第5話 再び道を開く

「そういや師匠の生まれ故郷……一族はどこにいるんだ?」


「……ふふ。自分で探すのよ?」


どうやら教えてはくれないらしい。まあ色々と事情があるんだろうな、魔女だし。


「まあ良いじゃない。それに今さらでしょ?」


「そうだな……至れり尽くせりっていうのはこういうことを言うんだなってぐらい感謝してる。本当に今までありがとう、ありがとうございました」


「ふふ。湿っぽいのは好きじゃないわ。それにあなたはここからが本番でしょ?若い子は前を向いてれば良いの」


「確かに」


自然と顔が綻ぶ。そうだ、俺にはやらなければならないことがある。


「さて、と。湿っぽいのが嫌いな師匠のためにもさっさと行きますか!」


「ふふ。いらないお世話よ。あなたのせいで湿っぽくなっちゃたじゃない……外は冬よ。元気で過ごすのよ?」


「ああ、何たって師匠の弟子だ。寒さに負けることはないぜ」


湿っぽくなってしまった空気を変えようとお互いなにとはなしに空元気を出してしまう。


「じゃあ師匠。結界をぷっ!?!?」


「本当に、本当に元気で過ごすのよ?あなたは強いわ、でもまだ子供だから、また辛くなったときは帰ってきなさい?いい?わかったわね……?」


俺を包むよう抱きつき言葉をかけてくれた師匠の頬を伝った滴が俺の頬に落ちた。

いやもうどちらの滴かもわからない……

俺たちはしばらく無言で抱き合っていた。



「じゃあ結界を解除するわね」


「あ、ああ」


そんなこんなで大いに湿っぽくなってしまった別れの時間も終盤とうとう別れの時だ。


「結界の主ネリアが命ずる。外界と我を隔てるその一切を解除し今一度現世への道を開けよ」


瞬間、ふっと冷気を感じた。暖かさが一転、外界の冬が結界で覆っていた空間に流れ込んでくる。


「外気温に対する遮断の魔法は大丈夫みたいね。少し甘いようだけれど」


「バレた?まあでもこのくらいが俺は好きかな。俺の故郷は四季がはっきりしてたからね。」


「え?あなたの故郷は暑さ寒さが混ざったような気候をしてたと思うのだけれど……あら、どうやらあなたの秘密は私の思った以上に多いようね?」


しまった。まあこの人たちになら教えてもいい気がする。


「でも長い話をする時間もないわ。それはあなたがやるべきことを終わらせてからでも遅くはないわ」


「そうだな。一段落済んだら俺の親友でも連れてきてやる、そん時にでも話そう」


「ふふ。そうね」


「お坊っちゃま!どうかお元気で!!」


「辛いことがあっても負けるんじゃないよ!?」


「お、おおビックリした。翁と婆、体は大事にしろよ!」


俺は久々に結界の外に足を踏み入れた。


「それじゃ。達者でね」


「ああ」


少しだけ世話になった。大きな恩が出来てしまったが。

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