第6話 想いのタケ、ノコ

 ある春の朝。

 鳩子とパパ、そして鏡くんの三人は近所の小さな山でタケノコ掘りツアーなるものを堪能したのだった。


 そして掘り起こしたそのタケノコたちを、家の縁側にバラバラ~と散らばらせると、鳩子は一つずつプレゼント用ラッピングで包もうと奮闘し始めた――までは、よかったのだが、横で手伝っていた鏡くんの方が何倍もスムーズにその作業を進めていったため、秒で鳩子はふてくされてしまったのだった。


ぽっぽ、、、。やるんなら、ちゃんとやりきれ」

「だって、鏡くんみたいにいかないもん!」

「教えてやるから」


 ――そんなこんなでタケノコ入りのプレゼントが何個も出来上がっていった昼頃、なんと鳩子はそれらを「吹雪くんに持っていく」と言い出したのだった。

 パパは「ひぇっ」とドン引きしながら、鳩子にたずねた。


「本当にそれ、持っていくの?」

「うん!広見ちゃんからの≪こどもポッチ≫によれば、もう皆、吹雪くんの家に待ってたり、家の前にプレゼントを置いて、逃げたりしてるみたいだから。はーちゃんも行ってくる!――ついてくる人、この指とまれ!」


 シ――ン。


「なんでよ!今日は吹雪くんの誕生日なのよ?祝ってあげようよ」

「あのさ~『ありがた迷惑』って言葉知ってる?はーちゃん」

「べーっ!そのくらい知ってるもん!アリンコの形をしているくらいの小さな迷惑なら、迷惑のうちに入らないってテレビで言ってたやつでしょ!」

「えぇっ何そのテレビ、ぶっ壊さないと」


 全く、イマドキのテレビというやつは。

 それはさておき、この「プレゼント・フォー・吹雪くん作戦」なのだが――結局は、普段はインドア派のパパがこの日は折れて、鳩子と鏡くん、そしてキラキラに包装されたタケノコたちを車で運ぶ運びとなったのだった。パパは七歳児たちだけで冒険させるのもアリかと考えていたのだが、さすがにタケノコたちは重いので、心配になったらしい。


 ◇


 女の子たちが、吹雪くんの大豪邸の前で「わーきゃー」と叫んでいる。そのどの子も手にも、可愛らしいプレゼントがあった。

 普段は他人の目を気にしてしまう鳩子なのだが、なぜかこの時だけは全く気にせずに、キラキラに包装されたタケノコたちを腕いっぱいに抱えこんだのだった。


 吹雪くんの家のインターホンをポンポコポンポコとならしていく女の子たちには、さすがに教育が必要だ。だがしかし、古風ふるかぜ家の鳩子に限っては大丈――。


 ピンポーン。


「あの、ふ、吹雪くんいませんか?」

「ちょちょちょちょ~っと、はーちゃん!――はーちゃん、ダメだって!」

「え?なんで?いつものことだよ?」

「そんなことしても、この数の女の子を前に出てくるわけないでしょ」

「出てこないのもいつものことだもん」


 そんな鳩子とパパのやりとりを見ていた鏡くんは深くため息をついて、しゃがみこんだ。彼は彼で、心の中で今までの労力分の計算をしているのだった。そしてひとしきり計算し終わると「――おい、帰るぞ」と、二人に声をかけた。

 しかし、吹雪くんの誕生日を前にした鳩子がそう簡単に引き下がるわけもなく――。


「どうして?!タケノコは鮮度が命なのよっ?」

「そうだけど、そういう問題じゃないだろ」


 ズルズルとパパと鏡くんに引っ張られ退場させられながら、鳩子は必死に叫んだ。それはもう、ものすごい形相で。


「いやだぁ!はーちゃん、まだ帰らない!イヤァアッ‼」


 こうしてタケノコたちは吹雪くんの家の前に半ば置きざりとなったのである。

 しかしこのタケノコたちの包装紙には『おもいのタケです。はとこより』と書かれており――後日、中身とともにそれを見た吹雪くんは「ブッ。誰が上手いこと言えと」と一人、ふきだしたのだった。

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帰れぬ天使 ぐーすかうなぎ @urano103

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