第二話 襲撃

「あら、シャロールちゃん」


「こんにちはー!」


「お邪魔します」


 あれから一ヶ月。

 いろんなことを学んだ。

 ここは、イスパパルって国。

 そして、ユタカさんはイーサの領主をしている。

 職業は軍人さんで、すっごく強いらしい。


 しばらくお城で暮らすことになった私は、なんにもしないのも申し訳ないから、メイドさんの家事を手伝ったりしている。

 たまにはサザさんについていって、町の人たちともお話する。

 サザさんは、みんなと親身に接して、困ったことはないか確かめている。

 こんな人達が町を治めているから、すごくいい暮らしができるんだろうな〜。

 町の人の笑顔を見ていると、そう思う。


 あ、最近は私の顔も覚えてもらってる。


「シャロールちゃんが来たなら、特別にこのクッキーをあげるわ」


「わー! ありがとうございます!」


「あなたが来るの、いつも楽しみにしてるの」


――――――――――――――――――――


「ありがとう、シャロール」


 帰り道、サザさんがポツリと呟いた。


「え、なにがですか?」


「あなたが来てから、町がより活気に満ちてきたわ」


「えへへ、そうですか?」


 私はただ、お手伝いをしてるだけだけど。


「それで、ちょっと提案なんだけど……」


「……?」


 提案?

 なんだろう。

 こんなに改まったサザさんは、久しぶりに見る。


「あなたも養子にならない?」


「……養子?」


 たしか、リヒト君がそうだったよね。

 三人は本当の親子みたいだけど。


 それで、つまり……。


「私達の、家族にならない?」


「……」


 家族……。

 家族……。


 突然のことに、うまく頭が回らない。


「嫌ならいいのよ」

「でも、あなたがこのままお城にいるわけにもいかないの。一応戸籍が見当たらないあなたは、孤児院に行くことになるけれど……。私は記憶がないあなたを放っておけなくなったの。だから、これは……」


 サザさんがなにかを言っているけれど。

 全然わかんない。

 頭の中では、家族という言葉が回っている。


「記憶が戻るまででもいいから……」


 でも、決めた。


「……ます」


「え?」


「なりたいです!」


 私も、みんなが好き。

 サザさんに、ユタカさんに、リヒト君。


「わかったわ」

「いきなりこんなこと訊いて、ごめんね」


「いえ、全然!」


 そんなことを考えてくれていたなんて、思わなかった。

 正直、嬉しい。


「それで、今日は久しぶりにまたあの森に行ってみない?」


 あの森……。


――――――――――――――――――――


「まだ一ヶ月なのね……」


「そうですね」


 私はここで目覚めた。

 記憶はまだ戻らない。


「結局、あなたはどこから来たのかしら」


「まだ、思い出せません……」


「いいのよ」

「これから私達と、楽しい思い出作りましょう」


「はい」


 過去は忘れてしまったけれど、これから新しい未来を作ろうかな。


「あなたには……」


「あ」


「どうしたの?」


 なにか……。


「音がします」


「音?」


「森の木をかき分ける音です」


「風じゃないの?」


 ううん、違う。


「風なら、もっと全体が揺れるはずです」


「……」


「サザさん?」


「シャロール、伏せて」

「目をつぶってて」


「……はい」


 サザさんの雰囲気が変わった。

 こんな感じ、初めて。


「……」


 馬を止めた。

 森に静寂が訪れる。

 先ほどまでのざわめきも消えている。


 ヒュッ!


 なにかが頭上を通った。

 なんだろう。

 怖い。


 私が心配で目を開けると、サザさんは体を捻り、ナイフを掴んでいた。


「……」


 無言で、あたりを見渡している。

 すると、物音が……。


「上です!」


 私が教えると、サザさんはナイフを投げる。

 私の後ろで、重たいものが落ちる音がした。

 嫌な想像が脳裏をよぎる。


「まだ、なにかがいます」


「まずいわね……」


「右!」

「あと、左からも!」


 どんどん近づいてくる。

 私は全身から、冷や汗を出す。


「助けて、佐藤……!」


 目を固くつぶり、奇跡を祈る。


 あれ、佐藤って?


「ユタカ……」


 サザさんも、同じなのかな。


「うわっ!」


 誰かが叫んだ。


 キィィン!


「ぐあ!」


 なに?

 今度は剣の音。

 そして、また誰かの叫び。


 なにも聞こえなくなる。

 いや、足音が近づいてくる。


 もうダメ……!

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