第53話 いのちのしずく
拝啓
星乃雫様。
なんて…柄じゃねーよな。
お前に手紙を書いてること自体、俺の柄じゃないけど。
けど…言葉じゃもう、
星乃に伝えることが出来ないので、ここに記します。
どうか……天国でゆっくり読んで下さい。
葬式会場
「この度は…お足元の悪い中、雫のためにお越しいただき、誠にありがとうございます。」
星乃の父ちゃん…初めて見た。
「雫は……小さい頃から、重い病と闘っていました。」
……辛かっただろうな。
今はちょっと、楽になったのかな。
「うっ…うっ……。うぅ……。」
杉原…
そうだよな。
杉原も克樹も……何も知らなかったんだもんな。
「今日は本当に……本当にありがとうございました。」
立派な父ちゃんだ。
一番悲しいはずなのに…。
「それでは…故人様との、最後のお別れとなります。……」
なぁ……星乃
覚えてるか?初めて会った時のこと。
ずっと好きだった杉原に振られて、
俺は死のうとしたんだ。
今思えば馬鹿な事したなぁって思う。
けど、星乃は必死に俺を止めてくれた。
ほっとけないって言ってくれた。
だけど、その時の俺はお前のことを見ようとはしなかった。
友達のいない、おせっかいなやつだと思っていた。
「隼斗…。俺らの番。」
「………おう。」
改めて見ると、大きな会場だ。
知らない人が沢山いる。
多分、星乃の親戚の人達だろう。
けど…驚いた。
それに負けないくらい、同級生が沢山来ていたから。
見たことない制服だ。
星乃…転校ばっかりだったって言ってたもんな。
友達がいないなんて……噓じゃねえか。
見ろよ星乃…。
お前のために、こんなに大勢の人たちが集まってくれたんだ。
愛されてたんだな…。
「雫ちゃん…笑ってるね。」
「そうだね。いつもの星乃だ。」
遺影の写真は、
杉原と克樹が選んでくれたんだ。
父ちゃんと母ちゃんも喜んでたぞ。
「佐野くん…。」
「……!」
「佐野君、ありがとね。雫もきっと喜んでるわ。」
星乃の母ちゃん…。
「最後に…ちゃんとお別れ言ってきて。」
「はい…。」
星乃…
俺はいつもお前に助けられていた。
いつも励まされていた。
いつも勇気をもらってた。
いつも…笑ってた。
いつの間にか、星乃といる時間が楽しくなっていて…
自分でも、よくわからないけど…
星乃がいないと…つまらなくなった。
それだけ星乃といる時間が、俺にとってかけがえのないものになっていた。
「故人様に、お花を添えてあげてください。」
星乃…
お前って花好きか?
生きてるうちに聞いておけばよかったな。
だって…花粉症だったら、
たまったもんじゃないだろ。
俺だったら怒るぜ。
もし俺が先に死んでたら…
星乃はきっと、
俺の棺桶にベアバンのチーズバーガーとか
入れてくるんだろうな。
「ねぇ佐野…雫ちゃん、今笑った気がする。」
「隼斗の夢でも見てるのかな。」
「いつも笑ってんだろ。」
星乃…
いま……笑ってるか?
俺は……
…………。
『私は、佐野くんの事が好きです。』
『……。』
『……。』
『えっとー…。』
『あーーー!スッキリしたー!』
『なんだよ…それ。』
『ずっと言いたくて、我慢してたから。』
『ずっとって……。そんな前から?』
『うん。そうだよ。』
全然……気付かなかった。
『だから…デート?』
『うん。……そうだよ。』
『そっか……。』
『……。』
『夕陽……綺麗だな。』
あの時…俺は素直になれなかった。
どこかで…また明日があるって思っていたんだ。
だけど……もう俺の声は星乃に届かない。
ごめんな。
星乃。
「隼斗。」
「佐野…。」
あれ……。
あれ……?
涙が……
勝手に……
泣かないって、決めていたのに…。
「星乃……。星乃……。」
もう……呼んでもお前は戻ってこない。
「星乃……。星乃……!」
なんで……なんで……
なんで……星乃なんだよ。
神様の…
馬鹿野郎。
実感がまだ湧かない。
またいつものドタキャンだって、そう思いたい自分がまだいる。
「隼斗…ベアバン行くか?今日は俺が奢るよ。」
克樹なりに気使ってくれたんだな。
「わりぃ。行きたいところがあるんだ。」
「……そか。」
「佐野…私でよかったら、いつでも佐野の力になるから。」
「…杉原。」
二人とも…。
「ありがとう。」
かけがえのない…大切な友達。
(ガタンゴトン…ガタンゴトン…)
ここに来ると、星乃に会える気がした。
俺の手を強く引っ張って…
って…別に今はもう死にたいなんて思ってねえ。
むしろ生きたいって思う。
星乃の分も…
一生懸命。
「佐野くん。」
「……!」
(ガタンゴトン…ガタンゴトン…)
『……星乃?』
『どうしたの?またこんな所にきて。嫌なことでもあった?』
幻想…だよな。
それくらい…分かってる。
『星乃…ごめんな。俺…星乃の気持ちにちゃんと答えられなかった。』
ごめん…星乃。
『俺はいつも、肝心なところで素直になれない。』
『佐野くん…。』
『星乃…ごめん…ごめん…。ごめんなさい。』
『謝らないで。佐野くん。』
『星乃……。…だって……だって俺…』
『佐野くんは悪くないよ。何にも悪くない。』
『……星乃。』
『悪いのは……私の体だけだよ。』
また……星乃に救われた。
最後の最後まで。
『佐野くんは、素直じゃないし、時々口が悪いし、負けず嫌いなところもあるけど』
星乃……。
『全部含めて、大好きだったよ。』
星乃は…
いつもわがままで、素直で優しいやつだ。
俺は……
遮断器が上がった。
「星乃…。いままでありがとう。こんな俺と一緒にいてくれて…命を救ってくれて…思い出を沢山くれて…幸せを与えてくれて…俺のことを…好きになってくれて。」
星乃…
俺は……
そんな星乃のことが
大好きでした。
俺の元に落ちてきた『いのちのしずく』は、
とても綺麗で儚くて、かけがえのないものだった。
当たり前に過ぎていく時間は、決して無限にあるわけじゃない。
いつかは終わりの時が来て、それでも時間は流れていく。
自分の寿命なんて、誰にもわからない。
だから俺は、今日を精一杯生きようと思う。
生きてて良かったって
笑って明日を迎えられるように。
いのちのしずく 完
いのちのしずく 志人 @aicemilk
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