第7話 ひとつ失いひとつ拾う

それにしても、とひとりごちる。

復讐するつもりで村から逃げ延びてそんな気も薄れてきた頃に出戻ってみればこれとは、と……。

結果的に手を下さずとも復讐はできたとも言えるこの状況に好ましいと感じるほど俺は狂ってはいないつもりだ。

それに父と母の亡骸も無く故郷も消えたとなれば弔うことも難しい。新しく土地を見繕うにも土地勘もない。

今は俺が生きる道を探す、それで良いよな母さん、父さん……。

子供たちを引き取ってもらえるような村もしくは街に出向かなければならないし、このことをこの村を含めた領地を治める領主にこの村の現状を伝えねばならない、とリンラルが言っていた。

リンラルは自分の魔力が回復するのを待って自力で傷を治していた、逞しすぎるだろこいつ。


「おーい!アルペ~。そろそろ出発するよぉ!」


「ん、わかったぁ!」


どうやら準備ができたらしい。子供たちも道中冬の寒さにやられないように厚着もしている。


「なあ。リンラル、こんな子供たちだけで街に入れんのか?ましてやこいつらの引き取りなんて……」


子供たちを荷車に乗せリンラルと二人で引きながらそんなこと不安げに聞いてみる。


「あ、それなら大丈夫さ。こんなことはよくあることらしいしねぇ」


そんな風にカラカラと笑いながら言ってのける。

こいつすごいな。俺は前世分の年齢と精神力を兼ね備えてるからギリギリこの惨状に耐えることができてるわけだけど……こいつはまったく堪えてなさそうだな。


「アルペ、そんな目で見ないでおくれよ。あの村の人間の一人として僕にとって大切な人はいないのだから」


「俺がいなくなってから誰か死んだのか?」


少しだけ気になっていたことを聞いた。質問の意図を正しく言えばだ。


「兄さんと兄さんの好きな人」


「……は?」


「兄さんが父さんに楯突いたんだよ。それに協力した兄さんの好きな人……ニアンセさんって言うんだけどその人も一緒に」


「……そうか」


そうか、あんな村でも救いはあったのか。

そんなことを考える。村長の手が思ったよりも大きく強く村に根差していたことを考えればその先は地獄だろうが……。


「でも。それ以上は誰も殺されなかった、誰もなにも言わなくなった」


「……リンラル」


リンラルがあの村で気を許せる唯一の人たちだったことはその表情を見ればすぐにわかる。

俺と同様ににリンラルも体力に恵まれた子供ではあるが子供たちを乗せた荷車を引いていることもあって進む速度は遅い。あまりにも遅ければ俺とリンラルはともかく子供たちが危ない。

まあいざとなれば魔法を使えばいいことではあるけども魔力はできるだけ温存しておきたい。

魔物が出れば村に戻ってきたときとは違って子供たちを守らなければならないからなおさらだ。いざとなればリンラルもいるけどリンラルの魔力は半分以下になっているはずだ。


「リンラル。急ごう……」


「そうだね。早いに損はないだろうし」


二人の歩が少しだけ早まったときそれは現れた。


「ガル!グルウウウ!」


「野犬か……リンラル、子供たちをお願いするよ」


「へ?え、ちょアルペ危ないよ!?」


ちょうどいい。アルペには色々話したいこともあるからこいつらを使って見せれば話も早く済む。


「【光弾式】」


標的は3つ。


「3連装填、発動」


「ギャゥウ!」「ギャイン!?」「ギャウ!!」


魔方陣を介して光が連続して放たれ野犬を貫く。


「す、すっごぃじゃん!!どうしたのさアルペ!?」


……かくして質問攻めにあう前に俺は村から逃げ延びてからのことをリンラルに話したのだった。


「へー。でもアルペが、その魔女?ってのに助けられてて安心したよ。酷く嫌な思いをしてるんじゃないかずっと心配してたからさ……」


「いや。俺もリンラルが村でおっちんじまうんじゃないかって心配してたぞ」


「あはは!何それ、まあ確かに再開したときは僕死にそうだったけど!」


本当にあっけらかんと言うよなこいつ。勇者ってよりバカだなこいつ、完璧超人の癖に。


そんなこんな、リンラルと夜通し歩き通して太陽も上がりきった頃にようやく街に着くことができた。


「着いた、な……」


「うん、着いたねぇ。僕は限界かも……あはは」


俺もさすがに疲れた。早く宿でもとって休みたい。

休みたい、休みたいのは山々ではあるが今の俺が堂々と街に入るわけにはいかない。

物語は未だ題を名乗ってはくれないのだから。


「リンラル。俺は少しやることができたから子供たちのことよろしくな」


「え?どうする気だい?」


「後から入るから大丈夫だよ」


……頭のいいリンラルなら察してくれるだろう、多分。


俺はリンラルと別れてすぐに来た道を戻った。

道を戻って少ししてから横道にそれ


「追え!絶対に逃がすなよ!?」

「はい!」


迫る脅威がどれほどのものかと測りながら許されない敗北を回避するために入念に準備をしながら呟く。


「なに心配するなリンラル。すぐに戻るから」


少しだけ、大きな戦いが始まる。

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