第4話 輝いた汚物

沈黙を破ったのは鍋山だった。

「あなたは笹沼さんを救う必要があるという旨のことを言いましたね。彼も同じだったのだと思いますよ。」

笹沼武蔵殺害の犯人である竹島巌流が聞き返した。

「どういうことでしょう。」

鍋山は冷静に

「彼とあなたの関係性について調べるために彼の携帯電話の連絡先について調べたらあまり友達が多くない人だったんですよ。つまり彼からしたらあなたのいうバカ、田中小次郎さんを守らなければならなかったのかもしれないということです。」

そういうと竹島は落胆して

「私はダメな人間だな。人の美しさを知ることができなかったのか。けど人は大抵偽善者なんですよ。私はホームレスでした。私が大学四年生の頃は就職氷河期でした。わたしはどこにも採用されませんでした。周りの人は竹島なら何とかなるとか言ってくれました。しかし無理でした。やがて親にも勘当され、ホームレスとなってしまったのです。」

急に饒舌になった竹島に驚きつつ鍋山は質問した。

「何が言いたいんですか?」

すると待ってましたと言わんばかりの早さで答えた。

「人はみんな偽善者なんですよ。あなただってそうでしょう?刑期ではない別の目的で動機を聞いてきた。違いますか?ホームレスをやっていてもそうでした。9割の人はちらっと見て通り過ぎる。そんな世界なんですよ。だから、彼は、彼だけは世界をわかっていた、それを言葉にする勇気もあった。だから助ける義務を感じたんです。」

鍋山は少し考え言葉を発した。

「それはまさに美じゃないんですか?なんの目的もなくただ純粋に笹沼さんという存在を助けようとしたのは偽善じゃあないんですか?」

竹島巌流は気づいた。自分も彼も辿った道のりは同じであると。汚さの中に美があったのだと。同時に彼の目には潤いが出てきた。それも純粋な潤いだろう。コンタクトレンズを洗うよりも純粋な水が彼の頬を濡らした。竹島は泣きながら鍋山に自分の意を伝えた。

「彼の気持ちが、今理解できました。私はあなたと話すことができて良かったと思ってます。」

鍋山は思い返したように謝罪した。

「すいません、好奇心で質問してしまって。人の本質は汚いかもしれません。ゴミ捨て場のように。しかし、たまには綺麗なまま捨てられてしまっているゴミもあるんです。どうかそれだけは忘れないでください。悪いものにも何かしらの輝きがあるんですよ。」

竹島は涙を拭い、震え声で言った。

「あなたは輝きに満ち溢れていますね。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

び悪 @mamantohihi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る