燻る桔梗の蜜火
終期次元領域 シャングリラ
長い岩の階段の先、広がる無機質な舞台。そこで、片耳のハチドリが佇んでいた。
「……」
無限の暗黒に包まれていたはずのその場所は、夕刻を思わせるような黄昏に包まれていた。
「私の最後の戦い、旅の終わり……」
片耳のハチドリ……即ち、修羅が視線を向ける先には、眩い陽光を背にして仁王立ちする、両耳が揃ったハチドリが居た。
「あるはずのない、終わり。旦那様から託された戦いの火を捨てる……許されない、裏切りを」
修羅の言葉に従うように、ハチドリには霊体のようなバロンとエリアルが寄り添う。
【そう、私たちは立ち止まれない。最強を生み出す快楽を認められない。でも……】
ハチドリが二人の霊体を吸収し、自身の傍に突き立てられていた蒼い太刀と赤黒い太刀をそれぞれの手で引き抜き、高く掲げてから力を解き放つ。強烈な威風が吹き荒び、修羅ですら怯む。
「いざ尋常に……!」
気勢を取り戻した修羅が脇差を抜いて構え、ハチドリが応えるように刀身にそれぞれの力を纏わせる。
【旦那様……我が忠誠の証を此処に葬り、そして我が創世を御覧ください!】
ハチドリの双眸に殺気が宿った瞬間、莫大な力を纏いながら横回転し、一瞬の内に竜巻のようになって修羅へ激突し、その勢いのまま双刀を振り抜いて前方に力を爆散させる。修羅は分身を盾にして回転斬りを往なしつつ、続く攻撃の範囲からも逃れて異形の刀に持ち替え、居合抜きで巨大斬撃光線を発射する。ハチドリは双刀を鞘に戻しつつ手元に淵源の蒼光を刃とした大鎌を生み出し、巨大で暗い光波を打ち出して相殺する。そこに大量の斬閃が生み出され、ハチドリは鎌を消しながら飛び退き、掲げた左手に紫色の雷霆を生み出して投げつける。修羅が赤黒い太刀を投げ放って相殺し、雷霆は氷となって爆散する。修羅が空間を歪めて一気に接近し、異様に伸びる踏み込みで肉薄して舞うような連撃を繰り出す。合間に籠手から火薬を撒き散らしながら、ハチドリは自身の分身に突き飛ばされて範囲から逃れ、双刀を同時に引き抜いてブーメランのように投げ飛ばす。修羅は連撃を止めながら異形の大剣へ持ち替え、下段から全身を使って振り上げて蒼炎を起こして双刀を弾き返し、ハチドリは瞬間移動で双刀を掴みつつ着地し、瞬間的に全力を解放しつつ薙ぎ払い、修羅は全身から怨愛の炎を放出して鎧のようにして直撃を堪え、全身を使った四連撃を叩き込んでから刺し貫き、大爆発を直撃させて吹き飛ばす。ハチドリは軽く受け身を取って着地し、両者は向かい合う。
【流石……ここまで戦い抜いただけはありますね】
「……」
ハチドリは変わらず、明るく元気な顔で言葉を投げかけてくる。
【ならばもっと全力で……!】
力んだ瞬間、双刀に周囲の黄金が流れ込んでいく。
【創世の力、全てをあなたに叩き込む!】
双刀が共に黄金の闘気を纏い、ハチドリ本人からもそれが沸き立つ。巨大な光の刃となった双刀を地面に叩きつけ、後隙など存在しないかのように高速回転し、最初に放ったのと同じように独楽のように薙ぎ払い、分身を使って躱した修羅へ上段に同時に振り抜き、交差する巨大な光の刃を飛ばし、双刀は元に戻る。修羅が回避に徹していると、ハチドリはその場で飛び上がって自身に電撃を落とし、瞬間移動で肉薄して巨大な雷霆となった双刀を地面に叩きつけ、その衝撃と大量の落雷で空間を捻じ曲げ、修羅を捉えて硬直させる。赤黒い太刀に凄まじい紅雷を纏わせて投げつけ、修羅は間一髪で体の制御を取り戻して周囲の空間を歪ませて異形の刀へ持ち替え、完璧なタイミングで太刀を弾き返す。生じた強烈な力場を抜け、着地しつつハチドリを擦り抜けて無数の斬撃を叩き込みつつ振り向き、左手に槍状のエネルギーを帯びたロッドを生み出し、踏み込んで突き出す。ハチドリが赤黒い太刀を左手に戻しながら飛び込みながら振り向き、刺突を回避しつつ立て直そうとする。修羅はエネルギーを解放して螺旋状の弾にし、即座にエネルギーを纏わせて槍を投げつけ、次いで籠手から火球を射出し、更に細い熱線を数発撃ち込む。ハチドリは矢継ぎ早に繰り出された攻撃に対し双刀を交差させて受け、修羅は更に紅い蝶の群れを横一列に呼び出し、それらから極太の熱線を放出する。双刀の防御を砕き、そこから巨大斬撃光線を叩き込み、ハチドリは大きく押し込まれる。
【私の……創世を……!】
ハチドリは背からメルクバの竜骨化と同じ翼を生み出し、莫大な闘気を纏って急上昇する。大量の紅い闘気塊を撒き散らしながら、修羅目掛けて着弾し、分身によって受け流され回避され、だが着弾と同時に双刀を振り、X字状に超巨大な斬撃を生み出し、更に双刀を地面に突き刺して更なる大爆発を起こす。修羅は出来うる限り最大限に距離を取って避け、ハチドリはゆっくりと修羅の方へ向き直る。
【私の創世を……私が拓くコトワリを……】
ハチドリの姿は竜骨化しており、バロンの竜骨化に、メルクバの翼を配し、ソムニウムのように全体のシルエットが減量された姿だった。なおも黄金の闘気を纏っており、更に紅と蒼、それぞれの闘気をも纏う。
【最強を以て!此処に刻む!】
「……!」
修羅は異形の刀を地面に突き刺し、その柄頭に右手を置き怨愛の炎を放出する。
「私をも焼き尽くしてこそ、真の意味で最強に辿り着く」
異形の刀が太刀に変じつつ、それを掴んで振り払う。瞬間に竜骨化し、絶大な覇気を放つ。
【「いざ参る!」】
二人が同時に叫び、ハチドリは大量の分身を自身に追従させながら瞬間移動で距離を詰めながら双刀を振り、遅れて辿り着いた本体が双刀から力を解放して強烈な斬撃を二筋残し、修羅が分身による攻撃を軽く躱しながら本体の一撃を弾き返し、大量の斬撃を撒き散らしながら舞うような連撃を高速で叩き込む。怯まずハチドリはバックジャンプしつつジャンプの最高点で分身を射出し、それらが繰り出す斬撃によって修羅を硬直させ、本体が高速回転しながら直撃し、当然とばかりに双刀を振り抜いて追撃し、ここぞとばかりに上体を反らして咆哮し、自身を巨大な光の柱へと変えて攻撃を重ねる。修羅は自身の周囲に怨愛の炎で壁を作り、居合の構えで耐え、柱の中を突っ切りながらステップで詰め、抜刀薙ぎから縦斬りを叩き込み、ハチドリは一気に引いて赤黒い太刀に紅雷を溜め、空へ放り投げ、そして大量かつ巨大な紅雷霆が降り注ぎ始める。空いた巨大な左手に光の刃を持ち、乱雑に左から右へ薙ぎ払う。修羅は大量の斬閃を展開しながら空間を歪ませ分身を盾に擦り抜けつつ詰め、素早く二回振って斬撃を飛ばし、硬直した瞬間に頭上の紅雷が一気に降り注ぐ。修羅は空間を歪ませて隙を潰し、斬閃でいくつかの紅雷を撃ち落としながら飛び上がって太刀で残りの紅雷を受け、ハチドリへ撃ち返す。ハチドリは火薬へと変わって飛び上がり、同じように蒼い太刀に撃ち返された紅雷を受け、再び撃ち返す。そこに空を蹴って太刀を突き出しつつ切っ先に紅雷を宿しながら突進し、空中でお互いの太刀が激突して競り合う。
【まだまだ……!】
ハチドリは翼から闘気を噴出して押し切らんとするが、修羅は自身の太刀ごとハチドリの太刀を弾き飛ばし、空いた右手で頭を掴んで地面に叩きつけ、着地してからもう一度力を込めて大爆発させ、ハチドリが反撃に全身から闘気を発して修羅を吹き飛ばし、両者同時に太刀を手元に戻す。先手を打ってハチドリが大量の分身を撒き散らし、翼から闘気を噴出して再び急上昇しつつ、双刀を掲げて力を溜める。
「……」
修羅も太刀を掲げ、溜め込んだ力を解放して巨大な光の刃へと変貌させ、居合抜きのように構える。力を溜めきったハチドリが超巨大な彗星となって特攻する。同時に太刀を抜き放ち、超巨大な斬撃が空間を荒れ狂い断ち切り、捩じ切れた空間が真一文字の斬撃を生み出す。ハチドリが押し負け、自爆しながら吹き飛ばされる。そのまま双刀を手放して地面に叩きつけられ、竜骨化が解ける。
【くっ……】
ハチドリが手をついて四つん這いになり、顔を上げる。修羅が歩み寄り、竜骨化を解く。
「私の勝ちです」
【あはは……その通り、ですね……】
ハチドリは立ち上がり、蒼い太刀を右手に呼び戻す。
【教えてください、私……あなたは……幸せですか?この中でも、現実でもいい……】
「……」
修羅は黙したまま、静かな頷きで返す。
【なら、良かった】
両者は構え、踏み込んで太刀を振り、擦れ違う。ハチドリが太刀を落とし、崩れ折れ、灰となって消える。修羅は血振るいして、太刀を鞘に戻す。
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