ゲーム風な異世界に鍛え上げた最強軍団でやってきた ※ただし全員俺(ヒント:複アカ)

笠本

第1話

 石造りの廊下。壁に灯されたランプの淡い光の下、一人歩く俺の靴音だけが響く。


 進む先にあるのは金属の重厚な扉。その左右に兵士が立つ。

 兵士二人は揃って敬礼し、緊張にうわずった声をあげた。


「偉大なるレグス陛下に敬礼!」


「うむ」

 俺はできるだけ軽い調子でうなずく。

 大丈夫、ちょっとヤクザスーツ(天帝の鷹牙オーガ:コラボイベント限定コス)着た魔王様だけど、中身はただの引きこもりニートだからね。


けよ」

 安心させようと微笑みながらそう告げると、兵士は「はいぃ!」とあからさまに緊張して扉に向かい、手を滑らせてさらに慌てている。


 まあしょうがないかな。こないだ魔族は滅ぼすって攻めてきたワルド帝国の数千の軍隊を俺一人でワンパン極大魔法で壊滅させちゃったからね。


 中に一歩入るなり、部屋に怒声が響いた。


「貴様! もう一度言ってみろ!」

「ああーん? てめえは冷静沈着な魔道士気取ってるくせに沸点低すぎなんじゃねえのー!」


 片手杖を手にパイロットスーツ(銀河創星StarLeader:コラボイベント限定コス)を着た魔道士。

 天使の輪っかを頭に浮かべ、ピンク色の縁取りされたロープ(天使爛漫エンジェルパラダイス:コラボイベント限定コス)をマント風に着こなした狼人の女戦士。


 部屋の真ん中で二人が顔を突き合わせて一触即発のオーラをかもしだしている。


 扉に手をかけたまま立ちすくむ兵士に向けて、俺はあごを動かす。


 慌てた兵のがんばりで扉が音もなく閉められ、にらみ合ってた二人が互いの襟首を掴んで威嚇の声をあげる。


「やるか貴様!」

「おおっ、魔道士様の細腕でオレにかなうと思ってるんならなあ!」


 そんな二人に割って入ったのはアロハシャツ(あろハロ!:コラボイベント限定コス)を着た虎人の大男。

 むき出しのけむじゃくらの太い腕をのばし二人の頭を掴んだ。


「やめんかバカども! 王の御前であるぞ!」


 そのまま豪腕をでもって二人の頭をぶつけた。


「があっ」

「ぐはっ」

 二人はよろめき、頭を抑え、首をふり、目を何度もまばたきさせ、顔を上げた。

 そして驚きの表情を見せて、互いを指差した。


「えっ!? なんで俺が目の前に!」

「ええっ!? オレがいる?」


「「もしかして……オレたち……入れ替わってるー!?」」


「「「いぇい!」」」

 ドヤ顔を決めてくる三人。


 パチパチパチと部屋にいる他の面々、ゴーレム、鎧武者、カウボーイ……etc、が

小さな拍手を重ねる。


「どうかなレグス陛下、このネタ」

 虎顔でカートゥーンみたいな口のはしを上げた得意げな表情を見せるラギル


「オチは一瞬で読めたけど、ほんとに頭ぶつけてた所はスゴイなって思ったよ」


「おお、こいつ、ガチでやってきやがったからな」

「加減しろっての」

 魔道士と獣人戦士の二人が今も頭をさすりながら。


「しかし、まさか自分が『君の名○』ネタやる時がくるとはな。リア充共が体育祭とかでやたらとネタにするのに反発してたのを思い出すよ」

 俺は部屋の上座にあいた椅子に座りながら言った。


「あー、あったな。もう何かあったら男女でくっついて入れ替わりネタやって騒いでてな。あの頃は監督の過去作見てないニワカに何が分かるんだってムカついてたわ」

「わー、老害」

「自己紹介おつ」


 そこから皆がリア充どもの悪口で盛り上がるのを聞いて俺はしみじみと思った。


「それにしてもあれだな。今思うとリア充どもってやっぱチート能力者だよな。あいつらの俺たちのネタは皆に受けて当然っていう厚かましさ、あの根拠ない自信というか、笑えよっていう同調圧力の強さって、もう俺たちの魔法なんかよりスゴイだろ」


「「「「「「「「「分かる」」」」」」」」」


「いまの俺たちって結構ギャグとかネタを披露するだろ。前世じゃあ人前で話すこと自体なかったけどさ。なんというか、絶対に受け入れてもらえるっていう空間があるとさ、人間かなり饒舌になるんだなって。俺、自分が普段から笑いを取ろうって考えるようになってて驚くわ。


 リア充どもがクラスで騒がしかったわけだよ。あいつら自分の発言が外れるってのを一切考えてないからああいう態度が貫けたんだな」


 全員が再び分かる、と外見は違えどまったく同じ表情で同じタイミングで頷いた。


 そう、この入れ替わりネタをやった二人どころか、部屋にいる俺含めた十人全員が俺だ。


 あれはもう数年前になる。

 高校に入ってすぐにいじめからの引きこもりニートをやってた俺は、当時出たばかりの新作MMORPG『FantasyArcOnline』通称FAOにハマっていた。


 ファンタジー世界で様々な種族を選んで、モンスターを狩ってレベルを上げたり、アイテムを生産したり、ギルドを組んで勢力範囲を広げたり、他のプレイヤーと戦ったりというゲーム。


 この手のものとしては標準的なシステムで、クオリティだったが、課金要素が少ないのが良かった。金がなくても時間さえかければ上位プレイヤーになれるため、ニートの特性を生かして俺は寝ている時間以外のすべてをこのゲームに注ぎ込んだ。


 そのかいあって、俺は希少クラス『魔王』を取得し、プレイキャラのレグスが率いるギルド『ソリチュード・デケム』は魔族種族の中で最高位ギルドに登りつめた。


 だが一年前に収益悪化を理由にFAOはサービス終了となった。


 俺はニートの三年間を捧げたファンタジー世界の終了を、ゲームにログインした状態で迎えた。


 その瞬間が過ぎれば俺はログアウトして四畳半の部屋に一人戻されるはずだった。

 

 だがまばゆい光に包まれた俺は見知らぬ世界、いやどこよりも詳しく知っている世界へと生まれ変わっていた。


 ゲーム開始地点と同じ古代遺跡に立っていた俺の姿は、プレイキャラ魔王レグスそのもの。


 そう、ゲーマーだったらみんな夢見るようなゲーム風の異世界への転移を果たしたのだ。

 

 しかし何より驚いたのが、周囲には九人の人影があったこと。

 魔道士、狼人戦士、虎人将軍、ゴーレム、鎧武者、カウボーイ……


 彼らは俺のギルド『ソリチュード・デケム』のメンバーだった。


 このゲームは仲間を募ってギルドを結成するのが最も効率よくキャラを成長させられるし、ギルドに入ってなければ参加できないイベントがいくつもある。


 でも俺はコミュ障で引きこもっていたのだ。ゲームだからってそれが治るわけはなく、既存のギルドにはうまく馴染めず、かといって新人を勧誘して束ねるなんてもっと不可能。

 結局自分で複アカで複数の自キャラを鍛えた方が早いという結論に達して、親から借りた低スペックPCやらを駆使してギルドを結成。

 タイプをばらけさせた全10キャラの育成を楽しみ、様々なイベントを堪能した。 


 いわば、ぼっち軍団というわけだ。


 そして鍛え上げたぼっち軍団で異世界にやってきたわけだが、残りのメンバー九人も俺の自キャラ。するとどういうことになるかというと……


 なんと全員が俺の人格と記憶を持っていたのだ。つまり俺が十人に増えたのだ。


 それから一年。

 いろいろあって、人族に迫害され滅ぼされそうになっていたハードモードの魔族を救うべく、ギルド『ソリチュード・デケム』は魔王レグスを冠する多種族共生国家へと拡大していた。


 もう自分たちと外見が違うからとか、あちらの宗教では汚れた存在となってるとかいう理由で魔族を虐殺してた人族が、暗いとかキモイとかどもるとかで俺をいじめたリア充共に重なってたからね。そりゃ救うでしょ。



――――と、これまでの歩みを回想していた俺に、狼人の戦士ルガルガが尋ねてきた。


「で、レグス陛下、緊急会議ってなんだよ」


「お前の件だよ」


「オレが?」


 パチンと俺が指をならせば会議室に置かれたオープから光が立ち上がり、きらめいた粒子が映像を形づくる。


 そこには凛々しくもどこかあどけなさを残す犬人の青年の姿。


「彼の名はヒササ。犬人種族の若き当主にして剣の名手。これは皆も知ってるだろ」


 現在、我が国は多くの種族が庇護をもとめて拡大の一途。

 そこで俺以外の現地メンバーを幹部に入れようとしており、その第一候補が彼であった。


「ヒササがどうしたんだ? 配下の犬人種族をよくまとめてるし、本人の力量も人格も問題ないのは分かってるだろ? まあちょいとレベルが低いが、ルガルガが戦闘スタイルが似てるからサポートしてダンジョンで鍛えるってことになってるんだよな?」

 虎人のラギルが狼人のルガルガにそうだろ、と確認する。


「あっ……おっ……おお……」

「なんだよその反応は」


「えー、ここで俺たちにお知らせです。ヒササが俺にルガルガとの交際の許可を求めてきました」


「おわあああ!」

 慌てるルガルガと驚愕に大口を開ける俺たち。


「なんでもルガルガに惚れて告白したけど、『オレはレグス陛下に剣を捧げた身だから交際なんてものにうつつを抜かす暇はない』って断られたんだとさ。それでも諦めきれなくて俺にルガルガの分まで働いてみせるから、ルガルガと付き合う許可をくれって直談判しにきたんだ」


「すげえ……」

「トップに直訴とかまっすぐだな」

「純朴そうな顔してやるなあ」


「もちろん俺は『本人さえよければいっこうにかまわん』って答えといたからな」


「いや、まてよ! オレは外見は高身長で割れ腹筋のムチムキ姉御キャラだけど、中身はオレだぜ!」


 ルガルガは全身を包むはずのローブがマントくらいにしかならない大柄な体躯。

 水着程度の面積しかない防具からはみ出た胸と太ももがエロスと力強さの両方を主張する、俺たちの性癖が詰まった夢の恵体ボディなのだ。


「なにか問題あるか?」


「いや、あるだろ。オレは心は男なんだからな」


「TSアンソロジーコミック vol.3 ~どうしよう 彼が何を求めてるか 私知ってるの~」


 俺が告げたのは前世で最後に購入していた漫画のタイトル。当然その中身は全員が知っている。


「男が女性化して最初は抵抗があったものの、次第に男の子に惹かれていく自分を発見してしまう、全俺が興奮したTSものアンソロジーだよな」

「ぐっ」


「男の娘アンソロジーコミック vol.1 ~スカートって普通に便利だよね~」

「むかし田舎で遊んだ男の子と高校で再会したら長髪でスカートはいてて『お前女だったのかよ』からの実は男の娘だった冒頭作が神」


「TS百合 短編選集① ~calmato~」

「あれはなー、BL作品が混ざっててなんだこれと思ったけど、最後のコマで二人が何度も男女や種族さまざまに転生してることが判明してジャンルテーマを深堀りしたのが印象深い」

 

「※※※※アンソロジーコミック 上巻 ~※※※※が※※したら※※※※~」

「これは表紙詐欺」

「いや、funio先生のカラーイラストだけでお釣りがくる」


 俺たちからも証言が集まる。


「そうだ。TS、男の娘、TS百合、※※※※。どれも最初はありえないって思ってたよな。でも慣れた今となってはそもそも何を問題にしてたのか分かんないだろ。俺たちは二次元の夢の世界に来てるんだぞ。男だ女だそんなつまらんことを気にしてどうする」


「いや、そうは言ってもリアルだといろいろ抵抗あるんだよ! だいたいオレはヒササのことはただの同僚としか思ってねえよ」


「おいおいルガルガ。俺はお前でお前は俺なんだ。いわば一心十体だぜ。お前が内心ヒササ君のことが気になってるのなんてバレてるんだよ」


「はあっ!? そんなことないし!」


「あんだけ熱心にヒササ君のトレーニング計画立ててさ、そりゃないだろ」

「普段から食事とかんときの距離が近い」

「俺たち陰キャがパーソナルスペース1メートル切ってんだから、完全に親密だぞ」


 俺たちからも証言が集まる。


 ヒューヒューとゴーレムが口笛をふく音声を流す。

 鎧武者が顔につけた面頬を怒りの表情から笑顔のものにとりかえる。


「お前ら楽しんでんじゃねえよ!」

 ルガルガは大声をあげるが、次には肩を落して静かに語りだした。


「いやもうさあ、そりゃヒササがいいやつだってのは分かってんだよ。お前らもオレなんだから分かんだろ。ぶっちゃけヒササが男だとかそういうのは、あんま気にしてないんだ。やっぱ身体にひっぱられるのはあるからさ、好意もあるよ。


だからさ、もう単純に人間関係深めるのが怖いっつうやつだよ。

部下とか国民はいいんだよ。今まわりにいるやつらはオレたちが人族から守ってやったり、食料調達してやったりとか、完全に与える側だったろ。いわば目下だろ?


でもさ、恋人になったら対等な関係になっちゃうだろ。そうなったときに自分がどう振る舞えばいいか分かんないのが怖くてたまんないんだ…………」


 ルガルガの独白に俺たちはその抱えた不安が分かりすぎるくらいに理解できて、部屋が一気に静まった。


 そうか、そりゃ怖いよな。


 俺だって王様やって、多くの種族を従えているが、ほぼ成り行きだからな。

 行政はもともとこの地にあって、人間に滅ぼされた国の生き残りが担当しているのだ。

 期待されてるのは戦闘力だけだ。普段はふんぞり返って彼らが怯えながら報告することに何となくで頷いているだけの関係なのだ。


 親密な相手なんてここにいる俺たちだけだ。

 結局ぼっち軍団なんだ。


 でも、だからこそ今ルガルガには一歩踏み出してほしいと思う。

 そしてそれは俺も同じだ。


「なあ、ルガルガ。俺、挑戦してみたいことがあるんだ」


「なにするんだ」


「キャラ変してみようと思うんだ」


「なに? 定番の少女魔王様とかになるの?」 


「違うわ。俺な、ハリウッド映画に出てくるようなボス上司キャラを目指そうと思う。気の利いた皮肉やジョークを飛ばす、ああいうタフでかっこいいキャラだ」


「嘘だろ……」

「マジかよ」

「無謀じゃね」


 ルガルガのみならず、俺たちが呆気にとられる。


「分かってるだろう。俺たちはこの場では饒舌じょうぜつに小粋なギャグや冗談を飛ばしたりするが、ここを離れたらみんな寡黙キャラだ。だがこれから現地メンバーがここに入ってくるんだ。そしたらまたみんなだんまりになっちゃうのか? 俺は嫌だ。今のこの雰囲気を守りたい」


「だからハリウッド型ボスを目指すってのか」

「そりゃあ、そういうボスの下なら俺たちも気軽にギャグとばせるかもしれん」


「正直、まだ俺たちは部下とのつきあいがそこそこあるから、まあ言うほど寡黙キャラってわけじゃないけど……うん、ネタ披露とかまではしてないな」


 この世界に来て俺は受けるという快感を知ってしまった。受け入れられる心地よさを。

 今のところ自分たちの間でしかそういうキャラを出してはいないが、これをもっと外に広げていきたいと思ってしまうんだ。

 より多くの人を笑わせられたら、そう願ってしまったんだ。


 正直すごいコワイ。


 前世で自分の発言が無視されたこと、リア充どもに言葉尻をとらえていいがかりをつけられたこと、面白いことを言えと強要されて、無理やりひねりだした冗談を嘲笑われたこと。


 誰かに言葉で働きかけることへのトラウマが今も蘇ってくる。


 そりゃあ戦闘前の敵への罵倒はいくらでもできる。何せチートな暴力が裏付けになってるんだから。


 でも笑いは違う。チート能力なんて役にたたない。

 何より、ギャグやジョークを口にするとき。そこには相手を笑わせたいというこっちの思い、欲望をさらけだすことになるんだ。


 すべって、それを否定されたら。


 外見や低スペックを否定されるのは慣れてるけど、さらした内心を否定されるのは最も辛い。それが俺たち陰キャだ。


「レグス……」


 ルガルガが俺を見つめてくる。


 ルガルガに発破をかけようとしたんだ。だったら、俺もこの困難に挑戦しようと思う。その意思をこめて俺もルガルガを見つめる。


 やがてルガルガは一度視線を落し、再びこちらを向いたときには、その表情がきりりとしていた。


「そうだな、レグスがそこまで無謀なチャレンジしようってんだ。オレもヒササとの付き合い、挑戦してみる」


「ああ、頑張ろうぜ」


 俺たちも口々にルガルガの決意を自賛する。


「この勇気、名目だけじゃなくて真のトップになったな」

「帝国軍を一人で退けたレグスならきっとできるさ」

「やっぱ立場が人を育てるってのがあるんだな。俺たちにはそんな無謀に挑む勇気はないぜ」


 と思ったらほとんど俺への称賛だった。えっ、そこまで無謀かな…………


「よし、皆も協力を頼むぞ。俺がジョーク飛ばしたときは皆で最高にウケてくれよ。ちょっとすべっても、皆の力で『これにウケない奴はちょっとおかしいよねー』みたいな同調圧力でヒササ君を追い込んでくれ」


「お前、それ俺たちが憎んだリア充そのものじゃねえか」


「何、その悪を倒した者がまた悪へと堕ちていたみたいなの」


 いいんだよ。俺はワルド帝国いわく、悪そのものなんだからな。


        ****


 魔族領域と人族領域との間にある大草原。


 そこに布陣した数十万の軍隊。


 金の刺繍がほどこされたローブに身を包んだ神官らしき男が声をはりあげている。


「どうだ魔王レグス! これが我がワルド帝国の本隊だ。いかな貴様とてこれだけの精鋭が揃えば太刀打ちできまい! 神に仇なす魔族共を今日こそ滅ぼしてくれよう!」


 バカなやつらだ。

 今日はルガルガが久しぶりにヒササを誘ってトレーニングをする日なのだ。

 遠出して風光明媚な景観地で二人きりで。


 そういう名目での実質デートである。そこでルガルガから自分の気持ちを伝えるのだ。俺たち皆で相談して決めた必勝プランである。


 当然俺たちもこっそり見守るつもりだったが、そこへ入ってきた帝国軍襲来の報。

 

 この大事な日を邪魔しようとする帝国に怒りを燃やし、二人が戻る前にかたをつけるべく全俺で迎撃に出向いてきたのである。


「さあ聖杖隊よ前に! かつて神が我らにこの地をお与えくださるときに、全てを浄化した浄罪の劫火。いま再び神のお力をお借りし、貴様ら不浄の輩を焼き尽くし清めてくれよう!」

 

 彼の背後の神官たちが祈りを捧げると、その上方に太陽のごとくの赤く揺らめく球体が現れた。


「まいったな。どうやら神は俺の禁煙を邪魔しようとしているらしい。ワイフにどやされちまうぜ」

 ハリウッド型ボスらしく、指に葉巻をはさんだ仕草をして小粋に返す俺。


「えっ……貴様……何、いまの……」


「「「「「「「「…………………………」」」」」」」」


 あっ、あれ? 今のダメだった?

 俺は慌てて指をピンと鳴らした。


「「「「「「「「HAHAHAHAHAHA!」」」」」」」」

 俺たちの爆笑が風魔法にのって戦域に響き渡った。


「もしやそれは冗談のつもりか! まったく笑えぬぞ」


「んだとコラァ!」


 俺は伸ばした手の先に魔力を凝縮し、極大魔法を展開する。黒炎の球体が神官たちの生み出すそれを上回るサイズへと増大していく。


 魔道士が杖を掲げる

 虎人将軍が爪をたてる。

 鎧武者が刀を抜く。

 ゴーレムがファンネルを飛ばす。

 カウボーイが投げ縄をまわす。

 全俺が戦闘準備を整えていく。


「さあパーティーの開始だ! 遅れたやつは向こう一週間トイレ掃除だ!」

 俺は極大魔法をぶちこみ、その勢いのままに目の前の軍隊に突っ込んでいく。


「「「「「「「「オーケー、ボス!!」」」」」」」」


 そして俺たちは侵略軍を一蹴した。


 帰ってきた俺たちを出迎えたのは大歓声の国民。

 そして満面の笑顔のヒササ君と、赤面しながらもどこか誇らしげなルガルガであった。


        ****


 ドガンっと俺のヤクザキックで重い金属扉が弾き飛ばされた。

 室内には俺たちがすでに揃い、その中央にはルガルガとラギルが立つ。


「「ショートコント。コンビニにトレンチコートの警部が入ってきた」」


「さーて、チキンはまだ残ってるかな。まったく、家に財布を忘れてくるなんて俺も歳だなあ」

 虎人のラギルがアロハシャツのボケットに手を突っ込みながら歩く。


 チャラチャラチャラン、と節をつけて口ずさむルガルガが出迎える。


「いらっしゃいませー、あれえ? お客さんさっきも来てましたよね」


「ええっ、何なのこの店員さん。すっごい期待した目でこっちを見てくるんですけど……っと、なんだよ?」


 俺はそんな新作コントをやっている俺たちの間を割って進み、乱暴に椅子に座る。


「よーし、貴様ら。遊びの時間は終わりだ」


「何だよボス。いきなり」

 コントを中止させられた二人が不満げに椅子に座る。


「良いニュースと悪いニュースがある。どちらから聞きたい」


「良い方は?」

「帝国から停戦を求める使者が来た」


「悪い方は?」

「我々の中に裏切り者がいると判明した」


「その二つって関係あるの?」

「いや、ないが」


「それ普通に二つニュースがあるだけじゃん」

「やっぱり俺たちにはハリウッドジョークは早かったんだ」

「それより裏切りってなんだよ」


 ぶうぶうと突っ込む俺たちを無視して指を鳴らす。

 会議室中央のオーブが光を放出する。


 やがて形作られたのはぴょこっと揺れるネコ耳にメガネをかけてはにかんだ表情の黒髪の愛らしい少女。


「彼女は兵站部所属のミーシャちゃんだ。皆も日頃お世話になっているはずだ。先程彼女から寿退社の打診があった。具体的な日取りはまだきまっていないが、人族との戦争が終わることを耳にして、それなら恋人と結ばれたいという話だった」


「ええっ、誰だよその幸運な男は」


「ラギル、立て」

 俺の宣告にラギルが頭をかきながら立ち上がった。

 

「アハハッ。いやあ、ばれちゃあしょうがないなあ。実はしばらく前から俺たちつきあっててさ。前に兵站部に出向いたときにたまたま彼女の持ってた小説が目に入ってさ、俺もそれ読んだよって話しかけたらもう盛り上がっちゃってさ。そこからなんとなくって感じでさ…………


 いや、ほら、彼女って騒がしいのが苦手だからさ、秘密にしたいっていうから皆には言ってなかったんだけど。普段もお家デートでひっそりと過ごしてたからな。一緒に本読んだり、ボードゲームやったり手料理ごちそうになったりさ。


 帝国との戦いが終わったら正式に結婚したいねとか言ったりしてるんだけど、そっか、停戦の話聞いてもう先走ってそんな手回しするなんてな。へへっ、そんなに俺と一緒になるのを楽しみにしてたなんてな。照れるなあ。


 もちろんみんなも祝福してくれる……よ……な……」


 ラギルが俺たちを見回して言うが、皆の沈んだ冷たい表情に語尾が小さくなっていく。


「オウ! どうしたんだいみんな? まるでお通夜みたいじゃないか?」


「ああ、これからそうなるだろうな」

 俺は言った。「なぜならミーシャちゃんは……」


「至高のネコ耳」

「究極のメガネっ娘」

「一見地味だけどほんとはすごくカワイくって」

「水着になるとほんとはすっごくて」

「俺だけが気づいてる」

「本が好きで語れる相手を求めてて」

「恋愛には奥手で今まで男と付き合ったことがなくて」

「でもちょっとエッチな小説を隠し持ってます」


「おい、お前ら何で知ってるんだよ!」


「おお、神よ……」

 俺は天を仰いだ。

「やはり彼女は俺たち陰キャが大好きなネコ耳の地味な黒髪メガネの図書委員だったんだな」


 かわいいけどメガネと地味な黒髪のせいで周囲の男たちはその魅力に気づいていない、そして同じ趣味の小説の話題で会話だって続けられそうな、陰キャな俺でも受け入れてくれるんじゃないかって期待を抱かせてくれる。


 そんな理想のイデアが異世界には存在していたのだ。

 だが、そんな不可侵の女神はすでに……


「おい、ルガルガ! なんでヒササと熱愛中のお前まで睨んでんだよ!」


「ふざけんなよ……オレだってヒササとの付き合いにいろいろ障害乗り越えてんのに……ネコ耳メガネの図書委員長とか、そんな陰キャの妄想みたいな娘とか、ズルすぎだろ!」


 TS百合も嗜むルガルガが怒りを燃やす。


「さて、では決をとる。この許しがたい裏切り者を処すか否か」


「有罪」「有罪」「死刑」「有罪」「殺す」「俺と代われ」「有罪」「極刑」


「はあ!? WHY?」


 魔道士の片手杖が光を帯びる

 鎧武者が刀を抜く。

 ゴーレムがファンネルを飛ばす。

 狼人が拳を打ち合わせる。

 カウボーイが投げ縄を天井からつるす。


 俺たちの攻撃の意思が一つにまとまる。


 俺はもう一度、天を仰いだ。


 この異世界に来て、俺は前世では考えられなかったほどの苦難やトラブルに見舞われている。命の危機にさらされたことも何度もあった。


 だが、前世では引きこもって逃げ出した俺であるが、この人生ではその全てに立ち向かってきた。


 なぜなら頼れる仲間がいるからだ。

 強い絆で結ばれた俺たち。


 きっとこれからも訪れる困難に皆で乗り越えていくだろう。


 なぜなら、俺たちの心はいつだって一つだから。


「一つじゃねえよ!」

 ラギルが悲鳴をあげた。


※第一部『帝国との戦い』はこれにて終結。

 続いてゴーレムになった俺が、自分だけは恋人ができっこないとガチ泣きしだしたので、理想の機械人形ロボ娘を生み出すために、皆で古代文明の遺物を探す第二部『古代遺跡攻略編』が始まります。

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