3話 待ったを言うタイミングさえない

 感動の再会までにはいかないもののパートナーの無事を視覚で確認できたので一安心できたカズとアズキの二人は喜びを身体でも表現してしまいました。アズキがカズに飛び跳ねて抱きつくとカズは屈強な体格になった青年の身体なので軽々とアズキを受け止めてくれて、そのまま熱い抱擁でアズキの存在をしっかりと確かめていました。するとアズキの足が宙にフワリと浮いてしまいますが、構わずアズキは体重を預けながら恋人の抱擁に応えるように彼女もカズの首に腕を回して密着してしまう。その身長差を埋める体勢をカズは維持するためにアズキの下半身に腕を回して手で体重を支えてあげれば、道端でイチャつくカップルに間違いないと通行人の誰しもが思う光景になってくれるのでした。


 この神が直接管轄する仕事案内所は様々な冒険者のサポートが受けられる総合的な施設でもあり、仕事の受注だけでなく、魂に刻印するあらゆる能力が集約されてもいて加護の取得や、制約の調整、デバイスの調整から対人のマッチングに知恵の泉などなど複合された施設でもあり、その大規模な施設を滞りなく運用できるのも転移能力と神の遣いの充実など冒険者が困ることのないサポート体制が整っています。そんな施設だからこそ冒険者もよく利用するので、仲間との再会やパートナーとの再会に賑わう光景もこれらの施設内ではよくあることでもあるのでした。そのため珍しくもない光景をわざわざ通行人もじっと観察して様子を見守ることもなく、横目に見た感想は「あのお兄さんは少女と交際しているのか」と歳の差身長差カップルくらいにしか思わず、それすら冒険者界隈では珍しくもない日常でもあるのでした。


「カズくん♡」


「アズキ!」


「会いたかったよ♡」


「寂しがりやめ♡」


「にへへ♡」


「やれやれ」


新米冒険者は愛の契りをまったく持たないところからスタートしているので、スタート時点で報酬を全て愛の契りの初期段階だけに全額投資をする暴挙でもしないかぎりは皆が同じゼロからのスタートにもなります。カズとアズキも冒険者生活がまだ始まりもしない段階で準備を放棄して愛だけを得ることには賛成できなく、さらに初期段階の取得だけなら楽なことを知っていたこともあり状況を見て揃って取得するつもりでいました。なので二人は「持たざる者」の限界である熱い抱擁くらいが現状での愛情表現の限界でもありました。そこにアズキからの頬擦りが加わり、それもそうまでは触れはしませんが挨拶に使われる文化もあり許されてくれました。あとは挨拶で頬に触れない程度にキスのモーションをしたりと、程度と環境によっては制限も緩くはなりますが冒険者同士のカップルがプラットフォームでただイチャついているだけなら、厳しく判定はされてしまいます。しかしそれも普通は警告が飛ぶのですが「待った」が来ると同時に衝動的に身体が動いてしまえば「危なかった」と止まることもできなく愛し合う者は逃避行をしてしまい、ハジメの目の前からサヨナラをしてしまうのでした。


「カズくん、んっ♡」


「アズキ、ちゅっ♡」


「ちょお!?」


このバカップルは恥ずかしげもなくよくやるよとハジメはため息を零していたら、カップルの二人が同時に衝動的に思いついてしまったのが原因なのか警告が出たと同時に二人は唇を重ねてしまった後でありました。そこで阿吽の呼吸の仲良しを発揮しなくともいいのに見事に二人揃って距離を縮めた結果「制約を守らず」「警告を無視した」という冒険者がかならず守らなければならないルールを破ってしまい、二人は仲良く抱き合いながら地に倒れてゆくのでした。


「カズ!? アズキ!?」


刹那のラブシーンをした代償は大きく二人は力なく人形のように倒れてしまい身動き一つもしていなく、ハジメが空気を読んで離れていた所から駆けつけた今でもピクリとも動きませんでした。その状況は知識としてもハジメは理解していましたが念のために生命活動を確認してもまったく確認できず、二人は揃って初めての死亡が確定してしまうのでした。中には行為の程度によって厳しく死に戻りの際の罰則が追加されてしまいますが、二人の行った行為は口付けなのでそう罰則があるとは思いませんが、新米冒険者だろうとルールは守りなさいと極刑によりしっかりと教育をさせるのが目的にもなる。そうしてカズとアズキは重過ぎはしますが死亡してしまい死に戻りが確定して、一回目の復活までの丸一日を無駄にしてしまうのでした。


「うわあああ!? やるかなとは思っていたけど本当にやらかす!? バカなのかい!?」


通行人もたまにある光景だと驚くことはしませんでしたが、何処ぞの新米冒険者カップルがやらかしたのかと生暖かく見守っている者もいて、友人のハジメに同情して駆け寄ってくれる人達もいました。そうしてハジメはスヤスヤと安眠しながら身体が透けるように消えていった友人を見守ることになり、その後はポツンと一人残されてしまい仲間外れになったことで心細くもありましたが、これもこの先ではありがちな光景だからと立ち直り、二人が戻るまでの間の1日で情報収集をしておくことにしたのでした。




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 死に戻り初体験ともあり魂の劣化はまだなかった二人は復活までの期間は平均の1日となります。これからその死亡回数が増えてゆくにつれて復活への日数が増えてゆき上限までの復活回数に達する目安となるのが死に戻りまでの期間が一週間を超えたあたりからが平均的な危険域となります。この上限自体を回復させる手段は今の所なく、神自体も現時点かつ今後も奇跡を与えることはないと明言しているので例外はないものとされていました。そしてカズとアズキは一時の誘惑に負けてルールを忘れて口付けをしてしまい、くだらない理由で死亡して無駄な残機を消費してしまったのでした。見習い時代に潔癖なまでアズキとの接触を控えようとしたカズにしては間抜けな失態でもあり、それをしてしまうだけの愛情が二人にはあったのでしたが、仲間であるハジメとしたら足並みを揃えたかった瞬間でもありました。「さあ、頑張るぞ」と鼓舞してからでもハジメは空気を読んで立ち去ろうとしていましたがそれすらできなく別れてしまい、それだけにハジメはご立腹で1日を空けてから二人に強めのラブコールをして待合室に呼び出して、険しい顔つきで二人と対面しました。



 仕事案内所には旅に出る前の準備に必要となるための会議室兼待合室にもできる一室がいくつもあり、こうした部屋などの空間は外観からは想像できないくらいに無数にあり、内部構造は見かけと違い転移能力で別空間に移動しているために無限大となっています。それだけにどの地区で神の管轄する施設を利用しようとも不都合がない理由にもなり入口が無数にはあるが内部は統合されているような大規模な複合施設でもあるのでした。


 これから何度も通い詰めることになる施設なのでハジメは早速今後の方針を話し合うために仲間を呼び出して、現時点での同行者であるカズとアズキとハジメの三人は小さな会議室にて対面での意見交換をすることになりました。


「ボクに対して言うべきことがあるよね」


不貞腐れたような表情でハジメが開口一番に口を開くと失態をした二人は揃って謝罪をしました。カズとアズキは罰則はなかったものの死亡中に神にしこたま叱られて、次も同じように油断して失敗をすれば罰があると忠告を受けてしまいました。自分の命だから自由にしてくれてかまいませんが、ハジメも共同で活動をすると約束した仲間であるだけに一言でも物申したく作戦会議の前にケジメをとってもらうことにしたのでした。


「頼むからくだらないことで貴重な残機を減らさないでほしいな」


アズキはあまり納得していない表情をしていましたが神からの忠告があるので二度同じ間違いはないとハジメにも約束してくれました。そんなやり取りで始まりは重い空気にはなりましたが気を取り直して目先の予定を三人は考えることにしました。




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 三人で活動するといっても適材適所なチカラの集まりでもあるだけに、それを補えるのがギルドという様々なチカラを持つ集団を集めるシステムなのでしたが三人はまだ未所属の冒険者でありました。そこで彼らは神が与える試練の中でも比較的自分達に見合う試練を受注したいと考えていましたが、試練の数には異世界に限りがあるように上限があり早い者勝ちなのでタイミングよく出会えるともかぎりません。そこにも照会制度に優遇などはありますが、ただ時間が過ぎてゆくことを待つのでは行き当たりばったりなので、代わりの報酬を得られる機会も欲しくなります。そこに助太刀してくれるのが各ギルドに依頼される仕事でもあり、神がギルド自体に与えた課題にはギルドマスターの指示さえあれば未所属の冒険者を仮入隊させて参加させることもできる。他に異世界人が冒険者に活動を依頼して仕事が発生する仕組みもあり、それは基本的に異世界ごとのギルドが管轄する街の案内所に依頼が飛び込む仕組みとなっているのでした。


 異世界人の依頼人はギルドの構成員や活動実績や仲介手数料などを加味しながら依頼したいギルドを訪れていますが、実際に仕事が発注されて無所属の冒険者でも参加が許可された依頼であればギルド外にも情報が発信されて公共の案内所からでも確認受注できる仕組みにもなる。そこには神の試練とは違い様々な仕事内容から報酬の種類に難易度から受注できる人材の選別などなど、多種多様な依頼が日々発生しており冒険者の活動の多くをそちらで過ごすことも割が高くなるのでした。もちろんこちらにも早い者勝ちであることには変わりはなく、さらに冒険者だけでなく異世界人自体もギルドに協力して報酬を金品で得て生活している者もいるだけにギルド内自体にも競い合う仕組みがあるのでしたが、ギルドが沢山あるように仕事も沢山あるためにそう仕事を選り好みしなければ失職なんて残念なことにはならないようにはなっています。


 ギルドに無所属の冒険者はギルドの仕事に従事すると仮入隊をして旗本のルールに適応された条件での活動になるのですが、依頼が中断されるか完遂さえすればまたフリーに戻るために都度活動的なギルドに参加していく意味はあります。ただしギルドに本格入隊をしていないから参加できない仕事や報酬が減ってしまう条件があったり、さらに特別な神からのギルドメンバー限定の報酬を得られなかったりと無所属であることのデメリットも発生させて戦略性を高めていました。この頑なにギルドへの参加を促す仕組みはギルドという大規模組織しかこなせないような難題の試練に挑戦させたい意図があるための戦略性でもありました。とくに最強の伝説にもなっている竜種の討伐などはギルドだけにしか機会を与えずに、そのギルドにも受注するには条件があったりと簡単に受けることさえできない仕組みもありました。そうした難題に挑戦していくためにも構成員の実力から才能の幅など人材の確保を目指しつつ、ギルド自体に与えられて蓄積してきた恩恵や物品としての報酬などを多くもった超大型ギルドにもなれば、一つの街自体を一つのギルドだけで管轄するという偉大な功績を残してきているギルドもあるのでした。ただ基本的には街の管理は複数の旗本内のギルドで管轄しており、その経営警備体制の在り方にはそれぞれのギルドの秘書がメインに話し合い、争いがないように神が派遣した中立な立場の者が助言して介入する仕組みがあります。


 同じ旗本にあるギルドなら業務を提携することもできて、連合組織として大型化しているギルド連合もあります。このようにギルドと関わらない選択がほぼなく、従って頑なに神の試練だけを続けないかぎりは冒険者は仮入隊だけはしていくことが基本的でもあり。カズたちも駆け出しはギルドに仮入隊をして、安全圏での活動を基本とした異世界でのギルドが管轄している安全そうな街周辺での依頼をしようと計画して動き出すことにするのでした。そのために選んだのが現在活動的に依頼をこなして構成員を増やしている大小様々なギルドの連合組織であり、その一つのギルドに仮入隊をして異世界の実状を知りながら活動していくことにしました。

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キスから死に戻る異世界転生生活【二部本編】 ももきちすもも @momokichisumomo

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