美しく残酷で、それでいてドライ。このサラサラと乾いた感じが、草さんの味だな……という一編。
「身障者が身を寄せ合う村」という舞台設定がなかなか厄いものの、うまいこと突っこみすぎず二人の逃避行や、ヒロイン・レオノールとのやり取りに終始するバランス感覚がさすがでした。
「神の花嫁」であるレオノールは純真無垢そのもので、彼女の美しさや言動そのものは、おとぎ話のお姫様のようにキラキラしています。
ナマの生きた人間と言うよりは、銀とガラスの人形のよう。
でもそれは非人間的だとか、血肉の通わないキャラクターという意味ではなく、「非現実的なまでに無垢な、しかし生きた人間」として作中で動いています。
それを更に補助しているのが、現実のままならなさ、ろくでもなさを背負い、彼女を連れ出した主人公ベリス。
最初から破滅が見えている逃避行に、それでも身を投げ出してしまいたくなる美しい人。旅の終わりに残ったのはただ靴だけ。
純粋な善意や賛美歌のような愛ではない、だが人の血のぬくもりをもったささやかな願い。それが神の作った世界の、ただそうあるべしという力学のままに壊される。
主人公自身が何の瑕疵もない善人ではなかったとはいえ……このしんしんとした冷徹さの向こうに、青みがかかった静かな世界が見えるような作品でした。
とある盗人と、〝神の花嫁〟として定められた人生を送る女性の、逃避行の物語。
堅実な手触りのファンタジー掌編です。
とにかく文章の美麗さがすごい。一見穏やかな、どこか淡々とした印象すら感じる文章でありながら、そこにみっちり込もったいろいろなあれやこれやの濃度の途轍もないこと!
一文一文が濃いというか、読み込めば読み込むほど意味やニュアンスが滲み出る文章で、ただただ貪るように読みました。すっごい良かった……。
ストーリーも見事というか、胸のど真ん中を撃ち抜かれてボコボコにされます。
ここでは具体的には触れませんが(ネタバレ、というほどではないにせよ勿体無いので。ぜひ本文で!)、やっぱりキャッチコピーになってる箇所が本当に好き。
具体的には、ベリスがレオノールを連れ出そうと思った動機。また、レオノールが大人しくそれを飲んだ理由。
もちろん作中で語られてはいるのですけれど(むしろここまではっきり語っちゃっていいの!? と驚くほどに)、でもそこで語られた単純な言葉以上のもの、「彼女たちの実感としての機微」を想像するのがもうものすごく楽しい。というか、自動的に想像させられてしまうのがもう本当にたまりません。本当に良い……。
面白かったです。とても読み応えのある作品でした。あとタイトルが好き。ていうかもう全部好きです。良かったー!