第三話 再会
「ふぅ、間に合った」
「もう大丈夫だよ、シャロール」
私の名前が呼ばれた。
聞き間違いじゃ……ないよね?
目を開けて、確かめる。
でも、知らない人。
この、剣を鞘に戻しているのはだれ?
「あなた、何者ですか?」
サザさんは、鋭い目で睨んでいる。
「僕は佐藤です」
「シャロールに会いに来ました」
「暗殺者じゃ……ないんですね?」
「こいつらとは違いますよ」
地面にはさっき襲ってきた人たちが倒れている。
この人たち、暗殺者なの?
私はそれさえもわからない。
「とりあえず、安全な場所へ行きませんか?」
「この先に、僕の家があるんです」
「……」
「まだ、信用してもらえないかな?」
いきなり現れた人を信じられるわけがない。
それに、襲われたあと。
でも……。
「私、行きます」
「シャロール?」
「彼が、佐藤なんですよ?」
「私の記憶に残っている……」
それなら、悪い人じゃないのかも。
「騙そうとしてるかもしれないわ」
「……」
そうなのかな。
私は佐藤の目を、じっと見つめる。
彼も、まっすぐに見つめ返す。
この目。
「やっぱり信じます」
「私だけでも、行ってきます」
――――――――――――――――――――
「ここは僕の家さ」
「安全なはずだよ」
森を出て、少し歩いたところに小さな家があった。
そこに入る。
「お邪魔するわ」
結局サザさんは、私に付いてきてくれた。
わがままに付き合ってくれる。
やっぱり優しい。
「そこに座って」
「さあ、説明を始めよう」
「あ、佐藤!」
「どうした?」
「私、記憶がないの」
だから、話が通じないかも……。
「大丈夫、知ってるよ」
「それも含めて、全部説明するさ」
予想外の答え。
どうして佐藤は知ってるの?
「単刀直入に言おう」
「君は一度、死んでるんだ」
「え?」
佐藤はまじめな顔で、衝撃的なことを告げた。
「殺されたわけじゃない、普通に寿命だよ」
「君の最期は、僕が看取った」
「そして、ここは僕達が二度目の人生を送る場所さ」
「二度目?」
一度目が……あったの?
「記憶がない君に、こんなことをいきなり言って信じてもらえるかわからないけど……」
「……」
「前の世界で、君は死んだ」
「そして、この世界で蘇った」
「一種の異世界転生だね」
異世界転生?
「わかるかな?」
「う〜ん、よくわかんない」
「そう……だよな」
「でも、佐藤がそう言うなら、信じるよ」
嘘をついているようには、見えないし。
「……はは」
「記憶がなくても、君はシャロールだね」
佐藤は嬉しそうに笑った。
「そういえば、記憶がないのはどうしてなの?」
「それは、生まれたばかりだからじゃないか?」
「君はまだ生まれた直後だから、記憶がないのは当然だよ」
赤ちゃんと同じなんだ、私。
「じゃあ、どうして森にいたの?」
「僕も森で目が覚めたんだよね……」
「どうしてかな」
私に訊かれても、わかんない。
サザさんなら知ってるかな。
「イスパパルの古くからの信仰で、『死んだ命は森に還る』という考え方があるから……かしら?」
「なるほど」
そんな考えがあるんだ。
まだまだ知らないことばかりだな。
「死んで森に還った僕達の命。今度は森から生まれた……のかな?」
「不思議な話ね」
うん、信じらんない。
信じるけどさ。
「で、シャロールはどうする?」
「どう……って?」
質問の意図が、つかめない。
「そのままその方のところで暮らす?」
サザさんと?
「それとも、僕と一緒に暮らす?」
佐藤と?
「……」
さっき、サザさんと家族になろうって言ってたのに。
今度は、佐藤と一緒になる話。
どっちがいいんだろ。
「サザさん……」
私は決めかねて、助けを求める。
「シャロール、気持ちはわかるわ」
優しく、私の頭に手を置いてくれる。
「……」
「それじゃあ、一つ助言をあげるわ」
助言?
「あなたの好きな方を選ぶの」
好き……。
それって、この胸のドキドキのことかな。
さっき佐藤に出会ってから、ずっと続いてる。
「それじゃあ……」
二人の顔を、交互に見る。
目をつぶって、深呼吸。
まぶたの裏に浮かぶのは。
「……佐藤……」
「僕?」
「うん」
「いいのか?」
「ホントに、僕とで」
佐藤の目から涙がにじむ。
「だって、もう記憶がないんだろ?」
「……そうだよ」
「迎えに来たけど……もう僕とは別れて……新しい人生を送っても……いい……」
「わけないじゃん!」
涙でボロボロの佐藤を見て、私は思わず叫んだ。
「え?」
「私は佐藤が好き!」
「なんにも覚えてないけど、佐藤と一緒にいたいの!」
「シャロール……!」
佐藤は私を抱きしめて、離さない。
そんなにうれしいんだ。
「私はもう……帰った方がよさそうね」
「あ、すいません!」
「サザさん、ごめんなさい……」
家族の約束、破っちゃったし……。
「謝らなくても、いいのよ」
「あなたは、本当に大切な人を見つけたんだから」
「……」
「また、いつでも遊びに来てね」
「それじゃあ、さようなら」
サザさんは少し寂しそうに去っていく。
あの人も、私の大切な人として、記憶に残り続けるだろうな。
(完)
異世界転移しています! 〜ここは「暗殺者の結婚」の世界です〜 砂漠の使徒 @461kuma
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