エンド  ロール:色鳥々

 淵源領域 エンドレスロール

 両膝を折って崩れているハチドリが、その体から灰を溢しながら燻っていた。

『……』

 彼女の眼前に現れたのは、ルナリスフィリアだった。脳幹を貫くような低いノイズを撒き散らし、そして言語を成す。

『あなたは ディードをも討ち取り 三千世界の――全ての頂点に立つ存在となった』

「……」

 ハチドリは立ち上がり、燃え尽きていく体を動かし、右手から火球をルナリスフィリアに撃つ。軽い動作と火球の大きさからは考えられないほどの威力の爆発が起き、ルナリスフィリアが砕け散る。

『もはや 私が強者の記憶を演算する 必要もない 二度と あなたを超える強者は 現れない』

 破片が落ち、ハチドリと同じ高度で泥濘の如くなり、そこから見慣れた左腕が湧き出てくる。黒い籠手を身に着けた、ハチドリの左腕だ。左腕は泥濘の淵を掴み、すぐに飛び出て全身を現す。当然のように片耳のハチドリと全く同じ姿をしており、一本の太刀を背負い、脇差を腰に佩いていた。

「なるほど――確かに私と戦ったことは何度かあっても、私自身とは戦ったことはありませんでした」

 ハチドリは脇差を抜き、構える。

「誰のお力も無い、ただ純粋な私との殺し合い……本当の最期に、相応しい……!」

 同じように泥濘から這い出た鏡像も構え、その瞬間に景色が塗り替わる。


 エンドレスロール アウラム・パンテオン屋上

 巨大な白い繭の残骸が足場を成す、焼かれていく塔の頂上に二人は立つ。

ハチドリが死んだ場所、しゅらが生まれた場所」

 二人が同時に深く腰を落とし、脇差を突き出して突進する。刃が触れ合った瞬間、全く同じように弾き合い、先にハチドリが左拳を放ち、鏡像が払い除けながら左手を突き出し、それが脇差に阻まれ、同じように戻ってきた左拳が同じように脇差で阻まれる。両者同時に離れ、同時の左拳で頬を殴り抜いて互いに吹き飛び、堪え、構え直す。

「相手にとって不足なし! ハチドリ、いざ参るッ!」

 先手を打ってハチドリが飛びかかり、左手から火薬を撒き散らしながら鋭く斬り込んで同時に着火させ、鏡像は分身を盾に翻り、脇差を二度振り、ハチドリが素早く脇差で弾いたところに左手で太刀を抜き放ち、強烈な縦振りでハチドリを押し込む。体勢を崩されたハチドリは脇差を突き立てて堪え、鏡像はそのまま一回転して大きく構え、太刀で薙ぎ払う。赫々たる怨愛の炎が迸り、前方を広く焼き尽くす。ハチドリは火薬となって避けつつ、距離を取った鏡像の斜め後方で籠手に脇差を納めて力を溜め、素早く抜刀しつつ交差するように二連斬りを放つ。当然刀身が届くはずもないが、真空波が極めて正確に鏡像を直接切り裂き、遅れて衝撃波が直進する。真空波でよろけたところに全ての攻撃を受け鏡像が怯み、即座に肉薄したハチドリが舞うような連撃を叩き込み、そのまま下段から勢いよく二回切り裂きながら飛び上がり、ジャンプの頂点で一閃して完全に体勢を崩させる。勢いのまま降下し、鏡像の肩上に着地して首を貫き、振りほどかれて転げ落ちたところで脇差で競り合い、押し込んで崩し、左胸を刺し貫いて引き抜く。

 後退した鏡像はすぐに顔を上げて闘志を強め、上体を反らして力を解放する。全身が怨愛の炎に包まれ、籠手の内部が激しく滾っている。

「ふふ……!」

 ハチドリが笑みで返し、鏡像は左拳を突き出しながら突進する。分身を盾に背後を取ると、鏡像は籠手を爆発させて強引にそちらへ向き、脇差を突き出して追撃する。ハチドリが完璧なタイミングで弾き返すと、鏡像は怯まずに脇差を二度振り、炎の爪を纏った左腕を振り上げ、更に三度脇差を振ってから回転し、勢いよく一閃する。ハチドリは脇差で防御し、最終段で分身を盾に飛び上がり、炎を帯びた脇差を振り下ろしながら着地して爆発させ、二連回し蹴りをぶつけてから掴みかかり、至近距離で籠手を爆発させて吹き飛ばす。間髪入れずに脇差を太刀へと持ち替え、怨愛の炎でリーチを増強してから横縦と渾身の力で薙ぎ払う。鏡像は受け身を取りつつ分身をタイミングよく盾にして薙ぎ払いを躱し、こちらも太刀へ持ち替えてから着地し、左半身を引いて力を溜め、一気に振り抜いて闘気の波濤を全方位に巻き起こす。ハチドリが斜め前方に飛び上がりながら躱し、刀身に宿ったままの怨愛の炎を至近に突き立てると同時に炸裂させ、鏡像が飛び上がって躱しながら刀身に炎を宿し、突き出して撃ち出す。ハチドリはその炎を刀身で受け止めながら飛び上がり、自身の火力を足して撃ち返す。鏡像は撃ち合いから逃げて更に飛び上がり、頭上で刀身に炎を溜めて急降下し、着地とともに巨大な火柱を立てる。ハチドリは火柱に飲まれながら炎を滾らせて左拳を振り下ろし、こちらも急降下して爆発を起こして迎え撃ち、爆炎を纏ったまま突進し、猛烈に削りながら一閃して押し飛ばす。押し込まれながらも鏡像は左腕から火球を放ってから右斜め中空に瞬間移動してもう一発放ち、着地してから極太の熱線を七本生み出して放出する。ハチドリは咄嗟に分身を踏み台にして高く飛び上がり、急降下して直接鏡像に飛び乗って首を掻き切り、振りほどかれるより早くその場で飛び上がって肩口に突き立て、思い切り胴体を引き裂く。鏡像は爆発して逃れ、向かい合って傷を修復する。

「この姿は、旦那様と私だけの秘密……私だけの、炎……!」

 鏡像は太刀を右手に、脇差を左手に持って構え、双方ともに刀身に炎を宿し、同じ程度のリーチへと変貌する。

「そろそろ決着をつけましょう……!」

 鏡像は双刀の柄同士を合わせて掲げて構え、全身を使って振り下ろす。極大な炎の刃が伴い、前方を両断する。構えから振り下ろしまでは一瞬で行われ、しかし籠手による防御に阻まれる。続いて左半身を引いてから構え、一閃する。同じように極大な炎の刃で薙ぎ払い、ハチドリは右半身を鋼で覆いながら太刀に凄まじい勢いの炎を宿して刃を断ち切り、鏡像は双刀に戻しながら右から左に薙ぎ、返し、再び左に薙ぎながら一回転して小上昇し大上段から同時に振り下ろす。ハチドリは太刀で受け止めながら、最終段を強く弾いて脇差を吹き飛ばしつつ、鏡像を極めて大きく怯ませる。トドメの一撃を放たんとしたところで鏡像が強引に姿勢を戻して両者の太刀が競り合い、しかしハチドリが受け流して鏡像がよろけて擦れ違い、互いに向き合った瞬間にハチドリが腹を刺し貫く。即座に鏡像がハチドリを押し返し、そして左拳を強く握り締め、赫々たる怨愛の炎で長槍を作り出して担ぐように構える。

「それは……」

 鏡像が長槍を投げつけ、天空から大量の熱線が従って降り注ぐ。その瞬間に籠手に太刀を納め、ハチドリが火薬となって長槍を躱したところに一気に踏み込み十字斬りを繰り出す。ハチドリは現れた瞬間に左腕を突き出して籠手から爆炎を解放し、十字斬りを躱しながら後退して焼き、撃ち切るより先に踏み込んで太刀に爆炎を宿らせつつ斬りつけ、そのまま舞うような連撃を繰り出し、鏡像が長槍を生み出しながら斜め後方に飛び退いて薙ぎつつ躱し、ハチドリは動作を中断して鏡像の着地点まで瞬間移動し、移動中に納刀して姿を現すと同時に抜刀して、空間に大量の斬撃を起こして着地を狩る。鏡像は斬撃を受けつつも怯まずに両手で太刀を大上段に構え、着地しながら強烈な兜割りを繰り出し、間髪入れずにもう一撃与えて防御を強要し、更に一歩踏み込んで薙ぎ払って熱波を至近距離で起こす。ハチドリが防御硬直から斜め後方に飛び退きながら左半身を引いて太刀に怨愛の炎を宿し、着地までの時間で一気に力を溜めてリーチを爆増させ、着地した瞬間に薙ぎ払って直撃させ、大きくよろけたところに追撃の縦振りを叩き込んで大ダメージを与える。鏡像は崩れた体勢を立て直す代わりに翻って納刀しつつ、正面に捉えて抜刀し、ハチドリを正確に真空波で斬り裂く――ハチドリも同じように構え、鏡像を真空波で正確に斬り裂く。そして縦の衝撃波が交差して相殺し、鏡像が長槍を生み出しながら下段を二度薙ぎ払いながら太刀に力を一気に込めて一閃し、円状の衝撃波の波濤を起こし、ハチドリが分身で防御しきったところに飛び上がり、長槍を地面に突き立てて爆発させ、突き立てた反動で浮き上がり、左拳を長槍に叩き込んで大爆発を起こしながら着地する。ハチドリは籠手を爆発させて相殺し、続く大爆発を刀身で受けて二連斬りを繰り出しながら上昇し、ジャンプの頂点で一閃し、左拳を爆発させながら振り下ろして急降下し、地面に叩きつけて巨大な火柱を起こす。そのまま左手を突き出して火炎放射しながら爆発で追撃して吹き飛ばし、自身も後退する。そして両者同時に六連装を抜き、フルバーストし、弾丸とともに超高速で接近していく。互いの弾丸を互いの分身が弾いて複雑な軌道を生み出し、そしてそれぞれ相手の分身を貫いて消す。両者が太刀を叩きつけ合い、同時に刀身が破壊される。更に同時に脇差へと持ち替え、直ぐ様刃を返して叩きつけ合い、火花を散らし、ハチドリが鏡像の脇差を潜り抜けて腹を斜めに斬り裂く。追撃に両腕を上げてよろけた鏡像の右手を斬り裂いて脇差を手放させ、トドメに左胸を刺し貫く。

「さらば」

 勢いよく引き抜くと、鏡像は背中から斃れる。体を覆う鋼と炎を解除し、ハチドリは血振るいをしてから脇差を納める。

「例えこの身を焼き尽くす熱を、あなたに返すことが出来なくても」

 鏡像は間もなく灰となって崩れ、何処かへと消え去っていく。

「きっとあなたに、報い続ける」

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番外編:十万億土 あごだしからあげ @iwannabeewax

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