第2話 サイン

 鳩子が立ち入り禁止の公園に入ると、そこには案の定、鏡くんがいた。

 彼は砂場で砂をいじっていた。


「ねぇ、鏡くん。はーちゃんの≪こどもポッチ≫にイタズラしないでよ」

「……」


 鳩子の言う鏡くん、こと久楽持くらもちかがみは、いつも無口で何を考えているかわからない、そんな子だった。

 よく周りの子とケンカをしていて、特徴はいつもサイズの合わない服や靴を身に着けていることだろうか。ちなみに今日はダボダボの赤いTシャツを着ていた。


「なぁ、ぽっぽ、、、

「はーちゃんって呼んでっていつも言ってるでしょ!それから鏡くん、夜は寝ないとオバケ出るんだから!ダメじゃない!」

「吹雪のところに行くんだろ」

「え?あれ?なんで知ってるの?」

「ん。これ」


 鳩子がわけもわからないまま受けとったのは≪こどもポッチ≫だった。戸惑いつつ「?」をいっぱいにして、クルっと裏返したりしてみたりしつつ、鳩子は鏡くんにたずねたのだった。


「?――ここのコレ、名前が書いてあるのかなぁ。なんて読むの?」

四夜よや吹雪ふぶき

「えっ?それじゃぁ、この≪こどもポッチ≫って吹雪くんの?」

「ん。間違えて拾ったんだ。――それから、コレ」


 鳩子が鏡くんから受けとったのは、またまた≪こどもポッチ≫だった。

 それは先ほどのものと同じ色、形をしていた。鳩子には何が起きているのか、わからなかった。


「コッチはオレの≪こどもポッチ≫。でもいらないから、オマエの父さんに返しといて、、、、、、、、、、、、、。じゃぁな」

「――あ、待って」


 鳩子は去っていく鏡くんを見てモヤモヤした。そしてなんだか拍子抜けしてしまい、鳩子は吹雪くんの家まで行く気持ちがなくなってしまったのだった。


 ◇


 簡易に舗装されている坂をのぼった先に、ボロい一軒家がある。そこが鳩子の家だった。ちなみに縁側つきだ。

 早々に家に帰って来た鳩子を「お帰り~、はーちゃん。早かったね~」とパパはむかえたのだった。

 しかし、鳩子は怒っていた。


「どうしてはーちゃんに内緒だったの?!」

「え?な、なに、どうしたの、はーちゃん?」

「だって鏡くんの≪こどもポッチ≫……コレ、パパが渡したんでしょう?」

「そうだけど、え?それがどうしたの?」

「夜中には≪こどもポッチ≫しちゃダメだって言ってたのに、どうして鏡くんには何も注意しないの?いっつも、鏡くんから夜中に二十件も着信あって」

「――!、はーちゃん、それいつから?」


 今度は鳩子が驚く番だった。パパが真剣な顔してる。「い、一週間くらい、かな」と、その気迫に押されつつ正直に答えると、パパはスマホを片手に――ガタガタン‼と外へ出て行ってしまったのだった。しかし、すぐに一度だけ戻って来た。


「はーちゃん!今日はカレーがあるから、それ食べてね。それから、歯磨き、お風呂で、おやすみなさいだよ?パパちょっと出かけてくるから」

「う、うん?」


 その翌日の朝は鳩子にとって、驚きの連続だった。

 ニコニコしてるパパとパパの友達たち、そしてなぜか無口で無表情の鏡くんも鳩子の家に来ており――。


「おはよう~、はーちゃん」

「おはよう。パパ、嬉しそうだね。でもどうして鏡くん、来てるの?お泊り会?」

「あー、鏡くん?いやね、前々から話を進めてたんだよ。この子、昔のパパにそっくりだから。さぁさ、朝ご飯だよ」


 話を進めてた?何の?――とは、なぜか鳩子は切り出せなかった。それは、鏡くんに直接関係のあることだと彼の表情で感じたからだ。


 その後、てっきり鏡くんはお泊り会だと思ってた鳩子は、その日から毎日毎日家で出くわすようになった彼に、その都度ビックリしたのだった。

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