後編:檻の外

 ……どれだけ走り通したのだろう。

 部活棟から遠く離れた芝生の上で、俺たち二人は大の字に寝転がって荒い息をついていた。

 これほど走ったのはだいぶ久しぶりだし、前に走った時にも俺の隣には暗前くらまえが居た。その時も、から逃げるための徒競走だった。

 怪談も、も場違いな、どこまでも抜けるような青い空。いつの間にやら、追いかけてきていた気配は雲散霧消していた。


「逃げ切った……ってことか?」

「ああ。が出来るかどうかは賭けだったけど、どうやらうまくいったみたいだ。は、に出現したである以上、『』までは追ってこれない」


 俺には確信があった。

 が殺戮オランウータン大賞の話をに出現した以上、は、を受ける。を無視したような作品もひょっとしたらあるのかもしれないが、しかし、ルールとしてにされる。


「ほんと勿体ないんだけどな。これだけ苦労して、ってことでもあるんだから」

「まるで分からねェよ、坂塔さかとうセンセ。こっちは勘が良くてが見えるってだけで、センセに世界が分からねェ」


 立ち上がる元気もないまま、暗前くらまえは疑問の声を上げる。

 それはそうだろう。かなりメタの入った認知だ、すぐに分かる方がおかしい。それにこの体験をこの俺が、ある書式に則って書き上げてネットにアップすることで、このはやっと完成する。に対するが完成する。

 単語ひとつすら追加する余地もなかったあの瞬間、俺が見出した打開のための

 それは。


「殺戮オランウータン大賞の規約レギュレーションは、……。つまり、。仮に追いかけてきても無効となる。俺たちは物理的な距離を逃げたんじゃない……章を変えても許されるくらいの描写の分だけ、逃げてを稼いだんだ」


 ほんと、とんでもない骨折り損である。こんだけ死にそうな目にあって、こんだけの話をわざわざ記録に残して、それで規約レギュレーション違反で無効だなんて。まあ書く以上は出すけど。

 いや、この話の中では実際に書くのはこれからだったか。考えただけで気が重い。


「でも珍しいんじゃないか、から逃げ切った例なんて。だいたい皆殺しエンドだろ、どうせ」

「いや……たぶんもうあるんじゃないかなぁ。知らんけど」

「マジかぁ」


 まったく、どんだけな創作なのやら。俺は大きくため息をついた。

 オランウータンのような形をした雲が、音もなく流れていくのを、二人並んでずっと見上げていた。

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殺戮オランウータンへの弱点付与(デバッファー) 逆塔ボマー @bomber_bookworm

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