第9話 街への潜入

明け方ふと目が覚めた。


そういや昨日はここで寝てたんだったな。

古い砦なのかところどころ崩れた塀に囲まれ、物見塔らしきものが数個ある。そのうちのひとつに身を隠すように俺は寝ていたのだ。

リンラルを見守っていたのもここだ。

昨日の出来事の真相を知るものは俺以外はいないはずだ。リンラルだって薄々感づいている、その程度だろう。


「何はともあれ脅威は取り除けたんだし町に潜り込まないとな……」


向かうのは正門側。警備は固いが裏門の出入りはにすぐに感づかれて、下手をすればチクられるらしい。師匠がそう言ってた。

だったら完璧な偽装をするまでだ。ちょっと派手にしたところで問題はないだろう。

街の入り口からそれほど距離の無い位置の物陰で注意を引きどさくさに紛れて街に入る、こういう算段だ。


街から死角になるであろう場所を見繕って俺はそこに隠れ術式を展開する。


「【熱核式】設置っと。あとは地面に【硬化式】……でいいかな」


【熱核式】の威力は最小だけども派手さは最大になっている。注意を引くには持ってこいだ。

それと地面に【硬化式】をかけたのは破壊活動が趣旨ではないからだ。偽善をしろ、そういう風に師匠に教わった。


「【硬化式金剛型】発動」


そして待機中の【熱核式】も発動する。

ズンッ!!!!という爆発音とともに眩い光が放出される。


「なんだぁ!?」「隊長あれ!!」


すぐに街の方から警備の者たちが来はじめた。


「【迷彩式】発動」


これで誰にも見られずに街に入れる。

体を強化しているお陰ですぐに町まで辿り着けた。

問題はこのくそ高い城壁だが……


「ウッルァッ!!」


強化した体から放つ拳でぶち抜く。ただそれだけだ。

爆発で注意を引いて姿を視認させない手をとっている以上多少の無茶は問題ない。

リンラルは騎士団の宿舎にいるはずだ。


「友人がここにいるはずなんですが入れてもらってもいいですか?」


レンガ造りの騎士団宿舎兼拠点にいる見張りにそう言った。外の騒ぎはここまで届いてないはずだ、その事件の犯人が俺だなんて思いもしないだろう。姿は子供だし。


「おお。友人の名は何て言うのかい?」


「リンラルです」


「……うん。それじゃ通って良いよ。君の友達は奥にいるはずだから!」


何だ今の間は……?

魔力の流れは見えなかったけど何かされた気がする。

俺は言われた通りに建物の奥に進んだ。


「突き当たりの扉、これのことか……失礼します」


「お!友達か?いいぞ~入りなぁー!」


廊下一帯へと響きそうなよく通る返事が来たので室内へと足を踏み入れる。


「初めまして、アルカと言います。リンラルがお世話になっているようなのでお邪魔させていただきました」


「アル……カ!?あ、いやアルカ!無事でよかったよ!」


ナイスリンラル!飲み込みが早くて助かる。


「君……何で嘘ついているの?」


さっきの門番だ。


「嘘?何がですか?」


気づかれた?いや、不自然な点はそこまでなかったはずだ。


「名前……何で嘘つくの?」


「ッ!」


まずい、顔に出たな今。逃げるか、どうする……。


「ねえ団長、こいつ嘘ついているけどどうする?」


「おいおい。そりゃあ、マジかよ?何でこんなガキが嘘つく必要がある?」


まずいな。リンラルがいる以上逃げ切れる自信がない。いや俺一人でも無理かもしれないな。

こいつら間違いなく強い。追跡能力も街に入る前にやりあった連中とはわけが違う。


「待ってくれ」


「んー?」


「危害を加えるつもりはない。だが名前はどうして伏せておきたい、頼む」


「へぇ?まあいいんじゃねぇのラルク?」


「団長が良いなら俺も良いですよ……くれぐれも悪さしないようにしてくれよ?」


「あ、ああ。助かる……」


何とか許してもらえたな。危ないところだった。


「まあ君たちは、というより君たちが連れてきた子供たちは僕らが責任もって預からせてもらうから、安心してくれ。君らも今夜はここに泊まっていくと良い」


「「ありがとうございます」」


今夜の寝床は何とか確保できた。


「明日からどうするか考えないとね、アルカく~ん?」


「うるさい黙れ……いや、本当に危なかったぞあれは」


門番……ラルクとかいうやつが嘘だと言ったあと一瞬で殺気が俺に向かった。団長の殺気はリンラルに向いていたがすぐに俺に向かった。

逃げるなら【熱核式】でリンラルごと騎士舎を吹き飛ばすぐらいじゃないと無理だった気がする。

発動前に仕留められる可能性も高いと思うけど……。


「この部屋で今夜は寝てくれ。外出するときは報告してね。それと勝手に他の部屋に入ったりしないこと、いいね?」


「ああ。わかった」


「はい。わかりました」


「あおれじゃあ大人しくしててね、頼むよ」


バタン。部屋の扉が閉められる。


「灯りはないのか……?」


「じゃあ僕が明るくしておくよ?」


「ああ頼む」


「妖精さん。この部屋を照らしておくれ」


フッと部屋が明るくなる。リンラルの魔法本当に便利だな。

俺は攻撃的な構成でしか放出できないから羨ましい。


それから小1時間ほど明日の予定をリンラルと話してから寝た。

予想外の来客でまた起きるわけだが……。

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無題の英雄と星の物語~異世界で抗い続ける男は英雄へと至る~ すらいむはニートで最強 @SanaHari

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