第3話 恋の羽根

 朝。

 もはや鳩子は、家で鏡くんと出くわすのをワクワクしていた。未だに新鮮らしく、パパに対するリアクションとは雲泥の差だった。


「うおぉっ?」

「驚きすぎ」

「鏡くん、本当にうちの子になったの?なったの?なっちゃったの?」

「安心しろ。ちゅうがっこーそつぎょーしたら出てく」

「えぇ?!そう言わずに、しょうがっこーそつぎょーまでいてよ」

「なんで名残り惜しそうに短くすんだよ」

「ごめん、よくわからない!短くって何?髪の毛のこと?ねぇ!」


 ドタドタと縁側を通りすぎていく二人。そしてそんな二人を庭の木と同化しながら見送ったパパは「青春だね~。でもパパを忘れないでね~。はーちゃん……」などとボヤくのであった。


 ◇


 最近テレビでは連日『道すがら、天使を見かけることが増えた』などと放送されている。パパはそんなニュースを見ると「そっかぁ、もうそういう時代が来てるんだな~」と、なぜか訳知り顔でニコニコした。

 中には偽物の天使――コスプレイヤーなるものもいたが、そういったものだって決して悪いものではない。まぁ、場合によりけりではあるが。


「ねぇ、はーちゃん。はーちゃんは将来、何になりたい?」

「はーちゃん?はーちゃんはね、吹雪くんのお嫁さ」

「ごちそうさま。ありがとうございます」


 鳩子をさえぎるようにして鏡くんが朝食をたいらげてしまった。パパは「え?も、もう?」と念のため茶碗をのぞきこんだりしたが、どれもスッカラカンだったため「早いね~」などと感心したのだった。

 それを見た鳩子も張り合うようにして勢いよくご飯をかきこんだが、結局はむせてしまい、「はーちゃんはゆっくり食べなさい?」とパパから注意を受けてしまうのだった。


「ケホケホッ。そうだ。はーちゃん、吹雪くんに笑ってもらえたんだよ?」

「わかったから、落ちついてから喋りなさいって」

「ゴクン。もう大丈夫――あのね、鏡くんが拾った≪こどもポッチ≫は、実は吹雪くんのでね、それをはーちゃんが届けたから、それで笑ってね」

「あーもう、ほっぺにご飯粒。よかったね~」


 ◇


 夜。

 縁側には、眠そうに鏡くんが座りこんでいた。

 そしてそんな彼を呼び出した鳩子とパパは、「今日は新月!新月、新月!」と、なぜかだだっ広い庭で大喜びしていた。


「鏡くんや、新月といえば?」

「月が」

「ちがーう!違うんだなぁ。天使の羽根占いの日だよ!」

「天使……。ぽっぽ、、、が天使と人間の子だっていうのと何か――」

「鋭いね。そーなんだよ!君も古風ふるかぜ家の一員だからね。隠すのも変だろ?――はーちゃん、いいよ」


 その合図を始めに鳩子はパパの手をギュっと握って目を閉じ、何事かを呟きはじめたのだった。


「羽根ちゃん、羽根ちゃん。――吹雪くんの気持ちを教えて」


 やがて、鳩子のいる地面がパアァッと光りだした。それに気づいた鏡くんは驚いて、飲みかけたペットボトルのお茶を落としてしまう。

 鳩子はグウゥッと背をかがませ、何か、、が出るのを待っている――。

 そして――……。


 バサァァア――ッ‼


「「っ!」」


 次の瞬間、パパと鏡くんは同じように目を見張った。

 鳩子の背からはえた、、、羽根――。それは……骨と、破れた皮だけの、壊れた傘のような羽根で、大人のパパでさえ怖い印象を受ける痛々しいものだった。鏡くんにいたっては「鳩子は本当に天使なのだ」という二重の衝撃があったはずだ。


 しかし鳩子――、彼女の方がそんな彼らより、はるかに衝撃を受けている様子だった。「吹雪、くん……?」と、なぜか、、、自分自身にはえた羽根を見るでもなく、放心していた。

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