第8話 少しだけ大きな戦い

追っての気配は全部で5か6程度、か……。


「はん。異教徒様にずいぶんとご執心じゃねぇか!」


たかだか子供一人にずいぶんと気を入れている。

この世界じゃ異教徒っていうのは思ったより邪険にされるらしい。いや、それを言うならば地球だって一緒か?


「まあいいや。こいつらには俺とリンラルの旅には不要なものだからな、ここで荷物整理をさせてもらおう【光弾式四連装填】発動」


「ガ!?」「ッグ!?」


藪から蛇、茂みから光弾式のごとく軌道上にある樹木もろとも二つの人影を四つの光が貫く。

警戒して損だったかもしれない。この世界の魔法レベルなら人一人殺す程度ならば俺の弾丸一発で十分らしい。

まずは二人。残りは3の想定で十分だろう。


「ベイル!アラバ!?どうした!!」


「今が好機だな【迷彩式】」


追っ手は仲間を殺られて混乱中だ。俺は姿を消してやつらに近づき……


「音、おぃ……」


首を両断、気づくのが遅いな。仲間を呼ぶこともできなければ犬死に同然だ。

残りは……まずいな、失敗した。どうやら追っての一人は遠見でこちらを観察していたらしい。作戦失敗ならばそれを報告のため逃走、といったところか。


「おいこのクソガキぃ!よくも隊ちょッ……」


【光弾式】一発を脳天にぶちこむ。バカかこいつ、奇襲もなければ万全の体勢を整えて正面対決するわけでもない素人同然じゃないか。


「まあこんなもんか……それよりあいつを始末しないとな」


……一方そのころ、リンラルは待ちぼうけをしていた。


「リンラルお兄ちゃ~ん!あれ食べたいぃ!」


暴れる羊がごとく子供たちをあやしながら。

どうやら子供たちはお腹が空いてしまったようだ。

だが生憎とリンラルに持ち合わせなどない、なぜなら村にあった貨幣はすべてアルペに預けている。


「アルペのやつすぐに追い付くっていったのに……どこでほっつき歩いてるんだか、もう」


……アルペが考えるほどリンラルは察しが良くはないのかもしれない。


「どけ、どけぇッ!!緊急事態だ!」


なにやら騒がしい。


「退けと言っているだろう。ええい!わからぬのなら轢き殺してしまうぞ!?」


どうやら彼は焦りに焦りを重ねたように焦っている。

火急の用でもあるのだろうか。いやあるのだろう。

だがそんな脅しにおののいた人の群衆が開けた先にいるのはだだをこねる子供、アルペとリンラルの村の、だ。

早馬の主が気づこうがもう間に合わない。

人々の悲鳴のようなものが聞こえた


「あぎゃっ!」


……と思えば早馬の主は馬ごと地に落ちていた。

何事か、と人々が見れば一人の少年が魔法を使っていたのは一目瞭然。


「あなた、子供を引くところでしたよ。気を付けてください」


そう言った少年はもちろんリンラルだった。


話は戻ってアルペはというと、風を切るように疾走していた。


「最悪だよ最悪。まさか街に入られるだなんて……」


さすがにこればかりは予想外、いや俺の失策だった。

気配だけで人数を判断したは良いものの場所の特定をせずに行動を起こした、なんて言えば師匠に特大魔法をぶちこまれるだろう。


「街で処理、【迷彩式】いや変装?」


どうしようかねこれ。街でことを起こせば逃げ切ることはできてもしばらくリンラルたちとは合流できない。それに素性がばれる可能性だって十分にある。


「ライフル……とかあればいいんだけ、ど?」


そうか。無ければ作ればいいのである。

良いことを思い付いて家に戻る子供のようにアルペは来た道へ踵を返した。



そんなわけで慌ただしく入れ替わるがリンラルは少し不味い状態にあった。


「おい!貴様、私が言ったことが聞こえなかったのか?それにこの所業!ただでは済まさんぞ!!」


「はは。面白い冗談だ。あなたが子供を引くところを助けてあげたのですから、それに顔色もよろしくないみたいだ。用もあるのでしょう?そちらに向かっては?」


火急の用を邪魔された男は魔法の出元であるリンラルに怒り心頭。一方リンラルとて一歩も譲ってはいなかった。

実際のところリンラルの内心は恐怖であっただろうが。それでも引けない理由に子供たちのためというところがリンラルの人の良さを如実に表している。


「おい。クソガキ、お前死にたいようだな?」


瞬間、男の周囲に濃密な魔力が漂った。その目は本気だ。

これにはさすがのリンラルも恐怖を隠しきれないのか膝が揺れている。それでも一歩も引かない、逃げれば子供たちの番になるだけだから。


「ははははっ!馬鹿かお前ぇ!?何だ怖くなっちまったてのかぁ!ぎゃはははっ!!」


「だ、誰が」


「そうか。じゃあ死ねぇい!」


漂う魔力が一層濃くなり男の手のひらに集中しリンラルが覚悟を決めた瞬間、リンラルが見覚えある光が男を貫いた。


ただその場に見覚えのある光の主はいなかった。

あたりが沈黙に包まれる中それを切り裂くように集団がそこに割り込んだ。


「我らは聖銀の盾である。これよりこの場から動くものは逃走したと見なす!絶対に動くなよ!」


国の騎士団、警察である。騒ぎ聞き付けて来たのであろう。


「ったく、派手にやってくれたねぇ?おう少年あそこのおっさんに付いていきな。ジジョウチョウシュってやつだ」


槍を担いだ騎士にそう言われリンラルはそれに従った。子供たちも一緒にだ。


遥か5キロメートルよりそれを見届けてアルペは静かに目を閉じていた。

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