【了】
レイラと呼ばれる少女がいた。
彼女は擦り切れのようなボロを身に纏い、その地に現れた。
いったいどこから歩いてきたのか――人とも思えぬ程の有様で泥と疲弊に塗れた少女は、その地を踏んだ途端に意識を失った。
果たしてそこまでかと思われた彼女の命運であったが――あにはからんや、奇跡は訪れた。
――あるいは運命。
眠るように倒れ伏した彼女に、温情をかける者が現れたのだ。
……そして今は。
――透き通るような青みがかった髪を持つ美しい髪を揺らし、彼女は街中を歩いていた。
明るい表情で街中を行く彼女に、街の人々は――皆が明るい声をかけて、街人らしい活発な笑顔を向けていた。
そんな人々に、レイラは引っ込み思案だが自然なはにかみ笑いを浮かべ、手を振っている。
「ただいま戻りました」
――見上げるほどに大きなお城だった。
荘厳なその住居に足を踏み入れると、レイラは帰宅を告げる挨拶を口にして、脇に抱えた紙袋を、使用人に丁寧な手つきで手渡した。使用人は礼節をもってレイラに礼をした。
大広間に向かうと、そこには食事の準備がなされている。
席に着いた夫婦と、その息子と思しき若者が、レイラを温かく迎え入れ、「おかえりなさい」と挨拶を口にした。
まるで家族のようにレイラを受け入れる、その者たち。
あの日――ボロを身に纏い、その地に現れたレイラに縁あって手を差し伸べた彼等は――綺麗になったレイラの姿を見るや、驚きの声を上げた。
まだ【王都】の権力が十全であった頃の昔から、とある秘密をお家の内々で語り継いできた一族の末裔――。
――レイラは幸せそうに笑っている。
食事が済んだ頃合いで、若者がレイラに話を向けた。
「レイラさん、また曾祖父の話を聞かせてください。今でも、私たちのお家の主柱たる偉大な人――彼がどんなお方だったのか、もっと知りたいんです」
若者が言うと、夫婦も静かな表情に関心を浮かべ、レイラに期待の眼差しを向けた。
レイラははにかみ笑いを浮かべ、言った。
「ええ。――――ミュルヘンは、本当に寡黙な人でした……」
――あるところに、聖女がいた。
彼女は今再び、彼女にとっての大切である彼の魂が宿る場所で、幸せに暮らしている――。
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