、僕はライザに頼んで秘書であるイヤップ、ウルル、ウェレンを招集した。
イヤップは僕の顔を見るとバツが悪そうに顔を背ける。
「何用ですか、タケル」
「僕の口からは言いにくいので、ライザが代弁してくれると思う」
というと、ライザは数秒置いたあと、口を開いた。
「イヤップ、ウルル殿、ウェレン、結婚式の準備をしてくれ」
結婚式、という単語にウルル以外は驚いた様子だ。
ウェレンは「フヒヒ」と漏らしつつ。
「結婚式って、誰の?」
「タケルが王として出席する、イヤップ、お前も覚悟しておくんだぞ」
ライザの言葉に、イヤップは口をあぐねていた。
「け、結婚……ですか?」
「そうだ、それ以外にこの国が失った士気を立て直すすべはなさそうだ」
それと。
「それと同時に、アンナ王女の騎士団設立を記念した祝賀会も敢行しようと思う」
「アンナ王女? それってこの前のあの子のこと?」
イヤップの質問に僕は首肯して返す。
ライザは僕の隣で堂々とした感じで、イヤップにこう言うのだった。
「イヤップ、私たちは親代わりとして頼りにしていたリィダを共に失ってから、お互いに人生の価値観が違ってきたようだ。私はいまだ故郷を救う妄念が絶えないでいるが、お前はお前が思い描くなすべきこと――夢をかなえてみたらどうだ」
例えそれが結婚じゃなくてもいい。
例えそれが誰かのためじゃなくてもいい。
ライザは押し迫った声音でイヤップに告げて。
彼という兄がとった締めの言葉には胸に来るものがあった。
「だが、最後は必ず、幸せになるんだぞ」
イヤップはライザの言葉を耳にして、普段通りの彼女に戻ってくれた。
それから結婚式の準備は三人の手によって水面下ですすめられ。
ていたはずだった。
どこからか情報をキャッチした王子が得意顔で自室を訪れた。
「ご結婚、おめでとうタケル殿」
「何故バレたし」
「俺はこれでもこの国の情報官だからね」
「……そう言うのなら王子、王子も本当にこの国の一員になりませんか?」
「……一員? そう例えるより、この国は俺そのものと言って欲しいな」
はは(#^ω^)。
「件の結婚式、に乗じてアンナの騎士団設立と、その祝賀会も一緒にやろうかと思ってまして」
「ああ、聞いてるよ。確か騎士団の代表はアンディくんだったかな?」
こいつ、本当にどこから情報を得ているんだ。
誰かが裏切っている、その結論に至るには容易かった。
「タケル殿はこれで晴れて本当の王になれるわけだ」
「恐縮ですね」
「張りぼての王といった感じだけどね、それでも民はタケル殿に頭を垂れてくれるよ」
まぁ、僕はそもそも普通の陰キャだしな。それを一時の成り行きで王になってしまったからって、はいそうですと威厳がついてくるわけでもない。むしろ僕に威厳などいらないぐらいだ。
志は高く、されど謙虚に行こう。
◇ ◇ ◇
そして結婚式当日、僕はスーツ姿で冠をかぶっていた。
冠とスーツの組み合わせは何事にも史上初を自負するこの国に相応しいといい、仕組んだのは九龍の一角である月のアーロンだ。グウェンのような長髪姿で長身痩躯が特徴の国切ってのデザイナーを高い鷲鼻でうたうナイスガイだ。
「このような記念行事にメインデザイナーとして参加させて頂いたのは大変名誉なことだ」
この人はヒュウエルが毛嫌いしているが、なんか鼻につく感じは理解する。
「まぁでも、今回は僕が主役じゃないので」
「ああ、主役はやはり花嫁であろうな」
して、先ずはアンナの騎士団発足の宣誓をする。
式場はホテルの大広間を改造し、オーソドックスな玉座チックにしてある。
この内装の改造にはケヘランが同種族のアント種の陣頭指揮をとって造られた。
大広間に置かれた二つの玉座には、僕とアンナが腰を掛けていて。
玉座から伸びる赤を基調とした金縁の絨毯に、紺色と白金を合わせた服装の騎士団がアンディを筆頭にやって来る。といっても騎士団の大体は学校の子供たちだった。中にはライザの弟のロンもいた。
ぷぷ、と失笑すると、アンディは炯眼を放つ。これはこれは、失敬。
アンディはアンナ王女から騎士団の勲章を胸に付けられ、その場に粛々とした拍手をもたらした。僕はアンディたちの出世を讃えるよう大きく拍手すると、なぜかまたアンディからにらまれましたお(´_ゝ`)。
ジュリアーノ王子はアンナに近寄り、褒めたたえていたよ。
「アンナ、おめでとう」
「ええ、後はお兄様の出番ですね」
「? 俺の出番はもうほとんどないよ、この後は一応タケル殿が主役だ、一応」
アンナの騎士団発足の宣誓が終わり、次はいよいよ結婚式。
結婚式を進行するのはモニカをはじめとした王室の執事だ。
「今宵はおめでとう御座います、ジュリアーノ王子、ならびにアンナ様」
「ありがとう、お兄様も私もこれで所帯を持つことになりそうです」
「……」
王子はアンナから離れると、僕に歩み寄る。
「どういうことか説明はあるのかな、タケル殿」
「年貢の納め時ですよ、王子。あなたは僕にこの国に来た理由を子を成せない体質からとうそぶいていましたが、あれは表向きの、いわば王国の民を納得させるための方便だった」
「……その先は言うな」
王子は玉座争いに負けてやって来たのは事実として。
その裏には王子が幼い頃から付き合いのあった彼女の存在があった。
王子の警護役として一緒にこの国にやって来た女騎士のユーノ。
彼女こそが、王子を玉座争いから退かせた本当の理由。
僕はその情報を自動精霊から聞き、裏付けとしてランスロットにも確認を取った。
「王子、貴方が僕を利用するつもりでいるのなら、僕も貴方を利用させてもらう。いうなれば互恵関係って奴ですね。貴方は僕のおかげで彼女と幸せになれれば、僕は貴方のおかげで王に君臨することができる」
「誰の指示だ? この様な真似、タケル殿が思いつくわけがない」
「まぁおいおい紹介しますよ、それでは、花嫁にご登場いただきますよ」
大広間の入り口が開かれ、初々しい花嫁姿になったユーノさんが出てきた。
王子は彼女の晴れ姿を見て、自問自答するように瞼をつむる。
計算高い人ではあるけど、今回の機会は王子にとって決して悪手じゃないはずだ。
この機会をもって王子は玉座争いに敗れてやって来た亡命者じゃなくなり。
彼は王室から遣わされた親善大使として、この国の幸せの象徴になれる。
「……今回はタケル殿の策に乗ろう」
王子は瞼をつむったまま言うと、花嫁の方を向くように背を見せた。
そして堂々としたたたずみでユーノさんに近寄り、手を取って、幸せそうな笑顔をこぼしてくれた。
しかしその前に彼は僕にこう言い残したよ。
――だが、次に利用されるのは貴方の方であり、次は貴方の番だな。
王子のその言葉はまるで呪詛のように鼓膜に残っていた。
式が着々と進み、ブーケトスの時間になった時。
今回の結婚式を、自分の式だと思っていたケヘランが端を発した。
「タケルって、結局最後まで選べないんじゃないの?」
イヤップはその言葉に賛同するように首肯する。
「あの人は優柔不断ですからね」
ウルルは黙然と二人の話を聞いて。
「強い事実を持ったオスは優遇されるから」
元女神のシャーリーはいたずらな感じで三人に勝負を持ち掛ける。
「決着、つけちゃいます?」
のように、僕も僕で年貢を納める時が迫ってきそうだった。
まぁ、なんていうか。
嬉しい悲鳴って奴ですお。
ステータスウィンドウ職人 ~異世界転移して外れスキルを引いた件について~ サカイヌツク @minimum
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