王道ストーリーに、極上の表現力。圧巻です!!!!!!マジで!!!

 一話を読ませていただきました。
 ほんとうにおもしろかったです。

 まず大雑把な感想から。
 ストーリーは王道、語り手である幽霊が、幽霊が見える盲目の青年・朝香と出会って生活に巻き込まれていく――という展開が分かりやすく提示されている。
 テンポもいいし、キャラクターも魅力的だし、どんどん読み進んじゃう。めちゃめちゃ王道ストーリーとして完成度が高い。

 特に、元狛犬のゴールデンレトリバー、明がめちゃめちゃいいキャラをしている。狛犬なのに乱暴、だけれど、思いやりのある性格がとても好感が持てて、俺はめっちゃ好き。
 朝香とのコンビの感じもめっちゃいい。随所から、お互いが信頼し合っているのがすごく分かるというか。一軒家を訪れて、チャイムの場所を教えるところなど、めちゃくちゃじいんと来ました。コンビの年輪を感じた――というか。

 ただ、ぼくはこの作品の個性は、随所に挟まれた美しい描写に詰まっているのではないかと感じる。
 ちょっとだけ、紹介したいと思う。





(WARNING! 若干ネタバレです!(クリティカルなネタバレは避けています))


 まず、冒頭、


――

 暖かい春の日が、芽生え始めた木の葉を透いてきらきら光っている。この光はきっと暖かいんだろうけれども、「彼女」にはもう感じられないものだった。

 春の日は彼女をもまた、透かす。
 しかし木の葉とは違い、彼女にはその暖かさも眩しさも、何も与えてゆかずに通り過ぎていくのだ。この世の森羅万象は、もう彼女に気が付くことはない。待つのは孤独。春とはほど遠い冷たさと、さみしさをはらんだ孤独だけが、彼女とともに歩いていた。
 幽霊である彼女と、共に。

――

 幽霊の登場の描写が美しすぎる。
「木の葉」との対比によって、彼女の非-生命性をしっかりと提示しているのがめちゃめちゃいい。いや、ここで「木の葉」!? って感じだった(この時点で、心を掴まれた)。
 木の葉の何がいいって、葉脈だ。春の、萌える緑に迸る葉脈――これが強烈な生命のメタファーになっている。だからこそ、対比される幽霊の非-生命性が強調されるというか。いや、マジですごいわ。
「待つのは孤独」の、この「孤独」が幾何学的な立体感をもっていて、こう、心に来るというか……。これが、物語始まってわずか五行のうちに展開されるんだからヤバすぎる。

 そして、そんな幽霊に、青年・朝香から「ユウ」という名が送られる。こんな立体的な「出会い」がありますか――めちゃくちゃよかった。もう、この時点で若干感動していた(「起」なのに(笑))。
 しかも、「ユウ」ってのがいいよね……本人も、「後腐れなくていいと思うわ」と語っているように、さっぱりとしている。多分これは、朝香がユウに「あくまで幽霊として関わっていく」という(無意識的な)態度の表れだと思うんだけれど、それが、こう、幽霊が見える青年としての長い人生を感じさせてくれるというか。これはすこぶる個人的な意見だけれど、そういう部分を大切にする関係性っての、マジむっちゃ大好き。ほんとすき。

 んで、もう一つ、めっちゃ好きな描写あるから、読んで。

 ――

(まるで……木、みたい)
 カメラを構えた朝香の隣、ユウはそう思った。
 かしゃ。シャッターが切られる。
 肩幅より少しだけ開いた脚。そこに根を張るようにしっかりと安定した姿勢で立っているが、何だかしなやかで、ゆったりとしているようにも見える。
 肩の力を抜いて。
 ここに流れる空気に身を任せて。感覚に乗せて、カメラを構えている感じ。
(木……というより花かしら)
 風に揺れる花。
 朝香はシャッターを切る度、臨機応変に片足をずらしたり、背中を逸らしたり。吹く風に柔らかく対応する花のようだ。
 何も見えていなくとも、その景色を優しく捉えている。
 人差し指ひとつ、その一点に今、世界が集結しているのだと思うと。
 背中がピリピリとして、熱い、不思議な感覚だった。強く、撮影する彼自体が一枚の写真のように、引き込まれてしまう。

――

 引用長くなってごめんなさい。いやここ、まじでやばくね!??!?

 いや、まず見たことがない。こんな表現、あったのかってなってる。
 カメラを構える彼を「木」と喩えるとか、ほんとセンスやばい、めっちゃかわったメタファーなんだけれど、マジで納得できる。本当に凄い。
「肩幅より少しだけ開いた脚」とかゾクゾクするわ、マジで想像できるもん、えげつないよ!!!(語彙力)
 語り手の幽霊は更に「花」とも呼ぶ。贅沢かな?
「花」が「風に揺れる」様子を、シャッターを切る、あの身体の揺れに表現するのは本当、今までなかった表現だと思う。「逸ら」される「背中」の、あのしなやかさが、花の茎とめちゃくちゃ重なるもんね。やばい。

 しなやかな身体と対比されて、「人差し指」が強調されているのもいいね。そうなんだよな、カメラを撮る手の人差し指って、めちゃめちゃしっかりしているというか。「世界が集結している」――修辞的誇張がまさに、ここに絶妙に使われているんだけれど、いやあ、良すぎだね。うん、よき(語彙力)。

 なにより、それがさあ、冒頭の「木の葉」のイメージと一貫してんだよな。なにより、主人公の名前が「朝香」っていう。――ああ、その名前、わかるううううううううう!! こんなにぴったりな命名もねえなってめっちゃ思った。
 それがめちゃくちゃ良くって……描写、マジでいいです。

 で、一番ヤバいのが、これら、やばやばな描写が、分かりやすい王道ストーリーを全く邪魔していないところ。むしろ、引き立てている。さっき言った、「木」とか「春」というテーマがしっかりしているから、めちゃめちゃ読みやすくって、ほんとすごい。
 ストーリーの分析は、ネタバレになるので書きませんが、言わずもがな良いです。正直泣きました。いや、あのキャラ良すぎんよ……。

 オススメです!!!!

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花とかけはし鶯