第6話 雪上の魔物

さてと、とナイーブな気分を一転させる。ここからは気を抜けない。

冬と魔物は魔法を得た今でも否、魔法を得た今だからこそ脅威となる。

魔物は魔力に惹かれる。特に洗練された魔力つまり本による魔法をよく使える者が持つ魔力に惹かれるらしい。

魔法による体温調整ができれば冬じたいは特段脅威となり得ないのだが冬に現れる魔物が脅威となる。

冬は特殊な個体を除けば強い魔物だけが野を闊歩する。弱い魔物は食料の少ない冬に獰猛化する強い個体を恐れて洞窟などに籠る。

遭遇率は低くとも狂暴な個体と遭遇すれば戦闘になるのは避けられない。

そして冬にこそ力を発揮する特殊個体もまた強敵だ。


「村は今ごろ冬仕度も終わってるころかな」


ここから村までは目と鼻の距離だ。半日もかからずにたどり着けるはずだ。


「雪が降るのもいつもより早いから大慌てだろうし……」


リンラルは村長になる覚悟が固まってたりするのだろうか。


「リンラルが村長になってたら……『復讐はやめておけ』か……」


師匠の言葉だ。村人を皆殺しにしたとしても向けようのない後味の悪い感情が残るだけだと言われた。

ついでにお尋ね者になってまともに生きることは不可能だとも。

そんなこともあって両親の仇は村人皆殺しコースとは別のかたちで成すことになっている。


リンラルが未だに村長になるつもりがないならば一緒に村を出ようと思っている。

あいつならばそれを許してくれるはずだ……。

そんな風考えて独り言を呟く俺は師匠と別れてからの寂しさを誤魔化していたのかもしれない。


そして半日ほどたった頃だろうか、ある魔物と遭遇した。


「さ、最悪だな……」


まさかこいつと遭遇するなんて。

そう最悪も最悪、文字通り死ぬほど最悪な冬の特殊な魔物。


「……冬将軍」


村までたどり着けるかな、これ……。


「まあ仕方ないか。村の方から来たのが少し気になるけど……」


戦闘を開始しよう。

確認しよう、まずは冬将軍の特徴から。


「シッ!!」


地面にある小石を鋭く投げつける。


「キュファァァ!!!」


石がやつの体をすり抜けたと同時に石が凍りつくのを確認。

物理攻撃は無意味、接触した場合特殊な装備がなければ凍りついて凍傷は確実。


「【光弾式】発動」


光を帯びた弾丸が正確にやつの体を撃ち抜く、否無意味。

魔法攻撃すら。核となる部位はなく弱点は

やつの体は冷気の塊だ。いわゆる魔法生命体と言われる部類の魔物。冷気つまり気体である以上魔法も物理もだ。


「『弱点は火属性もしくは熱源』か」


幸いなことに俺を何の脅威とも思ってないようで冬将軍はなにも仕掛けてこないが俺を獲物として見てることは間違いない。チャンスは一発のみだ。


「【熱核式】発動は待機、と。ッシ!!」


冬将軍に目掛けてダッシュする。

が、ここで大誤算が生じた。


「ッ!アイシクルタイガー!?」


「グルァッ!!!」


その牙に捉えられんものなし。噛まれたら体温が下がり衰弱するのをまって生きたまま捕食される。


「ちょっマジ無理!【硬化式】発動」


式を発動してそのまま【熱核式】を発動させた。


「ギュファァ!!」

「ギャウ!」


二体の魔物の断末魔と同時に轟ッ!と激しい音が響き熱波がさらに俺の体を覆う。いやアッヅァ!?何これ熱づいぃ!?!?


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


獣のような声を上げながら雪の上を転げ回って体を冷やす、凍傷になるかもしれんが。


「ゼエゼェ……ヒァ、今のはやばかった。これは使いどころ考えないとな、うん」


魔法のぶっつけ本番はもうやめておこう。そう思うのだった。


「休憩、しようかな。さすがに疲れた」


いや、遊んでいる暇はないかもしれない。

村へ続く街道から冬将軍が来るなんて不自然だ、いやなくもないが5分もすればたどり着ける距離でこれだからだ。


「急ぐか」


急ぐ義理もあの村じたいには無いがリンラルが心配だ。小さな子供たちだっている。

そんなやつらに罪はないしやり直せる。


「【硬化式金剛型】発動!生きてろよリンラル!」


雪を抉り冷気を裂くように疾走する。

もう間違いない。

冬将軍が通った場所や存在している空間は生態の性質上気温が周囲と比べて大きく下がる。

【探査式】で周囲を調べてみたらわかった。街道だけ圧倒的に気温が低い。


「リンラル生きて、なッ!嘘だろ!?」


村は壊滅、家はなぎ倒されそこかしこが凍りついている。村人の死体まで……。

冬将軍に勝てたのは運が良かったのかもしれない、この破壊力を目の前にすれば冷や汗が止まらない。


「リンラル!リンラルッ!リンラルいるかッ!?……クッソ。手遅れか!」


「馬鹿言う……な。生きて、い……」


「ッ!?リンラル!?」


「はは……あ、のクソッ、タ、レ。全部壊し、て、いきやがっ、た……」


「おい馬鹿か、喋るな!!ってお前子供まで助けたのかよ!?」


「あ、ああ……ちょう、ど相、手して……たら、ね」


こいつどんだけお人好しなんだよ。馬鹿か?自分だけ守ってれば怪我程度ですんだものを……。

しかも子供たちは無傷で寝ている。パニックにならないように眠らせて自分で体を張ってまで守った。


勇者だろこいつ。

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