5−3

 島を離れる前には監察局の隊員に申し送りをした。わたしがここで得た情報によって、ミヅキ氏が残した告発データが真実であることが証明されるはずだ。

 全ての伝達を終え、港(帰りは絶対に空路は避けたかった)へ向かう途中、あの廃村へ再び足を向けた。きのうと同じように背の高い草むらを抜け、砂利道を辿って集落へ入る。小高い丘を上がっていく。

 群青色の静かな海。吹き渡る風。手前では青々とした草むらが揺れている。見渡せる景色にきのうと変わりはなく、違うことといえば隣にミヅキ氏がいないことぐらいだった。

 そうした景色に背を向け、わたしは崩れかかったシーソーに近づいた。板を押してみると、金具が軋みながらも、反対側に傾いた。何度か上下させ、すぐには壊れそうにないことを確かめてから腰掛ける。

 シーソーに乗ったのはいつ以来だろうと考える。いつどころか、乗ったことがあるかどうかも定かではない。

 誰かがいなければできないことに関しては、いつもこうだ。

 わたしは板に跨がる形で座り直し、誰もいない正面を向いた。

 錆びきった手すりを掴み、足下に力を入れる。

『誰か座っているように表示しようか?』

「いらない」

 地面を蹴る。

 ふわりと浮き上がる感覚。

 程なくして地面に引き寄せられたが、確かに一瞬だけ、宙に浮くような、空へ投げ出されるような感じがした。

 遠くまで行けるような気がした。


〈了〉

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水面の月 佐藤ムニエル @ts0821

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