【32曲目】異邦人

<intro>

 ブルーノは崩れ落ち地面に両膝をつくと、ちからの入らなくなった両腕をダランとさせたまま項垂うなだれる。無残に砕け散った剣の残骸が視界に広がると、肩で息をさせたまま表情が歪んでいった。

 マリカが観客席から修練場に降りて歩み寄ってくると、それより先にノーマンが声をかける。

 「僕の勝ちってことでいいのよね?」

 「・・・」

 おいおいおい、黙っちゃったよ。剣の破壊はやりすぎちゃったかな・・・?

 マリカはブルーノのかたわらに到着するとブルーノの肩に右手を置くと、ノーマンを見つめながらブルーノの代わりに答えた。

 「はたから見てて所々良く分かんない事もあったけど、剣まで破壊されちゃったんだもん。当然アンタの勝ちだよ、ノーマン」

 「そりゃどうも」

 そして、マリカがねぎらいの気持ちを込めてブルーノの肩に置いた右手をポンポンっとやると、ブルーノは込み上げて来た感情を堪えられず体を震わせながら号泣する。

 「うおぉーっ」

 『ええっ』

 ノーマンとマリカは突然の事に驚き2・3歩ほど後退あとずさりしたが、慌ててブルーノをなだめようと近づいた。

 「いやいや、ブルよ。大人なんだから泣くなよ」

 「そうよ、剣も自尊心もズタズタにされたからって、泣くなんてアンタらしくもない」

 「両腕ツライのもすぐに回復させてやるから」

 「そうそう、剣もアタシが頼んで新しいの作ってもらってあげるから」

 するとブルーノは泣きながら反論する。

 「違うわい。別に腕がツライわけでも、剣がこわされたからでも、自尊心が傷ついたんでも、悔しいわけでもないわ」

 「・・・じゃあ感動でもしたか?」

 「悔し涙ではないわけ?」

 ブルーノは泣きながら首を横に振って否定した。

 「まあ、とりあえず。これ飲んで少し落ち着こうや」

 そう言ってノーマンが回復薬エナジアをブルーノに飲ませると、ブルーノは少し落ち着いたようで動くようになった手で涙をぬぐった。四十路の大男の号泣に少し動揺したノーマンは、自身も冷静さを取り戻すと音感探知ソナーが反応して周辺の変化に気づく。

 「二人とも、とりあえず場所を変えよう。僕とブルーノの戦闘バトルで、さすがに周辺まわりも異変を感じたみたいだ。人が集まって来る気配を感じる」

 「それはまずいな。こんな場面、どう説明してよいかわからん」

 体力的にはスッカリ回復したブルーノが立ち上がると、3人はギルドの建物に向かい加速アクセルでその場をあとにした。

 (また、盗聴したの?)

 (人聞ひとぎきの悪い事を言うなよ。周辺に気配りしただけだよ)

 (ふーん。まあ、確かに便利な能力よね)

 (でしょ?)

 「おいお前ら、何をコソコソ話してんだ。俺の悪口わるぐちか?」

 「違うわよ。どんだけ卑屈になってんのよ」

 「そうそう。賭けに勝てて良かったって話してただけだよ」

 「そうだったな。そう言えば、旦那が勝った時はどうすんだっけ?」

 「それも含めて、これからおはなししよう」

 ブルーノの執務室に到着すると3人は中へと入っていく。


<side-A>

 「今日はモニカはおらんの?」

 「ああ、俺がいない時は自分の部屋で仕事しているよ」

 「じゃあ、この建物の中にはいるんだ」

 「ああ。なんでだ?」

 「いや、なんとなく・・・」

 ノーマンはモニカについて何かを考えていたが、言語化できるほど明確にはなっていなかった。

 「で、気持ちは落ち着いたの? ブルーノ」

 マリカがそっけなくブルーノの様子をうかがうと、ブルーノは少し照れ臭そうに頭をかく。

 「ああ、なんだか恥ずかしい所を見せてしまったな。スマン。でも、もう大丈夫だ」

 (お前のあだ名はもう俺の中では『泣き虫先生』だけどな)

 「なあ、旦那」

 ノーマンは突然声をかけられ自分の悪意を見透かされたかと思い一瞬ビクッとしたが、ブルーノにそんな能力がない事を思い出しすぐに冷静になった。

 「なにさ?」

 「俺は全力でったつもりなんだが」

 「うん、別に疑ってねーよ」

 「実際にってみて、どうだった?」

 「うーん、人間と真剣勝負したのは、正直これが初めてだったんだけど。思ったより強かった」

 「アンタどんだけブルーノの事を見くびってたわけ?」

 マリカは少しあきれたが、ブルーノは続ける。

 「魔将サージェントと比べてどうだった?」

 「正直に言っていい?」

 「頼む」

 「うーん、魔将サージェントといってもタイプがバラバラだからなあ。とりあえず、大猪魔将パイヤみたいなゴリゴリの武闘派で肉弾戦主体だったら・・・」

 「どうだ?」

 「ブルとお、ブル並みの攻撃手アタッカーをもう1人とお、遠距離攻撃の手練れをもう1人とお、回復兼補助役が1人いてえ、その4人で小隊パーティーを組んだらあ・・・まあ勝てないまでも、ギリギリいい勝負かな?」

 「そうか・・・」

 あくまでもノーマンの私見とはいえ厳しい現実を聞かされたが、ブルーノは落ち込む様子もなくうっすら笑いノーマンの言葉を受け入れた。

 「ノーマン。アンタって容赦ないわよね」

 「だって、正直に言えって言うから」

 「マリカ、イイんだ。それで、旦那。俺は・・・もっと強くなれると思うか?」

 「うん、楽勝でなれる」

 「ちょっと、アンタそんな無責任なこと言って大丈夫?」

 「だからイイんだよ、マリカ。旦那に打ちのめされて、俺自身まだ強くなれる気がしたんだ。だから、泣いた」

 「どういう事よ?」

 「俺が自分の限界を感じたのは、勇者クリストフと剣を交えたあたりからだったから、もう15年以上昔の話さ」

 「20代から成長してないの?」

 「ああ、勇者クリストフ小隊パーティーに入るのを諦めて、父親の跡を継いでギルドマスターになってからは一線を離れてしまった」

 (長くなりそうだけど、付き合ってやるか)

 「さっき旦那にやられて、それでも自分の強さの上限がこんなもんじゃないって思えた時に、『ああ、俺はこの15年間いったい何をやってきたんだろう?』ってね。『この15年で、レウラ半島をもっと探索して、旦那みたいに色んな発見をしていたら』とか、『あの時、もっと強かったならマレディ討伐はもっと被害が減らせたんじゃないか?』なんて具合に、一気に後悔の念が押し寄せて来たんだ」

 (ああ、オジサンあるあるだよねえ。20代から30代を組織に人生捧げちゃった社会人に多いやつ。わかるぞ、ブルくん・・・それでも、泣くほどのことではないが)

 「まあ、そんなに後悔しなくてもいいと思うよ。その間もブルがしっかりギルドマスターしてたおかげで助かった連中もいただろう? なにより、過去は悔いても変えようがない」

 「そりゃそうだが・・・そうだ、もっと強かったら旦那にも一太刀ひとたち浴びせられただろうし、剣を壊されることもなかっただろう?」

 「アハハ。でも、お前らの戦い方じゃあダメだよ」

 「?」

 「うん。僕がこの世界くにに来てから、出会って来た魔将サージェントと冒険者には共通した悪い癖がある」

 「癖ってなによ?」

 ノーマンは携帯灰皿をテーブルに置いて、煙草をくゆらすと大きく煙を吐き出した。

 「まあ癖っていうか、仕方のない習性?習慣?」

 『?』

 マリカとブルーノは首をかしげる。

 「冒険者って基本、単独ソロだったら、自分より弱い魔獣モンスターを討伐するでしょ?」

 「まあ、そりゃそうだ。だから自分より強い魔獣モンスターと戦うために小隊パーティーを組むんだ」

 「そそそ、それよ。小隊パーティー組んじゃうと攻撃役オフェンス防御役ディフェンスに分かれて、それぞれの役割に徹するだろ?」

 「当たり前でしょ」

 「つまり、単独ソロの時にはして、小隊パーティーだと攻撃一辺倒になってしまいがちなわけだ」

 「・・・まあ確かにそうなるわね」

 「なるほどな」

 「だからな、ブル。お前も魔将サージェントも含めて、攻撃型オフェンシブな連中は特に、自然と戦い方が攻撃に偏って防御が下手くそになる」

 「じゃあ、防御型デフェンシブな連中は攻撃が下手になるってのか?」

 泣き虫先生、アホだわあ。

 「じゃなくて、もともと得意じゃないだろ。僕は冒険者の生態は知らんけど、おそらく防御型デフェンシブ職業ジョブの冒険者って、単独ソロでの戦闘は好まないだろ?」

 「確かにそうだな。経験値が稼げないレベルの魔獣モンスターしか狩れんからな」

 「ね? でもその点、軍隊なんかはバランスよく訓練してんじゃないか? 攻防一体で」

 「そういわれると、冒険者は職業ジョブに特化した訓練しかせんな。しかし、旦那はホント色々考えてんだな」

 「お前が何にも考えてなさすぎなんだよ、この脳筋」

 ノーマンがブルーノを強めに罵倒すると、マリカが申し訳なさそうに手をあげた。

 「あのお、質問いい?」

 「どうした?」

 「その理屈って、魔法系の職業ジョブにも当てはまったりする?」

 「うーん、そうだなあ・・・冒険者の事はよくわからん。でも、不死魔将リッチーは当てはまった」

 「どんな風に?」

 「不死魔将あいつが僕にやったのは、大容量の魔力にモノをいわせた攻撃魔法による飽和攻撃サチュレーションアタック

 「飽和攻撃サチュレーションアタック?」

 「うん、要は敵の防御処理能力を超えた量の攻撃を浴びせる戦法」

 「相手に反撃する余裕を与えない連続攻撃・・・俺が旦那にやった戦法に似ている?」

 「そういう事。どちらも格下の相手を圧倒するにはとても有効だ。自分より強い相手と戦った事のない奴にとっては、最強の必勝法となり得るだろうね」

 「その通り。現在いまの俺にできる最高の攻撃を旦那にぶつけたつもりだ」

 ブルーノが両拳を正面でガチンとぶつけながらなぜか誇らしげに言ったので、ノーマンは面倒くさそうにため息まじりに返す。

 「そうだねえ。ブルの場合は僕を格上と認めた上で自身の最高の攻撃をを持って披露してくれたんだよね」

 「そういう事だ」

 「でも、不死魔将リッチーと同じで、通用しなかった」

 マリカが頬杖をつきながら少し馬鹿にしたように言うと、胸を張っていたブルーノはシュンとして背中を丸め肩を落とした。

 「まあ、そう言うなよ。不死魔将リッチーは最後まで僕を・・・っていうか人間を格下に見てたんだから。ブルとは姿勢が違うよ」

 「そうか?」

 あっ、言わなきゃ良かった。簡単に機嫌直しやがって。だが確かに不死魔将リッチーがもし最初から俺を格上と認めていたら、どんな戦い方をしたのかは興味がある。案外、パイアお姉さまやリスクと連携して対処していたかも知れないな。そうなったら、さすがに俺とチーム・レオでも苦しかったかも・・・。

 「だから、もしお前が15年間で経験を積み重ねたとしても、根底にこういうがある限り、せいぜい攻撃力が上がったくらいだと思うし、それじゃ僕に一太刀ひとたちは浴びせられんかったと思うよ」

 「じゃあ泣きぞんね」

 いちいち嫌なことを言う女だなあ。

 「なら旦那。旦那だったら、自分より強い敵と対峙した時にはどう戦うんだ? そもそも旦那だって、自分より格下としか戦ってきていないだろ?」

 「戦わない」

 「はっ?」

 「何よ、それ」

 「言ったろ?僕の目標は生きて故郷くにに帰って、嫁と娘と平和に暮らすことだって。何が悲しくて自分より強い敵と戦わねばならんのだ。そんな敵が現れたら全速力フルスピードで安全圏まで逃げ延びるわっ」

 「そりゃ、そうなんだろうけどよ。じゃあここまでの会話は何だったんだ?」

 「そうよ、さも格上対策がありそうな口ぶりで、時間返しなさいよ」

 「いやいや、僕ならどうするって聞いたから、僕は戦わないって言っただけだろ」

 「じゃあ、格上対策はあるわけね?」

 「あるよ」

 「どうやるんだ? 旦那」

 ブルーノがガッと前のめりになってノーマンに詰め寄ると、ノーマンは煙草の吸殻を携帯灰皿に放り込み足を組み直す。

 「やって見せたろ?」

 「何を?」

 「格上との戦い方」

 「はっ?」

 「だーかーらっ、ブルを相手にやってたんだよ。格上対策」

 「だって俺は旦那より弱いぞ」

 「そうよ、格下に格上対策って、どういう意味よ」

 今度は二人がかりでノーマンに詰め寄ると、ノーマンはヒョイっと立ち上がった。そして、詰め寄る二人の顔を見下ろしながら右手で頭をグシャグシャっとする。

 「僕は・・・たとえ、自分より弱い相手だったしても格上だと思って戦うことにしてんの」

 「どういうことよ?」

 ノーマンは少し上を向いて何かを決意すると、咳払いをしてから小さく深呼吸する。

 「僕は、この世界せかいに来てから、自分が強いのか弱いのかがわからなかったし、どの魔獣モンスターがどんだけ強いかも知らなかったんだ」

 『?』

 「そんな中で、ただ死なないためだけに、できる限り慎重に、奢らず、油断せずに、出来る事をフル活用して戦ってきたつもりだよ」

 ブルーノとマリカはノーマンの言っていることが理解できず、ポカンとした表情でノーマンを見ていた。

 「だから、いつも敵は自分より強い設定で挑んできたんだよ」

 ノーマンはそう言い切ったあとに勢いよく椅子に座り直すと、三者の間にしばしの沈黙の時間が流れる。

 「この世界せかいに来てからって、この世界くににきてからの間違いだろ?」

 「いいや、この世界せかいと言った」

 ここでマリカが先にノーマンの言っている意味に気づく。

 「じゃあ、もしかしてアンタがこの世界せかいの常識に疎いのって・・・」

 「ああ。僕はまったく別の世界せかいから、知らん奴にされた異世界人で・・・この世界せかいの人間じゃないんです」

 ノーマンが少しうつむきながら白状すると、三者の間に再び沈黙の時間が流れる。

 ああ、なんとなく勢いで言ってしまった。何かを説明するたびに、言葉を選ぶのが面倒くさくなってしまったんだな・・・俺自身。

 ノーマンが沈黙に耐え切れず上目づかいでチラッと二人の顔を見ると、ブルーノとマリカはやっと事態を飲み込んだらしく驚きをもってノーマンの白状に応えた。


 『えーっっっっっ!!!』

 


<side-B>

 3人は冒険者ギルドの4階にある集会室に場所を移し、車座になって改めてノーマンの事情を説明を聞いた。

 「・・・ってことは、ノーマンが故郷くにに帰るってのは、ただ船に乗って移動すればいいって話じゃなく、まず、帰る方法から見つけなきゃならないってことね」

 さすがマリカだな。話題はそっちかい。

 「そういう事らしい。な?先の長そうな話だろ」

 「だが、って事は、って事だよな?」

 お前もはスルーかい。

 「一縷いちるの望みをたくすす以外ないのが現状だよ。少しでも情報が欲しくてフィリトンに来たんだが・・・」

 「うーん、異国から来るヤツはたくさんいるが、異世界ってのは聞いた事がないからなあ」

 「あのさ、お二人さん」

 『なに?』

 そこは声を揃えんでも。

 「ブルもマリカも僕の帰還について考えてくれるのは、非常に有難いのだが・・・ってところは問題ないの?」

 すると、ブルーノとマリカは一度顔を向き合わせ、ノーマンの方に向き直ると笑いだす。

 「うーん。たしかに驚きはしたんだが、旦那のを考えると・・・」

 異常性って、人を犯罪者みたいに。

 「・・・異世界人って言われた方が、思いのほかに落ちちるというか・・・なんなら、最初に執務室で聞いた話の方がインパクトが強かったもんでね」

 そんなもんかね。

 「そうそう。アンタが突然☆7の所持者ホルダーに目覚めたってのも、多分、異世界人ってそんなもんなのかもなんて、割と冷静に思えちゃってるのよ」

 お前は自分の事以外では動揺しない女だからな。

 「まあ、二人がそれでいいなら、良いのだけれど・・・」

 そもそも、魔王やら魔法やらの世界だもんな。度でいったら、俺の世界の比じゃないってわけか。

 「ねえ、ノーマンが元々いた世界せかいって、どんな世界なの?」

 マリカが目を輝かせながら前のめりになると、ブルーノは何も言わずにノーマンに目線で説明を催促した。

 「どこからどう説明して良いかわからんが、とりあえず、魔王も魔獣モンスターもエルフもおらんし、魔法もない世界せかいだよ」

 『おおっ』

 リアクションもユニゾンかい。

 「文明はこの世界せかいよりも、千年くらいは進んでるかな?」

 「せっ、千年も?」

 「ああ。魔法がない分、機械の文明が発達していてね。たいそう便利な世の中だったよ」

 「じゃあ、こっちの世界せかいは不便で原始的に感じる?」

 「いや、そうでもないさ。田舎いなかに行けば、ここに近い生活をしている文化圏もあるしね。とどのつまり人間なんてもんは、どんなに文明が進化したって基本的にやる事は変わらんのよ。働いて、食って、寝る。それだけだよ」

 「旦那は向こうでも強いのか?」

 「ぜんぜんぜんぜん。喧嘩もろくにしたことがない普通のオッサンだよ。でも、戦う機会なんてそうそうにないからね、それで十分に事が足りる」

 「戦闘がないのか?」

 「うーん、僕のいた『日本』って国では平時の暴力行為は法律で禁止されてるからね。こっちみたいな戦闘にはまず遭遇しないよ」

 「戦争はないの?」

 「世界規模ではいたる所でやってるけど、日本はかれこれ70年以上は当事者にはなってないんだ。まあ、平和なもんさ」

 「ホントにまったく戦う環境になかったって事?」

 「うん」

 ここまで会話したところで何がきっかけになったのか、突然ノーマンの瞳から涙がこぼれた。

 「えっ、どうしたんだ? 旦那」

 「何よ?」

 ノーマン自身も涙がこぼれた事を自覚して慌てて袖で涙をぬぐった。

 「ゴメン。こっちの世界に来てから、出来るだけ元の世界の事は考えないようにしてたから、うっかりね」

 その言葉を聞いて二人は慌てる。

 「スマン、旦那。そりゃそうだわな。俺らが無神経すぎた」

 「ホントにごめんなさい。そうよね。異世界に連れて来られて、アンタも頑張ってるのよね」

 「いいや、僕こそスマンね。泣くほど悲しいってわけじゃないんだけど、涙が勝手に・・・」

 するとブルーノはとっさにノーマンをねぎらおうと、話題を微妙に変えようと試みた。

 「いやいや、旦那は凄いよ。もし俺が逆の立場だったら、旦那ほどちゃんとは過ごしてないだろうよ」

 「ホントよね。ノーマンってどっか、余裕感じるもの」

 確かに、俺は余裕を持っているかもしれない。それは・・・

 「僕の世界せかいでは・・・」

 あぁ、ゲームとか言うとまた説明が面倒くさい。

 「・・・ここみたいな世界を描いた物語がたくさんあってさ。だから、割と受け入れやすかったってのはあるかも知れない」

 『物語?』

 ユニゾン・・・。

 「ああ。それこそ、魔王やら魔獣モンスターやら勇者やら魔法使いやら、まるでこの世界のような物語が、山ほどある」

 「魔王もいないし魔法もないのに?」

 「それこそ、こちらにも御伽噺おとぎばなしや神話はあるだろ?」

 「ええ」

 「僕の世界でもそういう物語やそれを使った二次創作が好かれてんだよ」

 「いないのに?」

 「うん」

 マリカとブルーノの頭上に大量の『?』が浮かんでいる。

 まずいな、この話はきりがないし、説明するのは面倒くさいぞ。

 「とにかくだ。わかりやすく言えば、僕は童話の世界に飛び込んだ感覚で過ごしているというわけだ」

 「・・・なるほどな」

 「じゃあ、そういうことにしとくわ」

 急に納得したな。コイツら・・・さては考えるのが面倒くさくなったな。とにかく助かった。

 「しかし、旦那はやっぱり凄いよ。未知の世界に飛び込んで2週間程度とはいえ、自分の能力におごることなく研鑽していたんだから。15年さぼってた俺とは・・・」

 ブルーノは先程の後悔を思い出し肩を落とした。

 「そう卑下しなさんなよ、ブルーノ。僕だってだったら、多分、をひたすら研鑚する程度の事しかしてこなかったさ・・・いや、マジホント。絶対そうだわ」

 ノーマンは改めてディオやレオとの出会いこそが、自分を成長させていたと改めて気づいた。

 「独りじゃなかったって、旦那を拾ったっていう、例の爺さんか?」

 「だけじゃないけど・・・」

 「じゃあ、アンタの弟子って子」

 「・・・両方かな?」

 「旦那はそもそも、どうやって技能スキルを身に着けたんだ?」

 マリカは技能スキルの事はよくわかっていなかったが、二人の会話をあえてスルーする。

 「制圧ホールド迎撃カウンターの事?」

 「あの防御は迎撃カウンターって言うのか?」

 ああそういえば、制圧ホールドは名乗ったけど、迎撃カウンターは言ってなかったか・・・。

 「うん。僕が独りだったら、多分あの技能スキルは作ってなかった」

 「えっ、旦那が自分で技能スキルを作ったのか?」

 「えっ、うん」

 マリカがここで会話のスルーをめる。

 「えっ、技能スキルって作れるの?」

 「えっ、この世界の法則は知らんけど、使っているうちに戦譜スコアにのったよ」

 『・・・』

 三人は各々の予想外の現実にしばし沈黙したが、ノーマンは沈黙を破り自分のペースで説明を続けた。

 「とりあえず、あの技能スキルが生まれたのは、との出会いから始まったんだ」


 そこから俺は、スライムに殺されかけた少年レオを救い、その少年レオ所持者ホルダーに目覚め、その少年レオが俺に弟子入りし、まだ弱かった少年レオ魔獣モンスターを倒す手段よりも、生き残るを優先して教えた事を二人に伝えた。

 狼型魔獣ゲイルファング鴉型魔獣キルレイヴンはもちろんの事、魔王軍の配下であった猪型魔獣カリュドーン蛇型魔獣サーペント従魔サーヴァントにした件については、説明が面倒くさい以上に内容が衝撃的ショッキングだと判断し、大幅に割愛させてもらった。

 さて、弟子レオ魔獣操者モンスターテイマーだと、すでに知っているマリカはともかく、ブルはどう反応するだろう?

 ブルーノは腕組みしながら目を閉じてしばし考えた。

 「なるほどな。つまり旦那は、自分はたいがいの攻撃は回避して済ませられるところを、その弟子が自分の身を守れるようにわざわざ防御ディフェンス技能スキルを考え出したわけだ」

 「まあ平たく言って、そんなところだな」

 「で、その少年はすでに旦那の作った技能スキルは習得済みだと」

 「うん。いやあ、吸収も早くってさ。みるみるうちにレベルも上昇したさ」

 「今はどれくらいだ?」

 「お別れした時点で☆6・・・習熟度は知らんけど」

 それを聞いてブルーノがハァっと大きく溜息をつき再び熟考に入ると、マリカはノーマンに近づいて耳打ちする。

 (ねえ、魔獣操者モンスターテイマーの件は内緒のままでいいのよね?)

 (そこまで話したら、ブルの脳みそが追い付かないだろ?)

 (たしかに、そうかも。でも、って、ホントにそんな凄い子なの?)

 (多分ね)

 (多分って何よ?)

 (だって、僕はだから、誰かと比較できないよ)

 (まあ、そうよね)

 「よし、決めたっ!」

 ブルーノが熟考を諦め自分の膝をポンっと叩き声を上げると、密談していた二人は声に驚きビクッとした。そして、マリカは恐る恐るブルーノの決定事項を確認する。

 「な・・・何を決めたの? ブルーノ」

 「俺は旦那に弟子入りする」

 「はっ?」

 「俺も旦那に鍛え直してもらって、旦那の技能スキルを習得する」

 マリカは目をパチクリさせて少し驚いたが、ブルーノの考えに同調したのか立ち上がり挙手した。

 「じゃあ、私も」

 「はっ?」

 「はっ?じゃないわよ。アタシもブルーノもまだ強くなりたいの。ちからになりなさいよ」

 えっ?なんで上から目線? レオなんて土下座して頼み込んだんだぞ? 師弟関係ってそういうもんじゃねえの?

 すると、ノーマンのそういう気持ちを察したのか、ブルーノはノーマンに土下座して見せる。

 「旦那、頼む。アンタならを破ってくれると確信した」

 マリカは土下座はせずに立ったまま頭を下げた。

 お前はしないんかい。いや、むしろされたら気まずいか。とりあえず、もともとブルの限界突破を手伝う気ではいたし、教えるのはいいんだけど・・・。

 「・・・うん。わかった」

 その返事で二人が顔を上げ目を輝かせると、ノーマンは面倒くさそうに足を前に放り出す。

 「でも、弟子とか師弟関係とか正直面倒くさい。として協力するって事でいいだろ?」

 ブルーノとマリカはそれを聞いてアイコンタクトをとると同時にうなずいた。

 「もちろんだ」

 「ええ、それがいいわ」

 おそらく今は恩の売り時だな。売るだけ売ってやるから、あとでしっかり俺の役に立ってもらうぞ。

 「じゃあ、とりあえず」

 『なに?』

 ユニゾン来たあ。

 「人目に付かない、練習場所を見繕ってくれ」

 「ああ、それなら、フィリトンの北に廃鉱山があるわよ」

 「ラナイ鉱山か。たしかに、あそこなら魔獣モンスターも出ないし、用事のある奴もおらんだろうから誰も近づかないな」

 誰も近づかない廃鉱山? いいじゃないか。俺の私的要件でも使えそうだ。

 「そこは誰かの領地じゃないの?」

 「領地と言えば、そりゃ大公陛下の領地なんだが・・・」

 「大丈夫よ。あそこは今、職人ギルドが管理しているから」

 「?」

 「本来なら商業ギルドが管理すべき施設なんだが・・・」

 「ああ、三大ギルドの最後の一つね。なんか訳ありなの?」

 すると二人の顔がくもる。

 「まあ、いろいろとな・・・」

 「?」

 「それは、おいおい説明するわ」

 どういう事かわからんが、もはやこの二人が俺を裏切る事はないだろう。

 「わかった。じゃあそれはお前らに任せる。で、何から始めよう?」

 『今から?』

 ユニゾン。お前ら兄妹きょうだいかよ?

 「ああ、日が沈むまでは付き合ってやるよ」

 「なんで日が沈むまでなの?」

 「今日は週末だろ? バルドの店で演奏しなきゃ」

 ブルーノとマリカは顔を見合わせててから、ノーマンに向きなおる。

 『ああ、そうなんだあ』

 ユニゾン地獄。。。


 でもね、サトコ。

 僕もサトコとユニゾンできたら、凄い幸せだよ。



※作者の体調不良により【33曲目】以降の公開は未定です。

 2023年の再開を目指して療養に専念しますので、

 大変申し訳ございませんがご了承ください。

 

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器用貧乏なオッサンは異世界で歌う(仮) 立木ミル @cthefool

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