火星旅行から 三十と一夜の短篇第66回 

白川津 中々

 時は西暦5000年。

 地球は幾度もの危機を迎え何度も滅亡の瀬戸際にさらされるがその都度窮地を脱していた。


 そこに、管理星"シグメント"の助力があった事はいうまでもない。


 地球人類はシグメントの存在を認識した際、自ら星諸共その支配下とる選択を取る。

 といっても、地球人が家畜になるといったような事はなかった。シグメントにしてみれば観測対象がこちらに気が付いただけであり、今更服従の姿勢を取られたとしても「何を言っているんだ」と思うばかり。最初から支配していた単なる観測星の一つに過ぎないのだから、それも当然だ。

 が、彼らには無下にはできない事情もあった。地球人類が曲がりなりにも知的生命体である事は事実であるわけで、その申し出を断るのは宇宙憲章に反する。シグメントは下等ながらに知性の存在を認め、友好的に交流するようになる。



 シグメントとの交流が始まった事によって地球の科学は飛躍的に進歩する事となった。空飛ぶ車やワープ装置など、これまで物語の中にしかなかった技術をどんどんと実用化していく。もっともワープには大量のエネルギーが必要となるため未だ物理移動が主となっているが、それでも現在では亜光速での走行、飛行、航行が可能なったわけであるから、旧時代より随分躍進したといっていいだろう。これも、全てはシグメントの技術提供によるものである。



 それでも、いくら高速移動ができるといっても地球人類は旅行の道中に楽しみや喜びを置くところがあるものだから、超科学時代でも船や飛行機をあえて低出力のまま動かすという事は珍しくはない。それはこの、火星行き巨大旅客機。スペイシィ・ハイリアー号においても同様であった。



「では、ワクチンの接種と認証データを確認しますので、生体スキャンいたします」


 一列に並ぶ旅客者の方を向き、ホロビューを介した乗務員が伝達事項を述べる。

 恒星間移動においてはワクチンの接種が義務となっており、接種経歴は生体データに記録される。もっとも、その接種法は生後体内に埋め込まれたナノマシンを離陸前に拡張するだけであるため正確にはワクチンでもないし接種でもないのだが、便宜上、また慣習上、長く「ワクチン接種」という風に言われているのだった。



「昔、ワクチンは注射で体内に入れてたらしいんだけど、実はその中にマイクロチップが埋め込まれていて、政府が人を洗脳しようとしていたらしいぜ? 馬鹿みたいだよな」



 そう軽口を叩くのは日本人の小紋キイである。

 キイはQ亜大学に通う四年生であり、火星への卒業旅行のためスペイシィ・ハイリアー号に乗るのだった。



「それデマだって。この前特番でやってたよ」



 キイに対し涼し気に返すのは止水ユウである。彼女はオカルト記事などを好んでみるが、その多くを否定的に捉えていた。都市伝説や伝承などの裏付けのため、必然詳しくなったとは本人の談である。



「なんだよ、夢がないね君は」


「夢ばかり見ていても仕方ないでしょう。そんなだから卒業ギリギリになるんだよ」


「そいつは聞き捨てならない。俺はちゃんと計画的に単位を取得していたんだ」


「ふぅん。教授に土下座して、その単位をくれって懇願したのは誰だったかな」


「なんで知ってるの?」


「さぁね!」


「隠すなよ。教えろって」


「やーよ」



 他の客の手前騒がしくするのはあまりよろしくないが、彼らのやり取りは一般的な人間にとって許容の範疇であろうし、それがカップルであればなおの事容認せざるを得なかった。

 ただし、カップルというのはあくまで第三者の目から見た場合においてのみ適用される関係である。周囲の人間の認識と異なり、二人は男女の中というわけではない。あくまで友人としての付き合いであり恋愛感情などなく、単に気が合うため今回の旅行を計画したのであった。にわかには信じられないが、地球人類の雄雌は長い年月の末、ついに男女の友情を獲得する事に成功したのだ。過去の人類であれば「そんな馬鹿な」とうたがってかかるだろうが、その証拠として、キイとユウはもう一人、別の人間をこの旅行に誘っているのであった。



「やぁやお待たせ」


「先生、長いトイレでしたね」


「キイ君、デリカシーがないよ」


「いやぁ悪いね。どうも便秘が酷くってねぇ」


「……先生も、デリカシーを考えてください」


「そうはいっても生理現象を説明しただけだよ?」


「高度な知性と社会性を持った生物の前で言う事じゃないんです!」


「そうかなぁ……」


「そうですよ!」



 この如何にも不適合者だと思われる人間はキイ達のゼミを担当している御門サモンである。サモンは異星歴史学、社会学、人文学の教授であり、他銀河系に属する異星の文化や社会などについて精通している。彼の提出した論文がシグメントの目に止まり高く評価されているという点を加味すれば、その有能さが理解できるだろう。

 サモンを誘うよう提案したのはキイであった。彼はサモンを慕っており、また、内定を得た企業とのパイプ役としても世話になっていた。その恩返しとして、この旅行に招待したのである。



「まぁなんでもいいけど、早く乗ろうよ。拡張もスキャン終わったし」


「え? あ、本当だ」



 三人は急ぎスペイシィ・ハイリアー号に乗り込み、夕食時合流する約束をして各部屋へと別れた。

 スペイシィ・ハイリアー号は火星まで六時間で到着するよう設定されていた。その間、乗客は景色を眺めたり機内の遊興施設を利用するなど様々であったが、キイは仮眠を取るべくベッドに横たわる。部屋に入った途端に瞼が重くなり、入眠の欲求が湧き出たのである。慣れない旅行で精神的な負荷がかかっているのだろうと思った彼は、迫りよる睡魔に抗う事なく、そっと目を閉じたのだった。




 それから三時間後。時間は午後十七時。船が揺れ、衝撃が走った。デブリの衝突ではない。重力波でも惑星風でもない。自然には発生し得ない異常。熟睡していたキイは飛び起きて困惑。何かあれば室内のホロビューが自動で展開され説明がなされるはずなのにそれがないのである。いったいどうした事かと狼狽え、鼓動を早くする。



 その内にキイの部屋の扉が開かれた。外から何者かが解錠し、押し入ってきたのだ。先の揺れから十分程経過した頃である。



「なんだお前ら!?」



 部屋に入ってきたのは全身を旧式の軍用装備で固めた人間二人だった。顔が覆われ素顔は確認できないが、体躯からして男だと思われる。しかし、それだけだった。キイは現在何が起こっているか把握しきれず、そして……



「……嘘だろ……」


 心臓を撃ち抜かれ、キイは死んだ。彼は自身の血溜まりに倒れ、己が短い一生を顧みて、多くの後悔を浮かべるのだった。








 キイが目を覚ましたのは十四時であった。「うわぁ」と叫び、自身の胸を確認すると、安堵の溜息を落とす。



「……夢かい」



 安心したキイは寝汗で汚れた肌をシャワーで洗い流しホールへ出た。全天候型の機内からは星の瞬きが見える。一と時の暇を過ごすには、丁度良い演出だろう。



「おや、小紋君。一人かい?」



 キイに声を掛けてきたのはサモンだった。



「えぇ……」


「どうしたんだい? 浮かない顔をしているけれど」


「ちょっと、嫌な夢を見まして」


「へぇ夢。それは興味深い。話してくれたまえよ」


「この船で、自分が撃ち殺される夢です」


「ふぅん……」


「あ、すみません。退屈でしたか?」


「いや、嫌な夢っていうから、もっとグロテスクで悍ましいものかと」


「自分が死ぬ夢は十分グロテスクで悍ましいんですが……」


「そうかい? 死なんてのは生命の延長線上にある結果にしか過ぎないし、そう特殊なものでもないと思うけれどね」


「……先生は特殊なんですよ」


「そうでもないさ。まぁ、こっちにきて一緒にお茶でも飲もうよ。奢るよ?」


「はぁ……」



 その後、キイはサモンから聞きたくもない異星文化の講釈などを聞きながら過ごした後自室へと戻る。時間は十五時を少し回った頃。眠気が覚めたがどうにも手持無沙汰となりホロビューを着け映画などを視聴し、無為な時間を過ごす。いつの間にか、時計には十七時と表示されていた。すると……



 揺れ。機内に走る衝撃。キイは怯えるように飛び跳ねホロビューを消す。



「嘘だろう?」



 先に見た夢と同じだ。


 彼はそう思って、嫌な汗を流した。夢と同じという事は、それはつまり、自分の部屋が開かれ、自分が殺されるという事である。キイは確信した。あれは予知夢かだったと。どうにかしてこれから起こる悲劇を回避しなければならないと。刻々と過行く時間。殺された時間まで残り五秒。四……


 扉が開いた。向けられる銃口はキイの心臓を捉えている。これに対し、キイは。



「うわぁ!」



 咄嗟に二人の男に向かって突っ込む。打開策が思いつかず、破れかぶれの行動だったがしかし、これが下策である事は誰の目からも明らかだろう。



「……あ」



 キイは再び心臓を撃ち抜かれ、自身の血溜まりに倒れて死んだ。そして再び、後悔ばかりが浮かぶのだった。









 キイが目覚めたのは再び十四時だった。その瞬間、自覚する。これは予知夢ではない。同じ時間を繰り返しているのだと。


 いったい何故そんな事になったのだろう。考えるも答えには至らない。時間の繰り返しなど自然を超越した現象であり解明できるはずもなく、そもそもそんな事が実際に起こり得るのかさえ不明なのだ。少なくとも、キイの手には余る難題である。悩むだけ無駄な事だ。

 それよりも自分を襲ってきたのはいったい誰なのかを考える方が先決とキイは思考の向きを変える。何が目的か知らないが、奴らは自分を殺しにやってきたのだ。目的は何だろうか。それを突き止めれば、この繰り返しに関して何らかのヒントが得られるだろうと。

 勿論そんな確証はない。しかし、他にどうしようもない以上、キイはそう信じざるを得なかった。そうなると、まずは、自分を殺しに来た二人をどうにかしなければならない。いや、というより、機内に侵入してきた人間が二人とは考えにくい。何処にどれだけの人間が配置されているのか確認する必要がある。まずはそれを知る事が先決であると方針を定めた。



 ここでキイは覚悟を決める。時間が無限にループするのを利用して様々な場所に現れては殺されを繰り返したのだった。殺される事が決定づけられた検証はまさに死に物狂いであったが、その甲斐あって有用な情報が出揃う。


 まず、機内に侵入した人間は全部で十四人。その内、六人三組がキイの部屋のフロアを移動している。これについて、不審な点が一つあった。三組中二組は見張りとなり動かず、残り二組は真っ直ぐキイの部屋へと直行してくるのである。これが意味するところは一つ。狙いがキイの命だという事だ。


 次に、この船を襲った組織についてである。詳細はつかめていないが、宇宙海賊であるらしい事は知る事ができた。そして、通路壁面に張り付き、穴を空けて侵入してきたのも突き止めている。海賊たちは操作室の占拠と同時にキイの部屋を狙って進行していた。

 海賊の知り合いなどいないキイは、何故彼らが自分を殺しに来たのか大いに悩んだが、きっと誰かが依頼したのだろうと推測を立てる。海賊の首領は宇宙船に残っているに違いなく、そして、首領であれば誰が自分を殺しを依頼したのか知っているはず。キイは海賊船に乗り込み、首領から犯人を聞き出す事を決めた。


 ここで幸運だったのは、侵入経路のすぐ近くにユウの部屋があった事だった。死を迎えて飛び起きたキイはすぐさまユウの部屋へと向かい、彼女に対してこう告げる。



「部屋借りるぞ!」


「え? なにどういう事? 出ていってほしいんだけど」



 交際してもいない女性の部屋に居座るというのはそれなりの難度を有した。しかしここで退き下がるわけにはいかない。なにせ自分の命がかかっているのである。そう易々と拒否を認めるわけにはいかなかった。


「頼む! 十万円で! 部屋を貸してくれるだけでいいから!」


「……」


 必死の願いにユウは少々考えたが、「しょうがない」と渋々首を縦に振り許可を出す。


「十万は別にいいけど、火星で何か奢ってよね?」


「ありがとう! お前は命の恩人だ! 幾らでも奢ってやるよ!」


「そんな大げさな……」



 キイにしてみれば大げさでもなんでもないのだが、第三者から見れば異様な謝意である。ユウにしてみてもそれは同じで、何があるのかと勘ぐっていたが、この時彼女が真意を知る事はなかった。時は十七時。宇宙船が揺れ、壁に穴が空けられる。



「なに!? 何が起こったの!?」



 ユウの動揺を余所に、キイは三分程待機してから部屋を飛び出し、海賊が侵入した経路を辿って船内へと入り込んだ。幾らか進むと食堂のような場所に出る。そこにはお供の海賊数人と、首領と思われる人間が飲み食いをしていた。



 よし。ここで邪魔な人間を殺して……



 そう思っているところ、ケーキを持ちにやってきた海賊に見つかり銃で撃たれキイは死んだ。










 キイは目覚めると、一通りの事を行い海賊船へ侵入。死角に潜み、邪魔な海賊を殺して首領に詰め寄る。





「おい! なぜ俺を殺そうとしている!」


「なんだお前。ターゲットじゃねぇか。こいつは好都合だ」


「動くな!」


 警告を無視して船長はマスクを取り付ける。突然の行動に何をしているのかと呆気に取られたキイだったが、すぐさまその行動の意味するところを知る事となる。



「あばよ」



 ガスが噴射され、キイは苦しみ悶え死んだ。即効性の毒ガスがキイの命を奪ったのだ。









 目が覚めて一通りの事をして、まずキイが行ったのは毒ガスがどこにあるか探す事だった。そして度重なる死と引き換えに発見。液体のガスを高速噴射し気化させて吸い込ませる古典的な仕組みで、食堂の近くにある倉庫にセットされていた。

 キイはそれを解除し、毒を採取する(この時下手を踏んで一度死んだ)。そして海賊たちのケーキに盛り、手下が死んだ頃を見計らって首領を襲撃。とうとう圧倒的優位な立場となった。キイの尋問が始まる。



「俺を殺そうとしている奴は誰だ!」


「それは言えないなぁ……」



 首領の言葉を聞いたキイは指を折り、歯を砕いた。何度かそんな事を繰り返していると、とうとう首領は首謀者の名を口にする。



「み、御門……」


「なに?」


「御門サモン……」



「そうか」




 キイは答えを聞くと、首領を撃ち殺し毒入りの食料を誤って口に含みそのまま死んだ。あまりの驚きに我を忘れ、行動の抑制ができなかったのだろう。








 そして目が覚め、キイはホールへと直行する。




「あれ、小紋君。どうしたんだい?」


「なぜ、俺を海賊に殺させようとしたんですか?」


 一瞬の静寂の元、サモンはにやりと口角を上げ、クツクツと笑う。



「……そうか。そうかそうか。気付いたんだね君は! おめでとう!」


「おめでとう!? おめでとうだって!? なにがめでたいものか!? 俺が何度! 何度死んだと思っているんだ!」


「その死を何度も乗り越える経験を君はしたんだよ!? 素晴らしいじゃないか!? 死は結果に過ぎないが一度きりだ! それを何度も繰り返すだなんて本当に……めでたい!」



 キイはサモンの言葉が無意味だと悟り冷静さを取り戻そうと努める。価値観や倫理観が著しく異なる相手と会話するほど無駄な事はない。それよりも、事の真相を聞くのが重要である。



「何故俺を殺そうとした。なぜ俺は時間を戻っている」


「戻っている。という表現は少し違うな。これはね。コピー・デリート・ペーストだよ」


「……どういう意味だ」


「言葉の通りさ。考えてもみなよ。普段人が時間時間と言っているのは、いってみれば地球人類の作り出した定義、概念に過ぎないんだ。その本質は単なる分裂や活動の停止。回数、距離、積載など。これを戻すなんて事はまず不可能。世の自然現象は全て不可逆なんだよ。となれば、君がどういう行程を踏んでいるのか、分かるんじゃないかな? 君の死がトリガーとなってこの地球の情報はコピーされ消される。そしてその後に複製が作成されるというわけだよ。万物は全て原子の集合体であり、法則によって成り立っているわけだからね。丸々写してしまえば、後は同じように事が進むだけ。何物かが介入しない限りは……」



「馬鹿な!? そんな事……」



 できるわけがないと口走ろうとした瞬間、キイは思い出した。サモンが、シグメントと交流を持っている事を。



「気付いたようだね。そうだよ。この技術はね。シグメントから提供されたものなんだよ。ナノマシンの拡張の際、君にはワクチンとは別にもう一つプログラムが仕込まれていたんだ。それは、ワクチン接種後最初の睡眠が起点となり世界がコピーされ、死ねば世界が消えて新しく作成されるというものさ。部屋に入った時、眠くなったろ? それはそういう事だよ」


「いったいなぜ! どうして俺なんだ!?」


「単純な実験観察さ。同じ環境下で一人の人間が異なる行動を取った場合、どのような結果になるかっていうね……いうならばタラレバの検証かな? 君がトリガーになった理由は特にない。強いて言えば年齢か。別に僕でもよかったんだけど、若い方がいいというのが向こうの指示でね。君を殺すよう頼んだのも同じさ。死にながら学び、如何にして窮地を脱するのか。まず、その過程が見たいんだって」


「……」


「それが終われば、しばらくは日常生活が続くはずだよ。まずは短期。次に長期のデータを取りたいって言ってたからね。ま、悪いけど、しばらく付き合っておくれよ。何百年、いや何千年かかるかは僕も分からないんだけれど」


「先生……僕は、先生を信じていたんですよ!?」


「僕は別段君の信頼を裏切った気はしないなぁ。だってこれは結構大きな実験なんだよ? 中々面白い、名誉な事じゃないか」


「……」



 心底愉快そうに笑うサモンを前にキイは言葉を発せず、ついにはホールを出てしまった。向かった先はユウの部屋だった。



「あら? どうしたの?」


「……側にいてくれないか?」


「え? なに、急に」


「いいだろう? 駄目か?」


「駄目って事はないけど……」


「そうか」



 キイは無遠慮に部屋へと入ると、許可もなく椅子に座り、項垂れる。



「……どうかしたの?」


「別に……ただ、記憶が残り続けるってのは、大変だなってな」


「そう? 私は、この旅行をずっと覚えていたいけど」


「……俺はもう、十分だ」


「まだ火星についてもいないのに。ねぇ、本当にどうしたの?」


「……」



 問いが帰ってこないユウは黙って壁にもたれかかり、キイは窓から外を眺めていた。この時間はあと数時間で終わる。あと数時間で、また海賊がやってきて、キイの命を狙ってくる。そうしたら海賊を殺し、今度は毒入りのケーキを食べずに部屋に戻ってきてそれから……



 その後の行動をキイは記憶していない。何がどうなるかは分からないが、彼が死ねば再びこの日に戻り、きっと自分が何をやったか、朧気ながらに思い出す事だろう。それを、観測者は記録している。


 両者の間には、途方もなく大きな、絶対的な隔たりが存在しているのだった。しかし……




 キイはまだ外を見て、この先、何が起こるか考えていた。

 シグメントは彼らを見て、この先、何が起こるか考えていた。

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