第78話 最悪の決着
最悪の決着
1904年 6月
急用で相模野空軍基地に居た、一晩明けた早朝に、その報告を受ける事になった。
最悪な報告である、ベルゼブブ殿より直に謝罪をされた吾輩は、一瞬完全に頭の中が空白になるのを感じ、次の瞬間、怒髪が天を突く思いであった。
「何・・・だと?」
「益田殿、誠に申し訳御座いません、私の攻撃範囲の外に逃げ出し隙を付ける者が居るとは思いませんでした。」
「過ぎた事は仕方が無い・・・しかし・・・許さぬ、許さぬぞ、レーニン! いや、べリア、我が娘を慰み者などにしようとするなら、貴様を切り刻んでみじん切りにし、烏の餌にでもしてくれよう! 誰が許そうと、吾輩だけは貴様を何があっても地獄へ落としてやる!」
今のレーニンの正体を知って居る吾輩としては、今のレーニンを更生して居る半分の魂たるべリアの極度のロリータコンプレックスやその他の異常な性癖を知って居る、知って居るからこそ奴が一知花に手を出さない筈が無いであろうとすぐさま認識出来た、人質に取るだけなら未だしもその人質を慰み者にするなど当たり前にやってのけるであろうと認識して居たのである。
そして、こんなに腹を立てたのは、記憶にある2回の人生の内でも初めてであった、人とはここまで怒れるものなんだと始めて認識した、これ程の殺意を抱けるものなのだと初めて知ったのである。
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一晩明けてしまった以上、今より支度をして追っても間に合いはしないだろう、ましてや乗り込むのであれば圧倒出来る程の装備を整えなければあれ程の物量を戦争に駆り出せる連中には勝てないだろう。
怒りの後、その感情を判断出来てしまった吾輩は、すぐに冷静になれた気がする、そして現在の個人戦力では娘を奪い返せない事に気付いてしまった。
そのまま考えを巡らせる・・・
「おい、見て居るのだろう?クロノス、そしてケルビムとか言う残念天使、面貸せよおめぇら。」
「ふ、そろそろ呼ばれると思って居ったぞ、益田、そして大方の用件は解ってる、答えは、お前の望む通りにしてやろうと言って置く。」
いきなり長めのセリフで普段無口なクロノスが姿を現す。
「残念天使は無いだろ、あの件は本当に反省して居るのだ、これまでも罪滅ぼしに多少の手伝いをさせてもらっては居たが、直接お主に頼まれるなら全面協力させて貰う事を誓おう。」
此方も長めのセリフで突然現れた、戦犯の智天使ケルビムだ、今は堕天してしまい黒い翼を称えている。
「これから、吾輩が死ぬまで残念天使には全面協力をして貰う、お前が如何に残念でも吾輩の肉体に受肉すればマシになるだろう、代わりに吾輩の知識外の知恵を貸せ、智天使と言う程だ、その位は出来るだろう?
クロノス、貴方には恨みは無いが、吾輩を気に入って居ると言うならばここで願いを聞き届け給え、残り寿命の分、6年だったか、過去に飛ばしてくれ、それだけで良い。」
「何だ、思ってたより欲の無い願いだな、てっきりべリアの魂を移している真っ最中に飛んでなかった事にしろとか言うのかと思って居たが。」
「いや、それでは既に事が起こってしまった今の吾輩の気が収まらぬ、奴だけは絶対に許しては成らん、いや、生かしておいては余のため人の為に害以外無い、奴の悪逆非道の全てを公表した上で血祭りに上げたいと思う程に吾輩は怒って居るのだ、自分の手で奴には止めを刺したい。 あいつは悪魔達よりよほど邪悪だ、あの存在を消し去る事こそ今世の吾輩の使命だろうとさえ思うほどだ。」
「ふむ、自分で決着を付けたいか、それも良いだろう、やはり面白い奴よ。 結果の如何に関わらず骨位拾ってやる、思う存分やって見ろ。」
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その晩、某所より謎の火柱が上がったと報告され、直後、クレムリン宮殿及び、ロシア軍中央基地は、突然上空より飛来した火の玉のような物体により地上よりその姿を消したのであった。
かつて宮殿のあったであろうその場所にはクレーターでも出来たかのように何も残らなかった為、大型の氷塊隕石でも落ちたのでは無いかとされ、研究対象となったが、数年間はその地には何人も足を踏み込めない状況になってしまったのだ。
勿論日露戦争は即時終戦、ロシアは無政府状態であったが、すぐにロシアと最も交流の深かったウクライナ監修の基、ロシア新政府が発足、彼らは全面降伏を認め、戦後処理に積極性を見せた。
しかしウクライナには、パリ・コミューンの幹部とされて居た者達が隠れ住んで居ると言う噂もあり、ロシア新政府もウクライナ自体も信用出来るものとは言えないであろう。
清国皇帝も自らの罪を認め、その進退を大日本帝国政府に委ねる事と成り、皇帝は退位、新皇帝には、親日家である孫文が任命された。
以降、益田修一の姿を見た者は居ない、唯一の手掛かりは、秘匿基地に残された遺書と取れる一通の置手紙であった。
彼は亡くなったと認識され、彼自身の建立した横浜神宮に、素戔嗚尊として祀られ神格化されて行く,今一度転生を許されている彼は、何者となるのだろうか。
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時は遡り6年前
-1898年 6月-
6年と言う歳月を遡った、自らの肉体に智天使ケルビムを受肉させた益田修一の姿が、皇居にあった・・・
「わははは、面白い事になったな、修一よ、随分老けた様だしな。」
「陛下、すみません、ちょっとした事件が起こりまして、私は6年後から時を遡って参った次第です、あまり先に何が起こるのかはお話しする訳にいかんので詳しい話は聞かずに協力をお願いしたいのですが。」
「詳細は聞かんよ、ただ、その堕天使さながらの黒い羽根だけは説明してくれるかね?」
「はい、これは、堕天した智天使ケルビムを受肉させた結果です、勿論仕舞う事も出来るのですが、現在この時間に元々存在する自分とは別の存在である事をお知らせする為にあえて出して居ました。」
「そうかそうか、それでそんなややこしい事に成ってるのか、飽きないな、お前は、で? 何を手伝えばいいんだ? お主を祭る神社でも建立してやろうか?」
「陛下のその手の冗談は冗談に聞こえんので辞めて下さい。」
「はっはっは、良いじゃねぇかちょっと位。」
「冗談はさておき、本題の話をします。 今より凡そ4年後に、本来のこの時間の私が、日本領になったばかりの開城山に人工衛星や宇宙ロケットを開発する為の秘匿基地を作るプランを持ち掛けるのですが、そのすぐ反対側に私の方の秘匿基地を建設したいのです、人足を集めてお貸し願いたい。」
「それは又何故だ?」
「それは事故の元凶を完膚無きまでにすりつぶす為です。」
「ふむ、やはりそうか、珍しくお主が怒りの波動をダダ洩れにして現れたので何かあるとは思ったが・・・」
「これは私が命を懸けて行う作戦です、未だこの時間の私は気付いて居ませんが、白血病が発症してしまった為にそう長くは無いのでこの残りの命をかけて奴だけは完全に消し去らねばならない。」
「ただ事では無いのだな、貴様のその覚悟、しかと受け取った、第六工兵師団を丸々貴様に貸し出してやろう、何を作る気なのかは知らんが、期間は4年で良いか?」
「いえ、3年で十分、いえ、2年半と言う所でしょうか、その位だと思います、それ以上掛かるようだと私の計画に支障が出ますから。」
「良かろう、任せろ、ところでお主と一緒に来たそれは、まさかとは思うが神かね?」
「はい、時限神クロノスですね、余程私が気に入ったらしく、間近で見て居たいと言うので仕方なく連れて来た次第です。」
「ほう、流石と言うべきだな、姿を消していたのに判るか、お初にお目に掛かる、時限神クロノスとは我の事である。」
「これはこれはご丁寧に、大日本帝国の王、とでも言えば宜しいでしょうか、睦仁と申します。」
「ははは、なぁに、あまり畏まるな、日本武(ヤマトタケル)よ、いや、前世の記憶は無いかな?」
っておいおい、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)の生まれ変わりだったのか、このジジイ!
「あ、バレちゃいましたか、つい最近まで自分でも知らなかったんだけどねぇ、そこに居る修一に出会って思い出したんだよね、少しづつだけど。」
「何だ、思い出して居るなら問題無いでは無いか、貴様も神の一柱となった存在ならば我に遜る必要はない、この修一なんぞは人の身でありながら我にタメ口ぞ。」
「ああ、こいつはそう言う奴だね、だがそこが心地よい。」
「確かに、修一に受肉したケルビムなんぞは残念天使とか言われて地団駄を踏んで居ったからな。」
「ははははは、修一らしい。」
「お互い、面白い奴を見つけたものだ。」
「先に見つけたのはサタン共のようだけどな。」
「えっとぉ・・・あの、お話が盛り上がってますが、俺は蚊帳の外っすか?」
「ああ、そうだったそうだった、わしの前世がどうであれ、お主には全面協力をすると決めて居る、安心してとっとと自分の成すべき事に取り掛からんか、時間無いのだろ?」
「ええ、そうでした、では早速開城山へ向かいます、早めに部隊の派遣して下さいね。」
「おお、任せろ、わしはこの珍しい客神と今しばらく親交を深めたいと思うので先に行って良いぞ。」
「うむ、我も後から追いかける、その羽根が有れば開城など一瞬だろ、先に行ってろ、ああ、それからな、こいつを持って行くが良い、貴様の顔を見立てる訳には行かなそうだからな、被って居れ。」
陛下が投げつけて来たのは、般若の面であった、吾輩の心の状態をうまく表して居る様なその面の顔には、妙な共感を得た。
「はぁ・・・」
なんかいつの間にか酒盛りになってたし、どっから出したんだあの酒・・・
だが、お陰で血が上って居た頭が多少冷えた様だ、怒りはそのままに冷静に成れた、この状態ならば最大級の結果を出せるだろう。
建物の外に出た吾輩は、面を付け、そのまま漆黒の羽を広げ、まだ一部建設中の対馬基地へと飛び立った。
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開城山付近へ到着した吾輩に、ベル殿が音も無く寄って来た。
「貴様、何者ですか?胡散臭い覇気を振りまいて何をしようとしてますか?」
「ああ、ベル殿か、俺だ。」
面を外すと驚きを隠せないベル殿は一歩後ろに下がった。
「な、益田では無いか、と言うか何です?その老けた顔、それにその黒い堕天使の様な羽根は。」
「俺は6年後から飛んで来た、今理由を言う事は出来ない、俺の事は見なかった事にしてくれ。」
恐らく6年後の話をすればベル殿のくそ真面目な性格ではショックを受けるであろう、ここは言わぬが花だ。
「判りました、クロノスに飛ばして貰ったのですね、何があってどうなったのかは聞かない事にします、後で楽しみが減ってしまいますから。」
「助かる、もうすぐクロノスも来るだろう、やけに気に入られた様だからな。」
「それでは、脅威では無いと確認が出来たので私は職務に戻ります、御武運を。」
そう言い残して、ベル殿は無数の蠅となり消えて行った。
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数日後、第六工兵師団が到着、それって対馬基地の建設に携わってたうちの一師団な気がするが間もなく完成だった筈なので良いのだろう。
隊長と思わしき人物が、佇んで居た吾輩の元へ走って来た。
「た、大将閣下・・・この軍服は見た事が有りませんが、陛下よりの勅命だったので信用させて頂きます、第六工兵師団、只今着任いたしました。」
そう、吾輩の軍服は今は未だ無い空軍の服なので見た事が無いのも道理と言うものであろう。
「よろしい、貴様らには、この山を刳り抜いて秘匿基地を作って貰う事と成る、期間は二年半、やれるか?」
「我等第六工兵師団、穴掘りは得意中の得意であります、お任せを。」
「よし、ではこれが建設予定の秘匿基地の全容である。」
建設プラン、図面を手渡すと、非常に心強い答えが返って来る。
「お任せ下さい、大将閣下殿は陛下勅命の秘密部隊を任されて居るとお聞きしました、その仮面は我々にもお顔を見せられないとも伺って居りますので、秘匿に関しても我々は一切口外いたしませんのでご安心を。」
「そうか、よろしく頼む。」
「は、全てお任せを。」
そして部隊より遅れること1時間程、MASUDAに発注してあった重機が到着。
「こんなとこで何するんですか?大将様、ひでぇ山ン中ですよ?」
「貴様ら民間人は知らんで宜しい、あまり詮索したり口外すると始末しなければ成らなくなるからな、余計な事は申すな。」
「え!そ、それだけは勘弁して下さい、土地が未だ安いんで女房子供と一緒に対馬県に移住して来たばかりだってのに死にたくねぇっすよ。」
「うむ、いましがたの詮索する発言は聞かなかった事にしてやる、くれぐれも秘匿するように。」
「有難う御座います、折角手に入れた仕事も給料も良いし運が向いて来たって時に殺されちゃたまんねぇっすよ、誰にも言いません。」
誰も吾輩が益田修一であるとは気が付かないようである、まぁそりゃそうだろう、腰のサーベルも奉納した叢雲では無く鬼斬刀義経だし、吾輩である特徴は何処にも見出せぬであろう、まぁベル殿が気が付かなかった程であるしな。
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それから凡そ1年
ごく稀に、例のウラン鉱脈の地質調査の為にやって来た自分自身とニアミスしそうな事は有ったが、ケルビムの天使としての能力のお陰で鉢合わせを免れている。
今はくりぬいた内側に混凝土(コンクリート)で壁を作ったり鉄骨で補強して内壁を築き上げていた。その後、居住区やコントロールルーム等の施設を区分けして作り上げて行く事となる。
一度山頂まで繰り抜いた山の頂はケルビムによって再現された山頂ゲートとなって居る。
上空から資材を運び込む事も可能では有るが、双発回転翼機でも無いと難しいので陸送して地下から運び入れている。
この進捗具合だと、もう一年もするとほぼ完成しそうである。
第六工兵師団、想像以上の腕利き建築家集団と言った体であった。
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更に一年が過ぎ
吾輩も暇を弄んで居た訳では無く、資材の管理や不足資材の発注は勿論の事、片手間に自分で建てたプレハブ小屋を利用して、第二秘匿基地(こちらの方が実際は先に完成して居る事には成るがあえて自分の中だけでこう呼称して居る)内部に運び込むための運搬ロボット、大型パーツ組み立て用アームロボット、大型マザーマシーンなどの研究開発に邁進中である。
これまでの開発等で失敗した理由が全て手に取るように判る程、頭脳は冴え渡って居た、これも智天使と融合した結果なのであろう。
この際なので秘匿基地専用スパコンも、自力開発してしまおうと画策して居る。
実際には今の吾輩であれば一晩掛けて説く数式でも2秒と掛からないので必要無いとも言えるのだが、吾輩並みの計算能力がある機械が複数台存在すればそれだけレベルの高い物が短期間に完成する可能性が高くなると言う訳である。
その上、半分天使になって居るとは言え半分は人である吾輩には睡眠が必要である、これだけは以前に数日徹夜して開発した物が殆ど失敗作であった事も踏まえ当然の事として学んだ結果なのだ。
吾輩が眠って居る間でも演算を続けられる存在は絶対的に必要なのだ。
事実、秘匿第一基地で開発して居た人工衛星打ち上げロケットの開発に成功した背景には性能が向上したスパコンとそれにリンク制御させたマザーマシンが重要であったと言えよう。
そして今、吾輩はあのスパコンを超える物を凡そ4年前の現在に実現させて居る、智天使の知識恐るべしと言った所であろうか、不足して居た知識を補完して余りある能力だった。
もっと早くに取り込んでおくべきだったな、と最近たまに思う。
あ、一応ケルビムに意識を渡す事も可能であるが、馴染んだ今、完全に吾輩が優位に立って居るのだ、吾輩が明け渡そうとしなければケルビムは出て来られないしケルビムが出ている間でも吾輩が拒否するだけでこっちの意識が表面化出来る、これ程までに優位性を持って居るのでケルビムは既に吾輩の一部と化していたし、翼でさえも吾輩の意志でいつでも出し入れ自在である。
今ならばかつて前世で開発してしまったが為に神の逆鱗に触れたアレを再現しても、天罰?ホーリーレイ?もしくはインドラの矢か?アレすらも吾輩を害せないのでは無いかと思う。
ただこの肉体は確実に死へと向かって居た。
最近、稀に突然意識を失う事が有るのだ。ケルビムがサポートに回ってくれて居る為そう長い時間では無いのだが、何かの折に突然意識を失うのを恐ろしく感じる事も少なくない。
環境科学から細菌学、微生物学、人間工学、生物工学、ありとあらゆる吾輩に足りなかった知識がこの智天使には豊富に在ったので色々余計な実験なども行って居た。
一度などは突然この建設現場で流行したチフスの特効薬を、効くとは分かって居ながらも念の為と効果確認試験投与の真っ最中に意識が飛んでしまい、ケルビムがとっさに代わってくれなかったら菌の培養床に顔面を突っ伏す所であった。
しかし、いかに知識が有っても白血病だけは骨髄適合者が見つけられる手段が無い事と骨髄ドナーと言う存在の認識が無いこの時代ではどうこう出来るものでは無い、数万人に一人しか適合しない骨髄を探し出すのは不可能だった。
もしも北里細菌研究所を立ち上げたあの当時からドナーを募集でき、尚且つスパコンによる適合骨髄の検証さえ出来て居れば何とかなったかもしれないが、そこまでやって居ればやり過ぎだろう、正にスパコンは聖遺物と認識されて居ただろう。
吾輩の肉体の死期だけはコントロール出来ないのだから出来る事を出来る限りでやる、これが最善である。
それはさて置き、予定の二年半を待たず、再来月辺りには完成する見通しである。
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本日、ついに第二秘匿基地落成となった。
今後吾輩はこの開城山地下大空洞に住まう事と成る。
第六工兵師団師団長に、この二年二ヶ月余りの彼らの働きや勤務態度の報告書をジュラルミンのアタッシュケースに入れ、陛下へ渡すように指示し、大本営への帰投命令を発行し、本土へ帰した。
彼らの働きは素晴らしい物であった上に勤務態度も上々であったので、全員に一階級以上の昇進申請と勲六等以上の勲章の授与を申請し報告に上げている。
第六工兵師団を見送った後に、この巨大空洞へと一人で入って見て、あの時の白昼夢は現実だったのだと理解し、あの時の”もう一人の自分が居たような感覚”も気のせいでは無かったのだと、今であれば理解出来る。
そう、この基地の隣に繋げる様に作る事に成った第一秘匿基地は、実際この第二と繋がって居たのである、そして第一を建設したのも第六工兵師団であると理解し、彼らは第二と対照的な構成で増築すると言う認識で建設して居たのだろう、もっとも彼らの認識では第一と第二の秘匿基地は逆と言う事に成るのだろうが。
第一秘匿基地を建設するに当たって彼らに挨拶をした時、只の工兵師団なのに妙に平均階級が高い事が気になって居たが、これで合点がいった。
彼らは恐らく、他国へ秘匿する新兵器の開発基地なのだと理解し、一切の情報を秘匿したのだ。
一介の只の兵士であろう彼等にとって、それは何があろうと秘匿しなければならない事である上に、秘匿し墓場まで持って行く事が既に名誉であったに違いない。
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そうして、ひたすらオーバーテクノロジーを生み出す為に孤独に戦い抜いた凡そ6年が過ぎた。
遂に隣にも秘匿基地が完成したようである、吾輩は暫く忙しくて完成直後から居る事は無かったので此方の施設も最後の追い込みとして使わせて貰う事にした。
これで吾輩が第一秘匿側にも出入りして居た事であの妙な感覚ももう一人の吾輩は感じるのだろうが、開発チームが着た後にも少し利用させて貰いたいのでケルビムの権能で姿を消しては居るが見つからないように気を付けて行動せねばならないだろう。
第二秘匿基地には現在、三種6本の中距離弾道ミサイルが完成している。第一ドッグに三本、第二ドッグに三本の計六本である。
三種六本と言うのは、完全に別の物が二本づつと言う事だ。
一種目はナフサを大量に搭載した傷痍ミサイル、もう一つがクラスターミサイル、そしてもう一種は、第二次大戦以降であれば条約違反と言われてしまうであろう、細菌兵器が搭載されて居る。
こんな物を作って迄どうあっても奴の息の根だけは止める気で居るのだ。
三つ目の細菌兵器弾とは、熱耐性を大幅に強化した炭疽菌を塔載した最悪な兵器だった。
我ながらここ迄の物を作ろう等と考えるとは流石に冷静と言うよりも冷徹になって居た、べリアを、レーニンを、広くはコミー達を人とは思って居なかったとも言える。
そしてそれは、事件直後に取り込んだケルビムの権能で思考加速と未来予測をしてはじき出した最善の方法でもあった。
そして遂に、この日がやって来てしまった。
吾輩はアパッチを模して作り上げた最高傑作の対地ミサイル搭載の戦闘ヘリに乗り込んで単身モスクワへと乗り込む事を選んだ。
見届け役として吾輩のお抱えパイロットの坂本君には吾輩の専用機で五分後に後を付けて来るように頼み、娘の救出を任せた。
そして出撃したのだった、秘匿基地に一柱の神を発射スイッチ係として残して。
クロノスはいい加減な奴では有ったが神は神、神が人を殺す事は当然の所業である、従って吾輩からの精神通話一言で何時でも中距離弾道ミサイルは撃ち出されるだろう。
事実悪魔よりも神の方が大量虐殺をして居るのだから多少余計な犠牲が出ようとそんな物は彼の与り知らぬ些細な事なのだ、躊躇わずにスイッチを押せる最も適任と言えるので、敢えてお願いしたのだった。
闇夜に紛れ、ヘリを飛ばし、モスクワ上空に差し掛かる頃に無音航行に切り替え、ロシア基地の司令部と思しき建物に二発のミサイルを撃ち込んだ後、クレムリン宮殿を目指した。警備兵を30mmのミニガンで一掃して行き、宮殿にありったけのミサイルを撃ち込んで、サブタンクに満タンのガソリンを抱えたままの機体を宮殿の塔最上段に突っ込ませ、吾輩自身は脱出し自らの翼で飛び、侵入する。
二丁のキャリコを携えて出て来る警備兵を片付け、どんどん奥へと突き進んだ。途中、数発の銃弾を受けるが、6年間温めて来た怒りで痛み等は殆んど感じなかった。
6本の弾倉を使い切った頃、とうとうレーニンの所在を確認した。
ケルビムのお陰で流暢に喋れるようになったロシア語で確認を取る事にした。
「おい貴様、レーニン、いや、べリアとか言う鬼畜の糞野郎はテメェだな?」
「フン、その風貌からして娘を助けに来た益田だな?」
「こっちの質問に答えやがれキチガイ野郎。」
「ああ、その通りだとも、しかし随分ボロボロだな、さぞかしここ迄来るまでに警備兵達とやり合ったようだねぇ? くくくく、それにしても遅かったじゃ無いか、見たまえ、君の娘だったかね? さんざん弄んだ上に今は既に虫の息だよ?ひゃっひゃっひゃっひゃ。」
「テメエその気味の悪い引き笑いをやめろ、この場で細切れに切り刻んで烏の餌にしてやる。」
吾輩、いや俺はそう言い放つと、鬼斬剣義経を抜く。
「おおっとぉ、既に瀕死だが、この娘をこの場で直ぐに殺す事だって出来るのだ、その剣を捨てろ、馬鹿めが!」
そう言い放ったべリアが銃を構えようとした瞬間に、ケルビムの権能の一つ思考加速で加速した反応速度で益田零年式拳銃が火を噴く。
べリアは抜きかけた銃をホルスターごと叩き落され、その手は空を掴み、慌てて壁に掛かって居たレイピアを取ろうと体の向きを変えた。そこに鬼斬剣義経を北辰一刀流の下段よりの一閃を放つと、レイピアを掴もうとしたべリアの左腕が跳ねられ宙を舞う。
次の瞬間、修一は回し蹴りを入れ、瀕死の一知花に駆け寄ると、全ての天使が持つ権能の一つであるヒーリングを行い一知花の傷を癒し始めた。
その間に右手でレイピアを掴んだべリアが修一の背後よりその凶刃を突き刺す。
既に相当の血を流してしまっていた修一の体力は既に限界が近かった為、膝を付いてしまう。
やはりこうなるか、流石は天使の未来予測演算だな・・・等と妙に冷静になって居る反面、ますますべリアへの怒りが抑えきれなくなるのを感じつつ、「テメエだけは絶対に殺す!」修一はそう叫ぶと愛刀で自分ごとべリアを串刺しにすると、そのまま最後の力を振り絞り、近くに迎えに来ているであろう坂本を探しに一知花を抱え歩き出す。
その間も、自分にはヒーリングを施さずとも一知花には施し続けた。
追って来るべリアは、レイピアで修一の太ももを刺すが、修一は
それでも止まらず歩いた。
「大将閣下!どちらですか!?」
坂本の声が聞こえる、割と近い、修一は一知花を預ける為に坂本を呼び寄せる。
「こっちだ!坂本、一知花を頼んだ、俺は未だやる事が有る、俺の事は待たずに一知花を急いで対馬県総合病院に運べ、後は頼んだぞ!」
そう言って一知花を安全そうな場所に寝かせるとべリアに向き直り、タックルをかます。
「おぉぉぉぉ~~!!」
奥の部屋へなだれ込んだ二人は、ひび割れて崩れかけた壁に激突し、壁は脆くも崩れ、辛うじてその壁に支えられて居た天井も崩れ落ちた。
薄れゆく意識の中で、修一は自らの手で止めを刺せなかった事を悔やみながら、クロノスへ思念通話を飛ばした。
『やってくれ、クロノス・・・』
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「大将閣下ぁ~!」
崩れ行く奥の部屋を眺めながら、一知花を抱き抱えた坂本は叫んだ、力の限りに叫んだ、が、答えは帰って来なかったのであった。
「くそ、ここも危ういか・・・」
坂本は涙を流しながら脱出を決意し、走り出す。
そしてヘリに戻ると、急いで飛び上がった。
少し離れた頃、上空に6本の火の柱が落ちて来るのが見えた。
「大将閣下・・・どうか安らかに・・・」
方向転換しかけたヘリの窓から見える宮殿に6本の火柱が落ち、爆風が届く直前までその様子を見つめ敬礼をする坂本であった。
-------------------------
翌日、一知花は帝都総合病院のベッドで辛うじて意識を取り戻す。
瀕死であった彼女は、自分を助け出したのは父であると知って居た。
父の声で坂本を呼び自分を連れ帰れと指示を飛ばすのが聞こえて居たのだそうだ。
数年後、彼女はまだ幼いままに仏門に入り尼僧となる・・・
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坂本はこの後、修一の計らいで陛下より直接に、異例の出世をし、相模野空軍基地臨時令官となった。
何があったのか、彼ならば知って居たであろうと思われるが、彼はその口を一生開かず、墓場までもって行ったのである。
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モスクワはその存在を地上より消してしまった、謎の隕石と思われる何かが落下し、巨大なクレーターになって居た。
そしてその隕石に含有して居たと思われる細菌により、すべての生物はそのエリアに踏み込めば数日後には必ずまるで石にでもなったかのように炭化して召されてしまった為である。
それは8年近くも、何人たりとも近づける事は無かったと言われている・・・
---第一部・完---
吾輩は神によって殺され悪魔の手によって過去に蘇った 赤い獅子舞のチャァ @akaishishimai
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