5−2
所長を乗せ飛び立っていく輸送機を、わたしはミヅキ氏と並んで見送った。本来であれば彼女が一番に島を離れるべきなのだが、負傷者搬送用機の到着が遅れているため待ちぼうけを食らっていたのだった。
ストレッチャーの上で半身を起こしたミヅキ氏は、小さくなっていく輸送艇をいつまでも見つめていた。その横顔に浮かぶ表情は、決して晴れやかなものではなかった。
「大変なのはこれからね」やがて彼女は、ポツリとそう言った。
わたしは小さく頷いた。
「たぶん、あなたにも出頭命令が出るかと思います。取り調べや、法廷での証言で」
「もちろん、覚悟はできているつもりよ。そうでなければ、こんなことはしないもの」それに、と彼女は続ける。「今まで耐えてきた日々に比べたら、大したことないわ」
彼女は肩を竦めて笑った。わたしも合わせて笑った。
「ありがとう、タマキさん。あなたには本当に助けられた」
わたしをここに誘ったのは〈件〉に何らかの働きかけをしたクジラたちで、更に元を辿ればあの人だ。そうした事情をミヅキ氏は知らないし、知る必要もないだろう。そもそも、どこから説明するべきか、どう説明すれば納得してもらえるか、わたし自身わかっていない。今はまだ〈余程の事情〉にしておくべきなのだ。
彼女を搬送する機体が到着した。速やかに着陸し、後部のハッチが開かれる。
「あなたはその仕事、とても向いていると思うわ」
「あまり嬉しくないですね」
「自信を持って」
救護隊員が二人やって来て、わたしは彼らにミヅキ氏の容態を伝える。ストレッチャーは運ばれていき、彼女を乗せた機体が、所長を乗せた輸送艇と同じコースをとって飛び去っていく。
わたしは、機体が完全に見えなくなるまでその場に立ち続けた。
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